1話‐初めの一歩
あげた右腕を勢いよくふり下ろす。
「火の踊り!火の槍!」
きっと魔術は使えるようになるはずだ。
おれだって練習さえすれば、きっと。
「どりゃーー!!」
叫びながらの華麗なステップ。右前に飛び、左後ろにさがる。
そして思い切り空を見上げる。頭がくらくらしたが、今はそれどころではない。
「オレは!絶対に!魔法使いになってやる!」
家の庭でふんとうするおれを見て、あぁ、またか。という目をして通り過ぎて行く人が見えたがそんなこと気にしてられん。
「“素”よ、われに力を………」
空に手をかざし、“素”を集めようとふんばる。
が、どうやらそっぽを向かれたようだ。
「はぁ、何がいけないんだ…」
その場に足をかかえ込んで座り、空を見上げた。
「空が、青い……」
空は、好きだ。特に雲ひとつない空が、大好きだ。
いつでも目がちかちかするほど青くて、おれに「勇気」をくれる。やる気になる。
「がんばるか…」
そうつぶやきおれは、座ったまま体をぐーっと縮めた。
それでおもいきりからだをのばし、その反動でピョンと立ち上がる。
大好きな青空を見上げ、手をかざす。
そしていつもの通り叫ぶ。
「フレイマーランスゥ!雷の斬撃!!」
「おう、蓮!今日も元気だな!はっはっは!関心関心。」
「うおっほい!?」
とつぜんかけられた声にびっくりしなかったと言えばウソになる。
変な叫び声をあげてしまったこともあり、おそるおそる声の聞こえた方へ目を向ければ。
「おじさん!」
にこにこともう見なれたてれてれのジャンバーをはおり、てれてれのズボンをはいたおじさんがいた。
魔術の練習をしているおれを見て、変なものを見る目で見ないでくれる数少ない人の一人だ。
今日はおじさんに会えた。いつもより練習がんばるか。
おじさんに会うとふしぎとがんばろう、て気持ちになれる。
おどる胸にこんにちはをして空に手をかざす。
***
「おや、蓮は精神集中をしないで魔法を使おうとしているのかい?それはちと難しいなぁ。」
しばらくおれの練習すがたをながめていたおじさんが急に口を開いた。
しかしその口から出てきた聞いたことのない言葉に顔をしかめる。
「すぴる…?」
口に出してみるとよけいに意味がわからない。
どこかで聞いたような気もするが、昨日読んだ本か。いや、この前の本にも書いてなかったか。
「スピル・ダンス。正式名称はスピリトス・インダンシオ。魔法の基本じゃぞ。」
首をかしげたおれにやさしく教えてくれる。
スピリタス・インガンジオン…基本?
つまり、おれは基本ができてないのか。
これはもうおじさんにきくしかないだろう。
「おじさんっ!スピリトーク・インガンビノ、て何?それをすると何がおきるの!?」
おもわず力が入ってしまった。
おじさんは落ち着きなさい、とおれの体を押しもどす。
「スピリトーク・インガンビノ、でなく、スピリトス・インダンシオ、だ。」
どうやらおれが言ったのはまちがっていたらしい。
注意深く声に出してみる。
「すぴりとす…?」
「インダンシオ。」
「いんだんしお。」
おじさんのまねをしてみる。これじゃおじさんが先生みたいだ。
「スピリトス・インダンシオ。」
「スピリトス・インダンシオ……!」
「略してスピル・ダンス。」
「すぴるダンス……スピル・ダンス!!」
きちんと言えた……気がする。
まずは一歩。
第二歩目。
「じゃあ、これにはどんな効果が?」
きらきらしているであろうおれの目を見ておじさんは優しくほほえんだ。
「精神集中をする。魔術を使う上で、かなり、大切になるぞ。これをせんで魔術を発動させるなんて、熟練者でも難しいのう。」
そうだったのか。
どうやらおれは魔術使えるうんぬんの問題ではなく、そうとうなバカだったみたいだ。
そう言われてみればどの本にもおじさんが言っていたようなことが書いてあったようなないような……
しかし、と、いうことは…
「おじさんっ!おれにも魔術、使える…!?」
おれは今の今までスピル・ダンスの存在を知らなかったわけで。
それなら魔術を使うなんてできなくて。
おれに才能がなかったわけではないということだ。
しかもおれは今まで普通の人がやらないような…超超じゅくれんしゃの人がやるような修行をつみかさねてきて、イコール。
「おれはできる男なのかっ!!」
「なぜそうなるんじゃ。」
違うの?とおもわず言ってしまった言葉に、おじさんは苦笑する。
だって、超超超じゅくれんしゃの人がやる修行をつんできたのに…?
立っているおじさんを見上げると、優しそうな目と、目があった。
「蓮の、努力次第、じゃなぁ。」
「おれ、の?」
おれの努力次第。
努力すれば。
「そしたら、魔術を…!」
わくわく、する。
おじさんの口が開くのを待った。
こういう時間が長く感じるのは、おれだけじゃ、ないよね。
「使えるかもしれんなぁ。」
使える、魔術が。
ついに。
なんとしてもスピル・ダンスを習得しなければ。
「おじさん、スピル・ダンスのやり方を、教えて、くれますか?」
自分の声じゃ、ないみたい。しぼり出した声はおじさんに届いたか。
心臓がばくばくうるさい。
手が汗ばんで気持ち悪い。
でもそれ以上の期待。第三歩目をふみだせるか。
おじさん、おれの望む応えを、ちょうだい。
「無理じゃな。」
………え。
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
むり、て言った?
おじさん今むり、て言った?
「なんでどうしてむりなのおれのまわりで希望あるのおじさんだけだよおじさん教えてくれなきゃおれに未来はないよ教えてよおおおぉぉ!」
言いきったところで大きく息を吸う。
ばっ、とおじさんを見ると、困ったような顔をしていた。
最後の望み。
「おじさん、お願いしますっ!」
腰で身体を直角に折る。
「蓮、顔を上げてくれ。」
上から降ってきた優しい声と肩に置かれた手のぬくもりから、折っていた身体を元に戻すと、おじさんは顔からかなり困ってると分かった。
おれの視線を受け、苦笑しながら口を開いた。
「わしも教えられれば教えたいんじゃが、わし自身、これをやったことがなくてな。残念じゃが教えられん。」
ああ、そういうことか。
頼みの綱だったんだけどな。
でも、ずいぶん迷惑かけちゃったな。急に教えてくれー、なんて言われたら誰でも困る。
反省、反省。
「おじさんわがまま言っちゃってごめんなさい。…やっぱり、あきらめるしかないのかな、マレリカ。」
よし、反省終了。
でも、残念だな、がんばって努力してきたのに。
スピル・ダンス…か。
一度でいい、このさい一度でいいから魔術を使いたい。
この前読んだ本の筆者さんは言ってたぞ。
「魔術は使う瞬間のあの身体の力が一点に集中する感覚がいい。最高だ。はじめて使えたときの感動はでかかったなあ…。」って。
おれも、その感動を味わいたい。素晴らしい快感を。
「蓮。」
名前を呼ばれ、顔を上げるとおじさんの顔が映った。
「おじさん……。」
おじさん、おれ、魔術を使ってみたい。
どれだけ時間がかかってもいい。努力が必要なら、たくさん努力する。
だから…
「おじさんの知ってるスピル・ダンスの知識をおれに、教えてください。」
本当に最後の望み、おじさん、お願いします。
「蓮、何もわしに教えてもらおうとしなくても、いいじゃろ。もっと分かりやすいのがあるぞ……本が。」
……本?
本に、書いてあるの?
「えっ、本にスピル・ダンスの知識が…?」
「たくさん書いてある。何しろ基本じゃからな。」
初知りだ。本にそんな、スピル・ダンスの知識が満載だったなんて。
ということは、つまり。
「本を読んで練習すれば、おれにも魔術が…!?」
「使えるだろう、がんばり屋の蓮ならきっと。」
魔術が使える、魔術が使える、魔術が、使える……!!
やっと、やっとだ。
やっときざしが見えてきた。
「頑張れるか?」
おじさんの質問への答えはもう、決まっている。
おれ、第三歩目を、踏み出せ…!
「もちろん!おれ、がんばるよ!!」
投稿までに時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。
時間がかかった割につたない文章で、本当に申し訳ありません…。
なるたけ、はやめの更新を心がけます。
お読みくださり、ありがとうございました!