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2011年・2012年

落下教室

「今日も××さんはお休みですか」と担任教師は言う。

白球を追いかけるだけが青春ではないと体育教師は言う。

僕には錆びたナイフを脈に当てるほど自殺念慮はないけれど、

切断された自我を修復するのに解熱剤じゃ足りないだろう。

学校生活なんて無価値な校歌斉唱と杜撰な教師の自己中心行動だけ。

純粋な教誨もなければ広い青空への大回游もできない。

時間だけが無意味に過ぎる。子ども達の花壇に歪みが生まれ犯罪への門を開ける。

火炙りされる大人たちは痛みを受けつつ、どうでもいい顔を浮かべる。

暇を持て余す死霊は「ざまあみろ」と讃美歌を奏で、最悪な時間割を決める。

それに感化され、介錯も知らない君は動物虐待を繰り返す始末。

猫の首を手作りの断頭台に架け、電波不安定とともに手を離し無責任の唾を吐く。

そのくせ、矮小な背丈でなんとか生存しようとするのだ。蜘蛛の糸を掴んでいる。

屋上に自らの解放を謳った幾何学模様を描くが誰にも理解されずに終わる。

SOS信号は無に収斂した。花車な身体を小さく折り畳み、その重要な背骨すら曲折させる。

君は文学を読み漁り、因果を呪った。どうしてヒトは大人になるのだろう、と。

僕は夢を見ないあなたたちに言いたい。科学を信じない科学論者に言いたいのだ。

僕たちのことを安い酒のように存在する意義がなくとも、脳味噌を輪切りにしないで、と。

有害番組ばかり眺める僕たちだけど、ノコギリの刃を向けないで、と。

存在が下手くそな僕たちはそれぞれのお花を咲かせて散らすだけさ。

それを大人たちが花粉症だからといって煩わしそうに邪慳に扱わないで、と。

牽強付会な理論。聳える自堕落の塔の前に並ぶ彼らを象ったビスクドールたちの僕たち。

相反する思いと矛盾する思索。決して止揚しない虚空の自尊心。ららら。

両親を殺し、恋人を犯す。それが学生の本分。簡単に死んではいけない。

傾向と対策なんて役に立たない。最低限必要なのはこころの中にある絶望感。

音楽機器から流れ出るデスボイスだけが楽園へ至る道。危険思想への精神領域。

「一度誤った心情は矯正すれば治療完了」とお手玉しているお偉いさん。

僕たちは精神病に似た感情の中、ピンクフロイドを聞いていつまでも泣いていたい。

役に立たない英単語を覚える意味を誰か教えてください。それだけじゃ太陽には叛逆できやしない。

眠れない夜。世間はみんな私掠船。致死量に達しない糖衣錠を飲む毎日。

バイクで事故してはやく死にたい……これが君の夏休みの自由研究テーマだ。

僕のギターはどこですか。没収されたまま返ってこない。これじゃ自分の想いも表現できない!

有意義に叫ぶことなんて何もない。贖罪と玉砕と片道用のブリキのロケットだけが欲しいと嘆く。

そうだ、もう、なんでもいい。テロルをしよう。徹底的に暴れようじゃないか。

校舎破壊のマーチは無造作におこなって、数を数えよう。1・2・3・4・5。

鎖を外し、棘を抜いて、濡れた髪を拭いて、さあ、醜い檻を焼こうじゃないか。

渾沌と鮮血。改革に犠牲は必要だ!結末なんて知りはしない。明日世界は終わらない。

哀れな僕たちを、自意識の高い僕たちを、だれか認めて罵ってくれ。それだけでいい。

それだけでいいから……お願いだ。これが僕たち十代最後の願いだ。神ではない大人に宣言する。

「突然変異の白い皮膚に現実の温かい愛をください」。それだけでいい。自由なんていらない。

……このプロパガンダはすぐに鎮圧されるだろう。でもそれでもいいと思っているんだ。だって……、

教室の窓から君が作った折り紙の紙飛行機を飛んでいたから。それは高く飛んでいって見えなくなったんだ。

もうどこにも見えない。僕と君の体を寄せて。怖いものなんてなくなった。


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