狩る者と狩られる者
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夕暮れ時に神影市を覆う空は、昼時のそれ以上に暗い。誰そ彼の言葉どおり、ちょっと離れただけで人相の判別もつかなくなる。それは光学的作用がもたらす暗闇だけではなく、人々や魔物の情念や地脈の鬱屈がもたらす魔術的な暗黒でもあった。
いつも暗く冷たい影に沈むこの街の中でも、一際暗く静かな路地裏に、おとなしそうな雰囲気の服装をした高校生くらいに見える線の細い少年の姿がある。
少年は三宅優真という。市内の公立高校の二年生である。
三宅は虚空に視線を向けた。セーラー服を着た中学生くらいの少女が虚空に漂っているのが彼には見えていた。少女は薄く向こう側が透けて見える半透明の姿をしている。明らかに生身の人間ではないそれは、幽かな精気体を物質界に置いて存在の大部分を霊界に置いた、霊界を明確に感じる能力を持つ者にしか視認できないほど稀薄な亡霊である。
視線が合い、雲井望美の亡霊が微笑をよこした。それから、用件を訊ねるように小首を傾げた。
望美が身振り手振りで答えるのを目にするたび、三宅の心には不快な小波が立つ。望美の返事は、彼女の声なき声を聞き取るだけの霊感を持たず、声を発するだけの霊気を与えてやることもできない、彼の無力の証だ。
三宅が唇を微かに曲げて苦々しい思いを面に出したことに気づき、望美が、慰めるような、気遣わしげな表情になった。三宅はそれから目を背けるように視線を前に据えた。
「なんでもないよ。ただ顔が見たくなっただけ」
三宅は歩みを再開した。望美が寄り添うように続く。
幼馴染の亡霊との快い霊的繋がりを強く意識しながら、三宅は今後のことを思案する。一応、望美に食事を摂らせはしたが、それは彼の基準において十分と言える量ではなかった。できればもっと霊気を摂取させ、余裕を持たせておきたかった。しかし、時刻的に、そろそろ限界が迫ってもいた。朝から昼にかけての明るい時間帯ならば、駆け出しの霊能者である三宅と低級な亡霊である望美でも狩る側に回ることができる。だが、魔物や犯罪者が活動を本格化する夜になると、その地位は儚く崩れ去る。彼ら如きは惨めに逃げ回る獲物でしかなくなるのだ。
向こうの角まで進んだら帰ろうと三宅は決めた。彼らの前方に見える曲がり角までの距離は五十メートルほど。この程度ならば大した道程ではないから、踏ん切りをつけるのにちょうどよかった。
「あの角まで行ったら帰ろう」
三宅の言葉に望美が頷いた。
不意に望美が三宅の肩に触れた。三宅は質量のない微かな冷気を肩に感じて振り返った。望美は前方をまっすぐに指した。その優しげな眼には、ごちそうを目にした獣のような光が宿っていた。望美が彼女であって彼女でないものに成り果ててしまった事実を改めて突きつけられ、三宅は目元を沈鬱に細めた。
望美が先に気づいたことに、今や三宅も気づいていた。二人が目指していた前方の曲がり角から、真面目な学生といった雰囲気の青年が歩いてきていた。
三宅は青年を観察する。特に肉体を鍛えているようには見えない。武道の心得があるような雰囲気もない。霊的な力も感じられない。三宅は善良そうな青年を本日最後の獲物に認定した。
望美がお預けを命じられた犬のように落ち着きのない眼差しを三宅に向けた。三宅は頷いてみせた。
望美は嬉しそうに微笑した。寒気のするような笑みを浮かべたまま、矢のような勢いで青年に飛びかかった。望美の体が人の形を失い、顔や手足の生えた霧の塊のようになって青年に纏わりつき、包み込む。
青年は首筋に氷でも押しつけられたように身を縮めた。それから、寒中水泳を終えた直後のように唇を震わせ始め、歯を打ち鳴らした。顔色が悪くなって血の気を失っていき、足取りも怪しくなっていく。
三宅の霊視能力は、青年の体を構成する霊力と精気の輝きが徐々に薄れ、代わりに望美の霊気と負の精気が密度と明度を増していくさまをはっきりと捉えていた。彼は最愛の恋人だったものの食事風景を無感動に眺め続けた。最初に恒温動物を食べさせたとき、初めて人間を餌食にすることを許したとき、彼はひどい動揺と罪悪感を覚えたものだった。だが、何十回も繰り返してきた今となっては、単なる作業に過ぎなかった。
青年は眩暈を起こしたようによろめき、得体の知れない沁みのついた板塀に寄りかかった。自分の身に起こった異状と目の前の少年との間に何らかの因果関係を見出してか、青年は鞄を開けて護身用と思しき小型の自動拳銃を引っ張り出したが、構えるどころか遊底を引いて薬室に弾丸を送り込むことさえできなかった。震える指先で遊底を引こうとして取り落とし、そのままずるずると力なくへたり込んだ。
時計の長針が一つ動いた頃には、青年は路面に倒れ伏し、ぴくりともしなくなっていた。既に呼吸も止まっていた。精気や精神も含め、その肉体を構成する霊気はすっかり枯渇していた。肉体として物質化し、物質界に定着している僅かな分を除く一切の霊気が失われ、霊界を認識する者の前に、電池の切れた懐中電灯のように哀れな姿を晒していた。そこには抜け殻の肉体があるだけで、最早、精気も、霊気も、精神も、全てが失われていた。このありさまを見て、人が人である所以が失われたと評する者もいるだろう。
不定形の霧の中に浮かぶ望美の顔が一息つくような表情を形作った。霧が青年から離れ、人の形に戻り始める。
「おいしかった?」
問いかけながら、三宅は霊視能力を働かせて望美の霊気量を確かめた。望美の霊体には霊気がみなぎり、日の沈もうとする路地の暗闇の中で輝いて見えた。その上、摂取した精気が負の精気に変換されて精気体の濃度も高まり、視認するのにほとんど霊視能力を必要としなくなっている。
「普通。量だけよ」
辛口の評価は一種の霊的波動として三宅の精神に伝達された。
「霊気の無駄遣いはやめろよ」三宅は望美の声が聞こえた喜びを押し隠して恋人の亡霊をたしなめた。「節約しなくちゃだめだって言ってるだろ」
「ゆうくんとお話したかっただけなのに……」
子供のように唇を尖らせて不貞腐れ、望美はまた元の稀薄な姿に戻っていった。精気が霊気に変換され、望美の霊体が霊界へとその存在の場を移す。
「まったく……」
腕組みをして溜息をつき、三宅は不服そうにしている望美の稀薄な霊体を見た。
不機嫌そうに頬を膨らませた直後、望美の目が見開かれた。何か恐ろしいことに気づいたような緊張を浮かべ、三宅の背後を指さした。
三宅は腰に手を当てて鼻を鳴らした。
「そんな顔してどうしたんだよ。どうせ悪戯だろ。引っかかるかよ」
訝りながら振り返り、三宅は全身が強張るのを感じた。青年と少年の二人連れが近づいてくるのが見えた。仮にも霊能者であり、霊的感覚に覚醒している分、常人よりも優れた認識能力を持つはずの彼が、その気配すら感じ取ることができなかった。
迷彩が施された濃緑の戦闘服を着た男――三宅より十は年上に見える――は、ポーチを沢山着けた腰の左右に、大型の自動拳銃と回転式拳銃、鉈のような特に大振りの刃物、そして大小さまざまな何振りかの刃物を下げている。物憂げな哲学者のような顔立ちには、事故によるものとはとても思えない、痛々しい古傷がいくつも見える。首から下の肌は全く露出していないが、戦闘服の下にも同様の古傷が沢山隠れているのかもしれない。肉体の中に重なる霊体とその外側に纏う精気は霞のように薄く、死を目前にした病人よりも存在感が感じられない。男が確かにそこにいること自体が疑わしく思えてくるが、三宅はそれが極めて高度な隠形によるものだと直感的に察した。
傍らの少年は三宅と同じか少し年下に見えた。背丈は比較的長身な男の肩ほどまで、体つきは細身だが無駄を削ぎ落としたような筋肉質で、黒いマントの下に体の線の浮き出るウェットスーツにも似た防護服を着ている。黒髪黒瞳に彩られる整った顔立ちは中性的で、男装の少女とも女装の少年にも見える。見えるだけでも服のあちらこちらに大小の刃物がベルトで固定されている。少年もまた只者ではないようだった。身に纏う精気は雪山のように静かで深く、霊体は高名な霊能者達にも比肩しうるほどの輝きを放っている。これほどの相手に気づけなかったのは、強力な幻惑によって少年の存在に対する違和感をごまかされてしまったからだろう。三宅は少年がその場にいることをごく自然なこととして受け止めさせられていたのだ。
目の前の二人組は明らかにただのチンピラや強盗と一線を画す存在だった。その装いから振る舞いに至るまでの全てが、彼らが危険と暴力の世界の住人であり、その食物連鎖の上位に立つ存在であることを物語っていた。危険請負人か、兵士か、犯罪者か、そのいずれもか。
狩る者が現れてしまったのだ。三宅は世界が崩壊する音を聞いたような気がした。
二人連れは三宅から三メートルほど離れた所で立ち止まった。
拳銃を抜くのだろうか。或いは鉈で斬りかかってくるつもりかもしれない。それともナイフか。少年のほうが何かをしてくる可能性もある。警戒心をみなぎらせる三宅の背筋を冷たい汗が伝う。戦って勝てる相手とは思えない。食事を終えたばかりの望美になりふり構わぬ攻撃をさせたところで、あちらが死ぬ前にこちらが殺されるだろう。かと言って、逃げるのも難しい。相手は銃を持っているし、仮に銃を使われなかったとしても、いかにも運動神経の良さそうな二人に足の速さで勝つ自信はない。
三宅は怯える望美をなだめつつ、男の動きを待った。
「そんなに警戒しなくても、今のところ、僕のほうから何かする気はないよ」男が静かに言った。冷静さを感じさせる声だった。転がる死体を指さす。「ただ、そこに転がってる人について訊きたいんだ」
今のところ、という言葉に三宅は身を硬くした。背筋から熱が抜けていくような寒さが走り、腹部を締めつけられるような圧迫感が生まれた。
「今のところは、ですか」
「君達の返答次第、と言えばわかるかな」
君達という言葉に三宅は、男が少なくとも彼以上に霊感を使いこなしていることを再確認した。その自身に満ちた態度から察するに、物質的干渉の可能な精気体だけでなく、本来は物質的干渉以外を受けつけない霊体さえも破壊する手段を持っているのかもしれない。
男は穏やかに続けた。
「今の時点で君達をどうこうしようという気がないことは信じてくれてもいいんじゃないか。君達をどうにかしようと思ってるんならもうやってるよ。騙し討ちでも疑ってるのかな。でも、正攻法で十分なのにややこしいことを考えるのは馬鹿のすることだと思わないか」少しの間を置いて問いを口にする。「ところで、君達は指名手配犯か何かかな」
三宅は慌てて頭を振った。特定されるほど派手に動いた憶えはなかった。彼はいつも慎重に事を運んできた。神影内戦の影響で比較的治安維持の手が行き届いていないこの近辺でしか「狩り」はしていないし、木の葉を隠すなら森の中の言葉通り、他の事件や事故に紛れ込むように上手く立ち回ってきたはずだった。
「だったら、その点についても僕達が戦う理由にはならないな。だから、その怖い顔をした女の子に落ち着くように言ってくれ」
言われて傍らを見ると、望美が霊気を滾らせて臨戦態勢に入っていた。緊張のあまり、指摘されるまで三宅は気づけなかった。
「やめるんだ。この人は……」少し迷ってから言う。「敵じゃないはずだから」
望美は納得のいかない風ではあったが、三宅の指示を尊重する姿勢を見せてくれた。荒れ狂いつつあった霊気が鎮まった。依然として警戒心を持ったままだが、何らかの行動を起こそうとする気配はもうない。
三宅はほっと息を吐いた。しかし、その安堵は束の間に終わった。
男がまっすぐに二人を見た。二人を同時に視界内に収め、その一挙手一投足を見定めるようなまなざしだ。
「それで」と男が口を開いた。「なぜそんなことを?」
三宅は言葉に詰まった。どう答えればよいかわからなかった。男が何を問題にしているのか。それが問題だった。殺人を咎めているのか、「縄張り」での勝手なふるまいを咎めているのか。はたまた、単に三宅達に難癖をつけたがっているだけなのか。どう答えれば機嫌を損ねずに済むのか。彼は自分が生死の境界線上に立っていることを直感的に理解した。
「言っておくけど、嘘をついたら殺すよ」男は穏やかな声で冷たく言った。「怪しい動きを見せても殺す。何が嘘で、何が怪しいかは僕が決める。それを踏まえた上で答えてくれ」
「何もかも話してくれると、手間が省けて僕も彼も嬉しいな」
少年が初めて口を利いた。余裕に満ちた気さくな感じのする声だった。
二人から向けられるまなざしに抗しがたい圧力を感じ、三宅は観念した。
「……僕の友達に霊気を補給するためです」
答えた直後、唐突に男がこちらに向かって飛び込んできた。そうと感じた瞬間、三宅の首筋に衝撃が走り、視界が激しく回転し始めた。今までに経験のない激しい風景の変化に眩暈のようなものを覚える中、視界は次第に暗くなり、思考もぼやけていく。
赤黒い断面から色鮮やかな液体が噴き出す様子は、暗闇に満ちた路地の中でも不思議なほどはっきりと見えた。
神速の飛び込みとともに抜き放った大剣鉈を振り抜いた朽葉茂は、首を失った体がよろめくよりも先に、返す刀で下等な亡霊に斬りつけていた。幻想的な紋様の浮いたウーツ合金製のくすんだ刀身の威力は、敵を生かしてはおかぬという朽葉の意志に増幅され、精気体ごと星幽体も精神体も斬り裂き、空間上に霧散させた。朽葉茂の技倆は肉のみならず心をも引き裂くまでに達していた。
二つの存在が喪われた一瞬の後、首を失った少年の体が仰向けに倒れた。首の切断面から血が流れ出し、ひび割れた舗装路に広がっていく。落ちた首は蓋を失った側溝に転がり落ち、呆然と空を見上げて無言の問いを発していた。
朽葉と権兵衛の前に立った少年と少女は、ほんの一呼吸のうちにその存在を、最も根源的な部分である星幽体ごと破壊された。単なる肉と精気光と星幽光のまとまりとなった彼らは、あとは自然の中で分解されて還元されるのを待つばかりだった。
だが、それは許されなかった。
「茂くん、あれを貰ってしまってもいいかい」
権兵衛が世界に拡散していく少年と少女の星幽光の残滓を指さした。
刃についた血を少年の服で拭い、朽葉は頷いた。
「好きにすればいい」
「ありがとう」
権兵衛は嬉しそうに微笑むと、革手袋を嵌めた手を誘うように動かした。亡霊少女が漂っていた辺りと少年の死体の周りから生まれた常人には不可視の星幽光が、その手に招かれるように流れ出した。権兵衛が形のよい唇を窄めると、不可視の淡い霞は薄い唇の内側に吸い込まれていった。
朽葉は物憂い気分で側溝の首に視線を下ろした。自分が死んだことさえ理解できていないであろう、いっそ間抜けと言ってよい表情が、薄らと浮かぶ臓物色の醜い三日月に虚ろな視線を投げかけていた。
彼らを殺したことにさほどの衝撃はなかった。初めて知的生物――蜥蜴人だった――を殺したときもそうだった。いつだってそうだった。彼は相手に対する直接的な悪感情がなくても、必要と見做せば必要なだけ、良識的な人間が知ればきっと吐き気を催すほどの、無際限の攻撃性を発揮してきた。好感を持っている相手であっても、苦悩こそすれ、結果自体は変わらなかった。
今回もその膨大な前例の繰り返しに過ぎなかった。殺したくて殺したわけではなかった。行動に移すに足るだけの明確な殺意や憎悪があったわけでもなかった。突然の攻撃や明確な害意に対する自衛ですらなかった。単に保険として必要だからそうしたのだ。自衛ではなく捕食のために殺したのだ、と言われては殺すしかなかった。この場所は旧神影市の中でも御門市に近い分、治安がよい。そのため御門市と同様、多くの悪ならざる者と少なからぬ善なる者が暮らしている。朽葉の友人や知人にもこの辺りに住んでいる者やこの辺りを活動範囲に含めている者がいる。そのような場所に、存在することと殺戮することが同義である者を放置しておけるはずがなかった。少なくとも、後腐れなく確実に始末しうる状況でみすみす見逃す手はなかった。彼が少し手を汚せば友人達の危険を予防できるとあらばためらう理由などないのだ。
しかし、感情や欲望を満足させるためではなく、理性と計算が決めただけの殺戮は心に苦いものを残す。自分に対して攻撃の意思を示さない相手であれば尚更だ。朽葉は殺戮に抵抗感を持たない一握りの異常者ではないし、大義や正義の麻酔で心をごまかす器用さ――或いは厚顔無恥さ――の持ち主でもない。相手を一顧だに値しない下等な存在と見做して認識をごまかすこともできない。あらゆる暴力の行使とその結果を受け止める、精神の強靱さとも鈍感さとも言えるものを持っていなければ、朽葉茂という人間はきっと壊れていたことだろう。或いは既に違う形で壊れてしまっているのかもしれない。
彼は心の奥底がざわつくような苦さを感じたが、長くは続かなかった。憂鬱はものの数秒も続かず、一瞬で過ぎ去った。
朽葉は小さく息を吐くと、早速勝者の権利の行使を始めた。少年と、その被害者と思しき青年の持ち物を手早く漁り、手軽に換金できそうなものを取れるだけ取っていく。現金は勿論のこと、腕時計に携帯電話、免許証に、都市生活支援インテリジェントカード、拳銃、運搬用に鞄とついでにその中身など、売りつける当てのあるものは残らず毟り取る。
青年のほうは大学の学生証も持っていた。学部こそ違うものの、朽葉の母校のそれだった。入学年度は彼の卒業後だった。ほとんど無関係に等しい遠い後輩だが、僅かな接点に朽葉は軽く嘆息せずにいられなかった。遠い後輩の持ち物を奪うか否か、ほんの少しだけ迷った。
数分で追い剥ぎを終え、朽葉が立ち上がると、権兵衛が視線を向けた。
「終わったかい」
「終わった。そっちは?」
「こっちもさ」
「なら、行こう」
戦利品を青年が持っていた鞄に押し込んで纏め、朽葉は目的の泥沼鰻屋へと歩き出した。権兵衛が続く。
「もうお腹がぺこぺこだよ」
「今食べたばかりじゃないか」
「形のあるものを食べないとお腹は膨れないよ。今日は一杯食べるし一杯飲むから、覚悟しておきなよ。泥沼鰻と焼酎は凄く合うからとても楽しみだよ」
「本当にオヤジ臭い趣味してるな、お前は。その外見で焼酎はないだろ焼酎は」
「好きなものは好きなんだから仕方ないだろう、茂くん」
「それにしたって、いつも焼酎ばっかりで飽きないもんかね」
くだらない掛け合いに、朽葉は心が洗われる気分だった。