遊園地
今日は二人で遊園地に来ている。天気も良く絶好のデート日和だ。
「ねぇ、ねぇ、アレ乗ろうよ」
彼女が指差したその乗り物は‥ジェットコースター。実は僕は絶叫物が大の苦手なのだ。だが愉しそうにしている彼女の手前そんなことは言えない。
「あ‥あうん‥いんじゃないかな」
多少裏返った声で僕は言った。彼女は嬉しそうに僕の手をとり歩き出した。
ジェットコースター乗り場には数人の人が並んでいた。‥が残念な事に次の発車で僕達を含めて全員が乗れそうだ。
「楽しみ〜」
「私達まで乗れそうだね」
彼女が僕に話しているが、僕は凄い勢いで走っているジェットコースターをただ唖然と眺めている。
「‥どうしたの?」
彼女は僕の顔を不思議そうに見つめている。
「いや‥凄いなって」
「そうね、速く順番こないかなぁ」
僕は少しでも時間が遅くなることを願ったが、願いとは虚しく順番待ちの列は動き出した。
席についてから地面に足が着くまでの間の恐怖は、絶叫マシーンが好きな人には分からないだろう。
「‥大丈夫?顔色悪いよ」
「‥あ‥あぁ大丈夫だよ」
近くのベンチに二人で座った。まだ少し地面が揺れている感じがする。
「‥‥‥ありがと」
「‥えっ?」
「本当は苦手だったんでしょ」
「‥‥‥ちょっとね」
「もう‥無理しないでよ」
彼女は優しく僕に言った。僕達はひとまず休憩し、それから次に何を乗るか話し合った。
「高い所は平気かな?」
「うん、平気だよ」
「じゃあ観覧車に乗ろうよ」
僕達は早速、観覧車に乗り込む。地上からどんどん離れていき、あっという間に下にいる人達が小さく見えた。
「‥いい眺めね」
「そうだね。こうやって高い所から見てると時がゆっくり動いてる感じがするね」
「うん」
下の方で誰かが風船から手を放したのか、僕達の少し先の方で風船がゆっくりと上がって来た。
風船はそのままゆっくりと上昇し、遂には雲に隠れて見えなくなった。僕達はその光景をただ、ずっと眺めていた。ただ、ずっと‥‥。
いつも必ず訪れる時間‥別れの時。また会えると分かっていても辛いものだ。彼女の涙を見ると自分の気持ちがぐらつく。このまま彼女を連れ去りたい衝動を抑え、きつく抱き締める。いつの日か彼女と暮らせる日を夢見て
‥僕は彼女との別れを惜しみながらも、また平凡な日常生活の中へと戻っていった。