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突然の別れ

「もうこんな時間!」

私は、時計を見て慌てた。今日に限って先輩に仕事を押し付けられ今、やっと会社を出た所。



「…もう!先輩のバカ!」


なんで私がここまで怒っているのかと言うと、今日は私の彼…智也の誕生日だから。


私の手には可愛くラッピングされた小さな箱。



「智也喜んでくれるかな…」



私は彼が待っている場所へと急いだ。







この交差点を渡れば、すぐそこだ…早く彼の顔が見たいな


信号が青になるのを待ちながら私は彼の事ばかり考えていた。周りには仕事帰りのサラリーマン風の人達が数人いた。




その時、私の横からお婆ちゃんが道路に飛び出した。



「お婆ちゃん、危ない!」



私は、お婆ちゃんの元へと駆け出した。



ビビー ビビビビーー




クラックションの音にハッとして振り返るとすぐ目の前に車が迫っていた。




私は思わず目を閉じた。浮かんでくるのは彼の顔…。



智也…ごめんね




それが彼女のこの世の最後の言葉だった。







同時刻…ファミレスにて



「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」


「はい」


「お好きな席へお座り下さいませ!」



まだ…彼女は来てないな。


僕は店内を見回した。店の中には余り客はいない。窓際の席に座ると、コーヒーを頼み彼女を待つ事にした。



何か外が騒がしい。どうやら近くで事故があったらしい。まさか彼女が…そんな事は無いよな…。


虫の知らせというやつか…大丈夫と思いながらも念のため彼女に電話をかけたが…。




…繋がらない!




「いらっしゃいませ!」


新しい客が入ってきたみたいだ。


「さっきの事故…若い女の人らしいよ」


「えー可哀想だね」



その会話を聞いた僕は慌てて店を飛び出した。彼女じゃない…彼女じゃない。一心不乱に祈りながら…。







「すいません、第三病院まで!」



現場付近にいた人の話によると、特徴が彼女と一致する。急いで救急車の行き場所を聞き、僕はタクシーに乗り込んだ。



彼女じゃない…仮に彼女だとしても…無事でいてくれ…。



病院までの道のりが、とてつもなく遠く感じる。一分一秒でも速く彼女の傍に行きたい。そうしないと…もう一生会えない様なそんな気がした。









第三病院にて…


「…そ…そんな!」



病院に着いた僕は救急車で運ばれた女性について詳しく聞いた。その女性は間違いなく彼女だった。そして彼女は今僕の目の前にいる…そう最悪の形で、彼女の顔の上には白い布が被せられていた。


「…誰ですか?」



声で初めて気付いたが、彼女の傍には母親らしき人物がいた。泣いていたのか目が充血している。


「僕は絵美さんとお付きあいさせて…」


「…あぁ、貴方ね。絵美がよく話してたわ」


彼女の母親は弱々しく笑った。


「こんな…何故うちの絵美が!」



母親は、また泣き出してしまった。僕はどう仕様もなくなってその場を離れた。




なんで彼女が死ななくてはいけないのか…。

僕は一人になった途端、涙が溢れてきた。


今日会わなければ…彼女があの交差点を渡らなければ…運転手がもっと前に気付いていれば…様々なことが頭に浮かんでは消える。


けど何も変わらない。彼女はもうこの世にはいないのだから…。



「智也…君だよね少し話しをさせてくれないか?」



一人の中年の男性が僕に声を掛けてきた。


「…はい、そうです」


「私は絵美の父親です」


「絵美の…」


「私も妻も娘がこんなことになって、どうしたらいいのか正直わからん」


「………」


「君を恨んだよ。君と会おうとしなければ絵美は死ななかったかも…ってな」


「僕が悪いんです!」

「違うよ…君のせいじゃない、どうしようもなかったんだ」



彼女の父親は僕に一つの箱を差し出した。


「娘が最期に持っていた物だ…君宛の。貰ってやってくれ」



僕に箱を渡すと、彼女の父親はそのまま戻っていった。


僕は彼女の元には戻らず、自宅に帰ってきた。









彼女がいなくなって僕の心には、ぽっかり穴が開いた。



何もする気が起きず、会社も休み、ただ朝から晩まで彼女の事を思いながら泣いていた。

結局、彼女が死んだという事実を受け入れる事が出来ず葬式に行くこともなかった。


いっそ自分も死のうと思い、彼女の最期に渡そうとしたプレゼントを持ち外に出た。




僕は公園のベンチにいた。この公園は前に彼女と来た事がある。今となっては辛い想い出。


ベンチに座り、箱を開けてみた。中には時計と手紙が入っていた。




『智也へ


お誕生日おめでとう!

ねえ、知ってる?今日で私達が出会って丁度、半年なんだよ。これからも一緒にいてね♪大好きだよ!

絵美』






「…僕も一緒にいたいよ、なんで死んじゃったんだよ!」



もう…僕の声は彼女に届かない。




もう、どの位たったのだろうか。いつの間にか雨が降りだしていた。



雨は次第に強くなり、シャワーの様に降り注いだ。




悲しみの涙は星に…




何処からか彼女の声が聴こえた気がした。




…元気の雨に変えてまた地上に降らせる。




「星の涙か…」



彼女の言葉が蘇る。少女の様に目をキラキラ輝かせて話す彼女を思い出すと自然と笑みがこぼれる。



短い間だったけど…君と出会って良かった。

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