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第五話 昔話の真実

ルビウスいっぱい喋ってます。

「もう八年も前になる。そう遠くない昔に東と西の丁度境にあるウルーエッドと言う町でね、大きな大きないくさがあったんだ。事の始まりは我が東の国、リヴェンデル。当時、北と南の王都を奪ったばかりだった第37代国王は、閉鎖的だった西の国アディマデューサに目を付け、戦を仕掛けた。国中から選りすぐりの魔法使い、魔女を呼び集めて。古代魔女が住むあの国は、長年外と関係を持とうとしていなかったから、どんな国なのか全くわからなったにも関わらずね。勿論、こちらが圧倒的に不利となった。長期戦となった戦は、向こうが防戦体制から一歩も退かず、お互い疲労だけが溜まっていった。そんなとき国王が言ったんだ『さっさと始末してしまえ』ってね。その言葉で当時、魔法使いになったばかりの一人の男が、西の国に呪いの魔法をかけた。それは呪い返しの術としてこちらに返って来て、ウルーエッドに居た五十七人の魔法使い、魔女と近くに隣接していた、市町村を含んだ十六の町に住む、五万百二人という最悪の犠牲を出した。生き残った者は二十人にも満たなくて。だけど、多くの犠牲を出したにも関わらず、国王は気が済まなかったらしい。西の国に再び戦を仕掛けようとしたんだ。それにえらく怒った魔女がいてね。その魔女は自分も生死をわける瀕死の状態だったけれど、ウルーエッドに行って西の国に封印の魔法をかけて国王にこう言ったんだ。『私達は、あなたの駒ではありません。想いも考えも持てる一人の人間です。これは私一個人の考えた結果です。もうこれ以上、無駄な犠牲を出さないで下さい』そう言って彼女は事切れたんだという。今でもこの言葉は反逆罪に値すると否を唱える者、純粋に彼女のやったことは素晴らしいと誉める者、敵国の肩をもっていると非難する者と賛否両論分かれる内容だけど。君はどう思う?」


「その魔女についてですか?」


「そう」


黙って話を聞いていた彼女。突如として意見を求められたにも関わらず、至って冷静に自分の意見を述べた。


「私は彼女がしたことは最終的に正しいと思います。魔法について偉そうに言えませんが、沢山の被害が出る前に食い止めるべきだったのではないかと」


「僕も同感だね。被害が出てから食い止めた。それならば何故最初からそうしなかったのか、聞きたくても今は亡き母上に聞ける訳もないからね」


「こ、公爵様のお母様でらっしゃいましたか。これは、失礼致しました」


「謝らなくてもいい」


ルビウスは小さく笑って一旦言葉を切り、リリアンヌへと向き直った。


「この戦、実は全く違う理由で始まったと言うんだ。これはあくまで噂に過ぎない。それを約束出来るかい?」


「約束します」


きっぱりと答えたリリアンヌに安堵したルビウスは話を続けた。


「このウルーエッド戦は表面上、第37代国王が気紛れで起こした無理益な戦となっているけど、実際は違うという。陛下には三人の弟君がいらっしゃった。一回り年下のラタウ殿下とその五つ下のダーウィズ殿下。そして当時、二十一歳だった末のセドウィグ殿下。陛下には今も御子が居らず、ラタウ殿下、ダーウィズ殿下はウルーエッド戦の二年前にあった戦で死亡。跡を継ぐのはセドウィグ殿下だ。あの方は僕の兄弟子にあたる方で、魔法も武術も文学も何一つ申し分ない方だった」


どこか遠くを見つめてルビウスは話を続けた。


「僕も良く相手をして頂いた。心根の優しい方だったけれど、たまに考えていらっしゃる事がわからなくて。不思議な方だと思った事がある。だけど、言葉をかわす内にわかったんだ。あの方は誰かを待ってるんだって…。ある年からセドウィグ殿下はふらりと姿を消された。城は大騒ぎになったそうだけれど、直ぐに戻ってらっしゃったから、事なきを終えたらしかった。それが頻繁に起こるようになると陛下は殿下を心配して魔法師に跡をつけさせた。大事な跡取りだからね。そしたら西の国にいる古代魔女の娘と逢瀬を重ねていたらしい。まぁ、殿下も男だから女の一人や二人いるのが当たり前だけれど何せ相手が悪かった。強い魔力を持つ殿下と魔力の源の古代魔女、そんな二人の結婚はまず無理だった。血が濃すぎるから。陛下はセドウィグ殿下に古代魔女ときっぱり別れるよう言ったが、それを拒否した殿下は娘と西の国に駆け落ちしたそうだ。それを許さなかった陛下は、西の国ごと潰してしまおうと考えた」


「そんな」


「末の弟君を思うが故に辿り着いた結論だったんだろうね。セドウィグ殿下を連れ戻した後は城に幽閉しているとか、していないとか。僕も戦が終わった二年後に一度、殿下にお会いしたけど元気でらっしゃって、あれを幽閉と言うのかわからなかったな。その時、殿下に頼まれたんだ。娘を探して欲しいって」


「娘…?」


首を傾げて同じ言葉を問い返した。脳裏にオリヴィアの言った言葉が頭を過ぎる(よぎる)。


《セドウィグ殿下にそっくり》


彼女はそう言ったのだ。


「うん。セドウィグ殿下の相手の娘の名はローズマリー。ウルーエッド戦で知り合いの魔女が彼女を逃がした時、殿下に言付けを預かったんだ」


『子を授かった。いつか、この子に会ってやって欲しい』


「殿下はそれを聞いて直ぐにでも探しに行きたかったけど、何せ自分は城から出られない。そこで一番会う確率が高い僕に託した。お陰で六年も探す羽目になったよ」


「それが私だと?」


「うーん、断言は出来ないけれどね。彼女は子供を女児か男児か言ってなかったから。でも、殿下は絶対に娘だと言い切ってる。父親の感だってさ」


ルビウスは先程リリアンヌを誘拐した理由を言えないと言ったが、結果的にそれが理由ではないかと推測できる。


「けれど、それだけの理由で君を連れてきた訳ではないよ。何にも確証が無いんだから。」


リリアンヌの考えていた事をあっさり否定され、内心むくれているとルビウスは穏やかに笑ってその内思い出してくれればいいのだけれどと呟いた。


「はい?何か仰いましたか?」


「いいや、何も。…あぁ、話が長くなってしまったね。もうお休み」


呟いた言葉はリリアンヌに届かず、ルビウスはさっさと話を切り上げてリリアンヌを部屋から追い出した。


「部屋はレイチェルと相部屋だよ。では良い夢を」


パタンと閉まった扉を呆然と見ていたリリアンヌは、はっと我に返って叫んだ。


「質問に答えて貰ってません!それにまだ聞きたいことがあるんです、扉を開けて下さい!」


しかし、扉は閉まったまま。無礼に値するとわかっていながら、扉の丸い取っ手を乱暴に回す。が、開かない。どうやら内側から鍵をかけたらしい。ムッとして大声で扉に声をかけた。


「鍵をかけるなんて卑怯です!それに話はまだ終わってません、北の国に帰して下さい!」


扉を右拳で思いっ切り叩いてみる。無理やり開けようと、体当たりをしてみる。けれど、静かに扉は閉まったまま。もっと大きな声を上げようと木の匂いが微かにする辺りの空気を大きく吸った時、下の階から上がってきたオリヴィアと視線がぶつかった。


「なに、なんなの?大きな声を出して」


「話の途中だったのに公爵が勝手に切り上げて。部屋から追い出されたんです」


拗ねてオリヴィアに訴えてみたが、彼女は軽く笑っただけだった。


「また今度にしたら?先生に意見しようなんて、今のあんたじゃ無理よ。それに先生、もう部屋に居ないみたいだし」


なんだと!と瞳を見開いたリリアンヌを見て、オリヴィアは更に愉快そうに笑った。


「さあさあ、もう寝る時間よ。部屋まで送っていってあげるから」


ずるずると引っ張られながら、リリアンヌは扉に向かって最後に声を張り上げた。


「卑怯者―っ。覚えてろよぉ!」


静かな夜に包まれた屋敷に、決して可愛いらしいと言えない、リリアンヌ怒声が響き渡った。


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