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第二話 魔法使いの別荘

主人公の名前がやっと出せました。登場人物が一気に増えるので、少しややこしいかもしれません。弟子が三人登場です。

一体、どこに連れて行かれるのか。


黒い翼の生えた馬の上で少女は考えていた。


空を走っている間もレムの背中の上は思っていたよりも快適で、魔法使いが掛けてくれた外套は暖かく申し分ないが。

口が悪く、喋るミミズクに翼の生えた馬、それに憧れていた魔法使いは何だか変わった人だった。喋るミミズクが兄弟でいたとすれば、普通には育たないであろうが。

厄介な人に関わってしまったように思う。


少女は考えるのをやめると、黒く上質な質感がある細く丈夫な手綱を両手で握り、ずっと前を向いたままの魔法使いの顔を見上げた。視線に気がついたのだろう、魔法使いは少女を見ると穏やかに微笑んだ。


「あの、寒くないですか?これお返しします」


少女は先程からずっと借りている外套を脱ごうと身を動かした。


「大丈夫だよ、ありがとう。それに、君が暖かいからそれで十分」


ぎゅっと左腕で腰を抱きしめられると、何故だか頬が火照る。やっと会話が成り立ったと思えば、こんな事の繰り返しで少女は下を向いた。すると、クスと上から魔法使いが笑う声が降ってきた。ますます、ムスッとする少女を魔法使いはお構いなしで再び前を見つめた。しばし、風が横切る音とレムが時折羽ばたく翼の音だけが響く。

その数分後、再び会話を始めたのは魔法使いで。さっきまでうるさく鳴っていた風の音も聞こえ無くなっていた。


「もうすぐで着くよ」


その言葉の間際、今まで辺りを囲んでいた分厚い灰色の雲が薄く霧状になり、それを抜けると視界の先に澄み渡った綺麗な濃い青空が姿を現した。先程まで雲の中に居たのだと認識すると少女は姿勢を伸ばして辺りを見た。

ほんの僅かな間しかレムの上に乗っていなかったはずなのに、今居る場所は少女が居た場所とは全く異なる場所だった。


少女が居た北の国レイヘルトンは、一年の半分以上が冬である。ほぼ年がら年中雪に覆われ、春と秋はあっても無いに等しい。夏は他の国に比べて過ごしやすいと聞くが、険しい山々に囲まれている為に太陽の日差しは山に遮られて人々が住む場所へは届かず、作物が育たないという難点があった。その代わり鉄工や物作りが盛んで、レイヘルトンの物は丈夫で長持ちがすると他の国では有名である。


そんな町で育った少女だから、目の前にある景色は今まで見たことがなかった。個性豊かな家々の間にある春先の草木は鮮やかな緑色で、花は春を思い浮かべる綺麗な花を見事に咲かせて、町並みを華やかに彩っている。


ちょうど小さな町を越えたあたり。東から昇って来た朝日の白みを帯びた黄色の光がまだ静かな町に降り注いで、町を浮き上がらせた。硝子の反射で町が輝く。


――美しい。


そんな一言が似合う国だと思った。


「ここは東の国、リヴェンデル。近隣の国の中で唯一、四季折々の季節が街にやってくる。そして王都がある唯一の所でもあるから、人口も一番を誇る。今世の中にいる魔法使いや魔女達はこの国の出身者が大半だから、リヴェンデルは魔法大国と呼ばれているらしいね。あぁ、今越えた町はポータリサ。別荘から一番近い町だよ。さて、森が見えて来た。あれを越えれば僕の別荘だ」


町外れに差し掛かると目の前には、深く緑が生い茂る左右に長い大きな森林が見えた。レムは一気にその上を走り、歩調を合わせた。やがて森林の終わりにさしかかった頃、魔法使いは手綱を締めて短く持つと体勢を前のめりに倒してきた。その為、自然と少女はレムの黒い(たてがみ)にしがみつく形になる。出来るだけ姿勢を倒した魔法使いは、レムに駆け足をさせた。黒い大きな翼を折り畳むと森の切れ目をまるで、見えない柵を飛び越えるかのように宙を跳んだ。

一仕事済んだと言わんばかりのレムを減速させてゆっくりと森の終わりにある平らな、若葉のみずみずしい緑色の草が茂る地面へと向かわせた。


見えない柵を飛び越えた際に波紋が広がるように空気が揺れ、それをレムが通り抜けたかのように見えたのは少女だけだろうか。


ゆっくりと地面が近くなって来るのをまだ鬣にしがみついたままの状態で、少女はぼんやりとそれを見つめていた。やがて穏やかな衝撃で現実に引き戻され、ゆっくりと姿勢を正した。右側を見れば、鬱蒼(うっそう)と草木が茂る薄暗い森が視界に入る。

何年も人が入った形跡がなさそうな森だ。

そんな木々の隙間から吹いて来た柔らかな春風が頬を撫で、誘われるがまま左を向けば、広い草原が目に飛び込んで来た。


(くるぶし)程しかない丈の短い若葉のみずみずしい緑色の雑草が一面を覆い茂り、春らしい色とりどりの小さな花がポツポツと咲き誇っている。お世辞にも綺麗とは言い難いその庭は、草花が春風に揺られてどこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。そんな草原から顔を正面に向けると、今度は後ろ右半分を森に囲まれた立派な屋敷が目に映る。

背景には雲一つ無い、濃い青い空が広がり、屋敷と一体になってまるでそれは一枚の絵画のようだった。


どっしりと構えた黒みを帯びた茶色の煉瓦造りの屋敷は、とても別荘とは思え無いほどの奇妙な造りで、月日がかなり経った洋館と言えよう。

真っ黒な屋根は、どれも空に突き抜けるような鋭い急斜面を描いている。屋敷を囲む淡い黄色の塀が、黒みを帯びた茶色の壁を持つ屋敷と対照的で、塀がやけに目立ってみえる。そこから細く、くねくねと伸びている小道を魔法使いはレムに乗ったまま、屋敷へと進み出した。


「この別荘はね、僕の爺様にあたるカインド公が直々に僕に下さった物の一つで、今じゃ僕の家になってるんだ。まあ、夜にここに訪ねて来た普通の人は(やしき)が闇に隠れて塀しか見えないから、気味悪がってめったに近付かないけどね。近所の子供達の間では、幽霊屋敷って呼ばれてるらしいし」


「幽霊!?本当に出たりはしませんよね」


「どうかな、もしかしたらいるかも知れないよ。僕は実際、お会いした事は無いけれど」


少し意地悪い笑顔を向けて来た魔法使いに、引きつった笑顔を返すと話題を変えた。


「幽霊の話はもういいです。ところで、そのカインド公ってもしかして…」


「おや、残念。そうだよ、シリウス・カインド。魔法省に登録されている現役魔法使いの名前の中では最年長で、王と並ぶ権限を持つ人物として有名だろうね。今じゃ、僕に仕事を押し付けて隠居生活を満喫してる、只の爺さんだけど」


少女も名前だけは聞いた事がある。そんな偉大な人がこの人の祖父などと考えると頭痛がしてきて目頭を自然と押さえた。そんな会話をしているうちに、淡い黄色の塀へと近付いていた。

レムのすぐ首下ほどしかない低い塀の間を通ると屋敷からバタバタと小さな子供が一人、慌てて飛び出してきた。


「先生!!会議をほったらかして、どこに行ってらっしゃったのですかっ。ルーベント宰相殿が屋敷に怒鳴り込んでいらっしゃって大変だったんですから!」


レムの近くにやってきた少年は、まだ声変わりもしていない幼い声で魔法使いを喚き立てて、一緒に乗る少女を睨みつけた。


「お前は何者だ!レムの上に先生と同席するなんて、失礼だと思わないのか!」


「えっと…」


「エリック、わかったからそうギャーギャー喚かないでくれ、耳に響く。それに初対面でその言い方は無いだろう、彼女に失礼だ」


「すみません…」


男の子に訳も分からず怒られた少女が何か返そうかと迷っていたとき、魔法使いが遮って少年をたしなめた。少年は素直に謝るとうなだれ、それは彼にとって年相応な表情であった。よく見れば柔らかそうな少し癖づいた赤毛と深緑の瞳を持っており、丸みを帯びた頬から見るに五歳ぐらいだろうとみえる。襟のない少し大きめの長袖の白い上着、裾が広がった淡い茶色のまた下が分かれている膝丈までの洋服を履いている。外見だけでは、女の子と間違えそうだ。


「わかればよろしい」


魔法使いはレムから降りて少女を抱き上げると優しく地面へと降ろしてくれた。レムの手綱を少年に渡してそう一言だけ言った。


「マーサ小母さんとフレッド兄さんは屋敷に居ます。後、先生の机の上にある書類は人事部からです。至急お願いしますとの伝言です」


「ああ、わかった。人事部の方にはジョナサンにでも頼むさ。エリック、レムを森に帰したら直ぐにジュリアンと一緒に国土省に飛べ。王都近くで河川が溢れて洪水があったらしい。あの一帯はジュリアン達に任せていたはずなんだが。…全く何をやってるんだか」


「ヴィア姉さんにはなんと伝えましょう?」


「どうせ屋敷に籠もってさぼってるんだろう。私から言っておく」


「分かりました」


少女より年下とは思えないハキハキとした口調で答え、魔法使いに向かって礼をするとレムを連れて森へと去って行った。


「今のは四番弟子のエリック。仕事熱心なのは良いのだけれど、あぁ口うるさいとたまらないよ」


少年をそう説明した魔法使いはやれやれと肩をすくめて屋敷へと歩き出した。その後ろ姿を見つめて、雪に囲まれたあの場所に帰ることは無理そうだと半ば諦め気味に後を追った。


やがて、屋敷の玄関前に着くとその上質な(うるし)が塗られた黒い片方の玄関扉を開けて、中へと入って行く。少女も戸惑いながら後に続く。


屋敷の中へと入れば、高い天井や壁に取り付けられた窓から、朝日が降り注ぐ明るい吹き抜けの玄関が現れた。濃い赤色の絨毯が床に敷かれた広い玄関に、二人の男女が並んでいる。魔法使いを見ると二人は揃って頭を下げた。


「「お帰りなさいませ」」


「ただいま」


顔を上げた二人の内、まだうら若い男性は魔法使いと同じぐらいの年にみえる。長く真っ直ぐな金髪を緑の紐で束ね、水晶のような澄んだ水色の瞳がその美しい顔によく似合っていた。

茶色を基調とした、貴族達が着る極一般的な服装をしている為、ほっそりとした体型が更に強調されている。切りそろえられた前髪は顎まで伸びており、左右に分けているため女性と見間違えそうだ。

彼の左側に並んで立つ女性は、肉付きの良い少し大柄な体型をした中年の小母さんだ。フワッと内側に巻いた、赤みを帯びた黄色の髪と揃いの瞳が印象的だ。しかし、横幅があるその体型と髪型(前髪は顔の輪郭に沿って丸く切りそろえてある)を合わせたら蜜柑によく似ている。


「先生。王都にいらっしゃるアレックス・シエルダ候からの山のような催促で、部屋に書類を置く場所がありません。それと先生が昨夜の会議をすっぽかされた事で、今朝の円卓会議が二時間早まったとのことです。ですので早くお支度をなさらなければ、円卓会議に間に合いません」


「ルビウス様、ヴィアがまた雲隠れの魔法を勝手に使って!かれこれ7日も経つのです。お忙しいのはわかりますが、先生からしっかり怒って頂けなければあの子はずっと学校にも行かないんですよ!進路を決めなければいけない、大事な時期だというのに。あぁ、それからジョーンとリアン。あの兄弟がまた近所の子を泣かしたとかで学校から…」


「わかったわかった!マーサ、帰って来てから後でゆっくり聞くから。とにかく、彼女を…リリアンヌを頼むよ」


一気にまくし立てていた小母さんをうんざりした様子で遮ると、二人から見えなかったであろう少女を前に優しく引っ張り出した。すると喋り続けていた小母さんは今度は目を見開き、悲鳴をあげながら少女に突進して来た。


「何てこと!ルビウス様、またあなた様って人はこんな小さな子を勝手に誘拐してきて!これで何人目だと思ってらっしゃるのですかっ!」


小母さんにぎゅうっと抱きしめられた少女は、私は誘拐されたのか!とびっくりと目を見開いた。


「ちょっと待った!!僕は誘拐なんてしたつもりないよ!ねぇ、フレドリッヒ」


慌てて弁解する魔法使いは、唖然とする金髪の青年に助けを求めた。


「いや、充分誘拐と言えると思いますよ、先生。ところで円卓会議はどうなさるのですか?」


「フレドリッヒ、お前って奴は拾ってやった恩も忘れる薄情な奴だったのか。それに真面目なのは良いことだが、真面目過ぎるのはどうかと思うぞ」


がっかりして肩を落とす魔法使いに「お褒め頂き、ありがとうございます」と返すとまだ小母さんの腕の中にいる少女へと声を掛けた。


「はじめまして、小さなお嬢さん。私、第一弟子のフレドリッヒ・カインド、元の名をフレドリッヒ・ラービンと申します。今はあまり時間が無いので、自己紹介はまた今度。さあ、先生!」


簡潔に少女に挨拶をしたかと思うとまだぐずぐずとその場に居た魔法使いをせき立てて、その場を離れようとした。


「マーサ!夜には戻るから、くれぐれもリリアンヌの事を頼んだよ!」


玄関に面した目の前の階段をフレドリッヒに急かされてあがっている際に、踊場で少女を振り向いた魔法使いの顔は、見えない何かを心配しているようだった。


「フレドリッヒ、そんなに急かさなくても陛下にはちょっと待って頂ければ良いことじゃないか」


上の階に上がっていった魔法使いのぶつぶつ言う声が、まだ聞こえる。


「あっ、私の名前なんで…」


自分から名乗っていないのに、何故知っていたのか。不思議に思っていると頭上から声をかけられた。


「リリアンヌと言うんだね。じゃあ、リアと呼ぼうか。あぁ、名前?ルビウス様は魔法使いだからね、なんでもお見通しだ。ちなみにあたしの名前は、マリンサ・ジドル。マーサ小母さんってみんなから呼ばれてるからそう呼んで。…さて、リリア。あんた凄い汚れだ、食事の前に風呂に行かないと。おいで」


マーサ小母さんはリリアンヌの手を引きながら、左側に並ぶ二つある扉の内、奥の扉を開けて部屋へと入っていった。そこは広い客間で、マーサ小母さんは部屋を横切り、また一つ扉を開ける。扉を潜れば、天窓と側面にある窓から降り注ぐ朝日に満ちた、解放感溢れる大きな部屋が姿を現した。まるで広間のようだ。照明もつけていない、自然の光の眩しさに目を細めた。


そこは、変わった造りの部屋だった。少女の向かって左側には大きな丸い机、背もたれがない木椅子がそれを囲うように疎らに置いてある。片方は黒みを帯びた茶色の頑丈そうな高い柵で仕切られ、随分と開けっぴろげな場所だ。


恐らくここで食事をとるのだろうとわかる。


背の高い柵の隙間から階下を見れば、真下にある通路を一つ挟んでそのさらに下。一番下の階にある厨房が一望出来る。

遥か高い天井は一面硝子張りで、そこから朝日が降り注ぎ、照明が必要無いほど明るい。広い空間を通して多数の部屋が一つの場所を共用しているようだ。そんな珍しい部屋の造りを夢中になって眺めていれば、マーサ小母さんがくすくすと笑いながらリリアンヌに声をかけた。


「珍しい造りだろう?なんでもルビウス様のお爺様。シリウス様が昔、奥様に作って頂いた大好物の栗の焼き菓子を弟子に厨房で摘み食いされて、カンカンに怒ってね。そんな事があったから厨房が一望出来る、こんな造りに別荘を改造されたとか。物好きだね、全く。…じっくり部屋を見たいなら、後で屋敷を見て回ればいいよ」


マーサ小母さんは柵の右端にある木製の階段を降りて行きながらそう言った。階段を降りきるとリリアンヌに降りておいでと手招きした。彼女に倣って下の階に降りれば右側は上の階と同じ柵でせき止められていて、左側は明るい赤色をした二つの扉が並んでいる。その色が白い壁によく映える。


「奥の扉を開けたら脱衣場と風呂場だよ。一人で風呂は入れるだろ?」


「…はい」


「じゃあ、あたしは着替えを持ってくるから」


マーサ小母さんが降りて来た階段をまた上がって行こうと右足掛けたとき、奥の扉が突如として開いて黒髪の少女が一人、部屋から出てきた。


「ヴィア!そんなとこにいたのかい。学校から一週間も授業に出てないって、担任の先生から連絡があったよ。雲隠れの魔法なんかしてて、主席日数が足りなくなって卒業出来なくても責任持てませんからね!」


「卒業は大丈夫よ、ちゃんと今まで試験なんかで点数とってたもの。それよりマーサ小母さん、変身術を教えて欲しいの。先生は仕事で忙しいって、全然教えてくれないんだもの」


「そんな事よりルビウス様の仕事の手伝いをなさいっ!高度の魔法ばっかりして。若い頃にそんなに体に負担ばかりかけるとろくなことありませんよ!」


「はいはい、分かりました。ねぇ、その子もしかして新入り?」


「返事は一回でよろしい。何度言わせば気が済むの。…そうよ、リリアンヌと言うの」


言い合っていた黒髪の少女が、リリアンヌに顔を向けた。


「ふーん。先生、また誘拐してきたんだ。…変わった子ね」


ゆったりとした動作で近くに歩いて来たと思えば、くすりと笑ってリリアンヌの顔を覗き込んだ。半透明の黄みが強い黒みを帯びた茶色のくりっとした瞳と、暗赤色の瞳が絡み合う。


「…珍しい瞳。気に入ったわ!私、ルビウス・カインドが師。第二弟子のオリヴィア・カインドよ。元の名前は、オリヴィア・ガアナードって言うの、よろしくね」


「リリアンヌです。どうも」


目を輝かせて右手を差し出してきた彼女の手をとって握手を交わした。


「マーサ小母さん。先生が帰って来るまで、私がリリアの面倒を見るわ。それなら文句ないでしょう?」


一人はしゃいでいるオリヴィアの申し出を渋々承諾したマーサ小母さんは、後は頼んだとオリヴィアに念を推すと厨房へ降りて行った。


「これで暫く先生の仕事の手伝いをしなくて済むわ」


嬉しそうに喋るオリヴィアをリリアンヌがこっそりと観察していた。

黒髪だと思った髪は紫がかった黒色で、腰まである長く真っ直ぐな髪を長い前髪と一緒にすっきりとまとめ、右側へと流してしている。長身によく似合う胸元が開いた水色の薄い肌着と身体の曲線を出し、また下が分かれている黒の衣服を履いている。

リリアンヌの視線に気づいたのか、オリヴィアは腰をかがめて視線を合わせてきた。


「うふふ、リリアは私の救世主だわ。あっ、私のことはヴィア姉さんって呼んで頂戴。それよりお風呂ね、私が洗ってあげる」


「いえ、結構ですっ」


「遠慮しないで」


にやりと笑ったオリヴィア。その意味あり気な笑みから逃げるようとした時には、がっちりとオリヴィアに両肩を掴まれていた。

ずるずると風呂場へ強引に引っ張られて行かれ、リリアンヌの叫び声が屋敷の外まで響いていた。

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