11.戦渦の火種
うなされては起き、また寝る。
そんな日々を暫く送っていたリリアンヌが自力で起きられるようになったのは、アンジュリーナに襲われてからだいぶ経ってからだった。締められた首の痕も治りかけてきて、看病をしてくれていたキャサリンはホッと胸を撫で下ろした。
「これなら、来週から学校へ行けそうね。」
寝込んでいた間に冬休みはとうに終わり、学校では二学期が始まっている。他の弟子達は学校に行ってる為、邸内は随分静かとなっていた。
「勉強遅れてる分を取り戻すの大変そう…。あ、そうだ。ルビウスさんは、いつ帰って来ますか?」
「…寝てたものね。」
おや?と首を傾げたキャサリンは、少し考えて納得したように独り言を呟く。
「貴方が寝てた間、毎日顔を見にいらしてたわよ。」
なんてことはないように言って部屋を出て行くキャサリンとは反対に、知らぬ間に寝顔を見られていたリリアンヌは赤面してうろたえた。
「…最低。」
「ん?なんか言った―?」
「なんでもないです!お風呂入って来ますっ。」
あたふたと風呂場に向かったリリアンヌを眺めていたキャサリンが、慌てて声を掛ける。
「着替え、後から持って行くわね。」
「ありがとうございます、キャサリンさん。」
既に階下に降りたリリアンヌは、声を張り上げて礼を言った。
まだ体が本調子ではないものの、着替えてさっぱりとしたリリアンヌは、ルビウスが帰ってくる夕刻まで邸にある庭を探索する許可を貰い、ぶらぶらと一人花を見ながら散歩を楽しんだ。
今、季節は冬である。あまり雪が積もらないと聞く王都でも、この日は珍しくうっすらと雪が積もっている。そんなひんやりとした外を歩きながら、リリアンヌは一つ一つ丁寧に花壇を見ていく。
来客を迎える玄関先の花壇には、色とりどりの華やかな花。邸の者や、来客がゆっくりとした時間を過ごす中庭には、優しい色合いと心落ち着く花の香りを。ひっそりとした裏庭には、控えめな可愛らしい花を。
場所、用途によって植えられる場所が分かれる花達であるが、それによってその花の個性が生かされていると思える。
北のレイヘルトンでは、花を愛でるなどなかった為、ここでの生活はリリアンヌの心を穏やかにしてくれている。
裏庭の小さな花壇に咲く真っ白な小さな花を眺めていた時、不意に背後に人の気配を感じた。
「カインドの本邸となれば、周りを囲う結界も並みじゃないな。」
振り返る前に、首筋にひんやりとした感触がある。
「誰?」
「ほぉ、成る程な。びっくりするぐらい噂通り古代魔女の風貌だ。で、あの火種なわけだ。」
背後に立つ少年は、リリアンヌの質問には答えず、淡々と言葉を繋いでいく。
「火種って何よ。」
「悪いが、付き合って貰う。」
恐らく魔力を込めた短剣なのだろう、冷気を放つ短剣をリリアンヌの首筋から離さず、少年はリリアンヌを縛ろうと手首に縄をかけようと俄かに動いた。その隙をついて、火の精霊を呼び寄せた。
「シロ!」
ボッとリリアンヌと少年の間に灯った火種に驚いき、とっさに離れた少年に振り向いた。
「あちっ!くそ、陽炎か。」
先程の火種で火傷をしたのか、短剣を持つ手首を冷ましながら、灰色の髪に茶褐色の瞳を持つどこにでもいそうな少年と向き合った。
「ほんの威嚇のつもりだけだったのに…。」
そう、殺意が無く、魔法も使わないようだったので下位である火の精霊、シロを喚んで威嚇で火を。と頼んだだけだったのだ。しかし、まだ自身の力を扱えていない精霊は力量を間違えたようで、危うく召喚者のリリアンヌも背中に火傷をしそうになった。
「もう、シロ!この下手くそ。もう良いわっ。」
使え物にならないと判断したリリアンヌは、オロオロと空を漂っていたシロに還るよう言って、少年に目を移した。火傷を負ってからこちらに襲ってくる様子はない。
年は少年と言うよりは青年と言えるような年頃だ。少年と思ったのは、声変わりがまだ始まっていなかったからだろう。
「どっかで…。」
じっと見つめていたら、どこかで見た顔付きであることに気づいた。普段よく見る…。
「ジョーン兄さんと、リアン兄さんにそっくり!」
思わず声に出して指差せば、火傷の傷で顔をしかめていた相手は、更にしかめていて言った。
「あいつらと一緒にするな。僕は、ハイディリア家の次期当主のエイドリアンだぞ!農業だけしか能がないあの家に生まれた稀に見る秀才だって言われてるんだ。」
背後から襲ってきた彼は当初名乗り出なかったものの、自分から身分をあかした。自分で秀才だと言う割に、まだ魔法を習い始めたばかりのリリアンヌにやられ、身分を証した彼は相当な間抜けと見える。
たまにいるのよね、周りにちやほやされて育った馬鹿な奴が。
特に何を言うでもなく、冷めた視線を送る先には、自分を力説するエイドリアン。ジョナサンが次男であるから、これが長男、彼らの兄であろう。やはり兄弟、何となく似ていると言ったらあの二人は怒るだろうか。
「おやおや、ハイディリアのご子息ではないですか。」
ぼんやりそんなことを思い、彼を眺めていたら、邸の方から冷ややかな言葉が投げてよこされた。言葉の方へ視線をやれば、壁に寄りかかって退屈そうにエイドリアンを見やるルビウスの姿が。
「…カインド公。」
「招待もしていない農民が、邸に何の用で?」
「あんたが匿っている古代魔女を貰いに来た。」
火傷をした手首を庇いながら、リリアンヌの方に顎をしゃくった彼は、ルビウスから目を離さず言った。
「マリエダ様からかな?あの人もよく懲りずに…。あの手この手としてくるものだ。残念だけど君にリリアンヌは連れて行けないよ。」
「なら、無理に連れて行くだけだ!」
そう言ってリリアンヌに一歩足を踏みだそうとした彼は、意思とは反対に足が地に縫いつけられたように動かないことに気づいた。
「くそっ!卑怯だぞ、ルビウス・カインド。」
喚くエイドリアンをよそに、素知らぬ顔のルビウスは塀の外を何やら伺っていたが、やれやれと面倒臭そうにエイドリアンに答えてやった。
「何のことかな?よく辺りに張ってある結界に当てられなかったものだね。あぁ、魔法が使えない生身の姿で入ってきたからか。マリエダ様には、また出直して来て下さいとでも言っておいてくれたまえ。さぁ、お帰りはあちらだよ。」
すっと指差した方向には、壁の一部分が不自然にぽっかり空いており、エイドリアンはそちらに向かってぎくしゃくと何やら喚きながら歩いていった。
「おいで、リリアンヌ。」
面白そうにエイドリアンを見ていたリリアンヌだったが、ルビウスが邸に入って行ったため、大人しく彼について行った。
彼が向かった先は、自身の自室。リリアンヌが部屋へと入ったのを確かめ、後ろ手に扉を閉めた彼はそのまま扉にもたれかかった。どうやら相当お疲れのようだ。
「もう具合はいいのかい?」
そう聞くルビウスの言葉を背にして、部屋の中央に進んだリリアンヌはくるりと振り向いてすっかり良くなった事を主張した。
「おかげ様で。すっかり良くなったわ。だから庭を散歩してたの。雪が積もってるのね。」
窓辺に歩み寄り、そっとそこにある白い景色を見た。ここの雪は白い。レイヘルトンの雪は灰色で工場から上がる灰を交えているため、薄汚く時たま黒に近い雪が降り積もっても綺麗とは言えなかった。
「キャサリンさんが、夕方に帰って来るって言ってたのに、随分帰ってくるのが早くてびっくりした。」
暫く眺めていた景色から目を離して振り返ると、いつの間にか長椅子に沈み込んでいるルビウスがいた。
リリアンヌが口を開く前に、身動き一つせず彼が先に口を開いて聞いてきた。
「…あのハイディリアの愚息は、いつからいた?」
「うーん?エイドリアンって人?裏庭に来て少し経ってからだったと思う。」
「結界を強めないとな。」
ポツリと呟いてから、ルビウスは一層深く長椅子に沈み込んだ。
お疲れのルビウスに悪いと思いながら、先程のエイドリアンが言った言葉を彼に聞いてみる。
「あの人、私の事火種って言ってた。ねぇ、何のこと?私が古代魔女の風貌だから?」
疲れているからか、質問に答えるのが面倒くさいだけなのか、ルビウスはリリアンヌにチラリと視線を寄越しただけで、特に言ってはこない。それに気を良くしたのか、リリアンヌはベラベラと口から言葉が出てくる。
「それに、ドーリスっていう悪魔に見せられた夢で、母親を見たわ。あの人が私の母親何でしょう?」
―あなたはどこまで私の事を知っているの?
直ぐそこまで出掛かった言葉を飲み込み、変わりに違う言葉で問いかけた。
「他人が私の事知ってるみたいなのに、自分が自分の事を知らないって可笑しいと思わない?」
そこまで言い切ったリリアンヌに、ルビウスは漸く口を開いた。
「そうだね、君の言うとおりだ。約束でもあるしね。君の質問にはちゃんと答える。まずはこっちにお座り。」
まだ立ったままだったリリアンヌに自身の側に座らせると、ルビウスは姿勢を正して長椅子へと寄りかかった。
「順序を立てて話そう。まずは、アンジュリーナ・セシルだけど。」
「殺したのでしょう…?」
少し攻めた口調になってしまったが、ルビウスは特に気にした様子もなくゆるゆると首を横に振った。
「いいや、ドーリスの闇と共に封印しただけだよ。セシル家の人間に会った時、悪魔の気配がしたから、娘のアンジュリーナが悪魔に乗っ取られるのも時間の問題だと分かってた。けれど安易に手出しは出来なくて、君をその…囮にして誘き出そうと。危なくなった所で君をあの娘から引き離すつもりだったんだ。まさか君がフレドリッヒに会いに、のこのこ一人で出歩くとは思わなかったからね。…あぁ、悪かった。僕の考えが甘かったんだ。」
「あんなひどい目にあったのはお前のせいか!」とにらむ勢いでルビウスを見れば、彼は少ししょげて俯いた。
「だけど、一人で外を出歩いてはいけないと言ったはずだったけど?」
ちろりと横目で見つめられると、ふいと視線を外してリリアンヌは謝った。
いつもならば、誰か兄姉弟子が居て、一人になったことはなかったから。少し悪いことをしたと自覚しているリリアンヌは、気まずくなって話を先に促した。
「あぁ、ハイディリアの愚息か。」
渋い顔つきになりながら、ルビウスは渋々口を開いた。
「あのエイドリアンという愚息は、ジョナサンとジュリアンの兄だ。自分が優れていると抜かすとんでもない奴だ。まぁ、確かに卑怯な手を使うのは優れていると思うけどね。火種と言ったのか。」
「そうよ、なんことなの?」
「リリアンヌ、君はドーリスの闇で母君を見たのだろう?」
確かに見た。愛しそうに赤子の自分を抱いていた母。
「会ったけど。」
生まれから家族と呼べる人はなく、一人で育ったようなものだ。今更死んだ母親の事を言われてもあまり情はわかない。
「ウルーエッドであった戦は現国王のせいだけれど、その元凶になったのはその末弟のセドウィグ殿下とローズマリー様だ。ウルーエッド戦を良いように思わない人達は、セドウィグ殿下を陥れたと銀の魔女を火種と呼ぶんだ。」
[戦渦の火種]と悪意を込めて。
「エイドリアンには、ご両親がそのように教えて育てたんだろうね。ハイディリア家はウルーエッド戦で被害を被ったのだろうから。」
「ルビウスさん、それじゃ、私の事をまるでセドウィグ殿下の子供だと断言してるみたいじゃない!」
確かに母親がローズマリーならば、話の内容からして父親がセドウィグ殿下となる。
彼はリリアンヌが別荘へ来た時、のらりくらりとその話題をかわしていた。
「うん、あの時は断言出来なくて。だけど、君があの悪夢でローズマリー様の姿を見たのは真実なのだから、君はセドウィグ殿下の子供なんだよ。」
「でも、母親はそうかも知れないけど、父親はどうか分からないじゃない。」
「それは、アレックスが確認済みだよ。別荘でマリエダ様に襲われた時、アレックスが隙を見て君の呪いを少し解いたみたいだから。その時、髪と瞳の色が変わったろう?」
銀色の髪は黒へ、深紅の瞳は真っ赤な瞳となったあの時。
ぶるりと身震いをして、身をすくませる。
「君の本能か、ご両親の呪いかはわからないけどね。セドウィグ殿下に会えばはっきりする。」
そんなリリアンヌを見ながら、ルビウスは言葉を繋げる。
「来週、セドウィグ殿下との面会が叶う事になったんだ。彼と会えば幾らかすっきりすると思うよ。」
なんで急にと抗議するリリアンヌを余所に、週末は空けとくんだよ?と念を押してルビウスは朗らかに立ち上がった。
「会ったら、なんで私が狙われてるかわかる?」
ぼそりと呟いた所を机に向かって歩いていたルビウスは、少し笑って振り向いた。
「少しは関係あるかな。君を狙っているのは、前にも言ったように、爺様の妹にあたるマリエダ・コウリィースだ。あの人は、ウルーエッド戦での呪い返しの術を諸に身体で受けてしまって、身体が腐敗するという呪いが死ぬまでついて回ることになったんだ。君も見たことあるだろう?あの人の腐敗した身体を。普通ならば、身体が根をあげるとともに死が訪れる筈だけど、あの人は性格がねじ曲がっているからね―。」
投げやりに言った彼は、机までやってくると何やら机の引き出しやら机の上を漁り始めた。何かを探しているみたいであるが。
「じゃあ、マリエダとか言う人の都合で私は命を狙われてるの?」
「ん―、まぁそうかな。あの人は腐敗して身体が保たなくなったら、目星をつけていた新しい身体に魂を移すんだ。あの体は確か何人目だかしらないけれど。」
キョロキョロと辺りを見渡すルビウスは、まだ探し物が見つからないのかせわしく辺りを掻き探していく。
「ころころ身体を変えるから、腐敗は次の身体に変える事に早くなってるみたいだし。で、次の新しい身体がリリアンヌ、君って訳だ。セドウィグ殿下とローズマリー様の血を引くなら、魔力は相当なものだ。あの人は、魔力が強くて若い少女の身体が好みみたいだから。」
「ふーん。で、どういう風の吹き回しですか。前に聞いた時は、何も教えてくれなかったのに。」
「君が何も知らない方が、守るこっちにとっては都合が良かったんだ。それに約束したしね。質問には答えるって。」
「それはそっちの都合でしょう。そんなものに私まで付き合わされたら、たまったもんじゃないわ。」
「手厳しいな。」
苦笑いをして肩をすくめた彼は、ふと本棚に収納されている本と本の間にはさまっていた紙の束を見つけ出した。
「あぁ、こんな所に。ところでリリアンヌ、今学期は丸々休むように学校には届けを出してあるから、ゆっくり療養するんだよ。」
革で縛ってあるその束を引っ張り出し、黄ばんだその頁をめくっていたルビウスは、そう言って顔を上げ、ふとリリアンヌを見やった。
「って言っても聞かないか…。」
リリアンヌは固い決意を胸に、天井を見上げて拳を握りしめていた。
「理不尽だわ。いいえ、望む所よ!国王だろうが、根がひん曲がった魔女だろうが、来るなら来い。こてんぱにやっつけてやる!」
そんなリリアンヌに小さく溜め息をついたルビウスは、まだ幼い少女に言い聞かせるように話しかけた。
「いいかい?まだ半人前の魔女一人が立ち向かえるほど相手は少なくないし、弱くない。」
「ご心配なく。自分の身は自分で守るから!私が何にも知らずにぷらぷらしてたから、ルビウスさんが苦労してたのよね?これからは自分の事は自分でするから、ルビウスさんはどうぞ自分の仕事に専念してください。」
「いや、だから…。」
「会議やら何やらで忙しいものね。魔法は自分で勉強するから大事よ!そうとなったら勉強しないと。私、部屋に戻るわ。」
「こら、リリアンヌ。ちょっと待ちなさい!」
ルビウスの呼び止める声を無視して部屋から駆け出したその背後から、投げやりなルビウスの声が追ってきた。
「あぁ、もう。リリアンヌ、邸から出るんじゃないよ!来週末まで僕は身体が空かないから、それまで大人しくしといてくれ。」
「はーい。」
了解、了解と繰り返すリリアンヌの背後を部屋から顔を出して見送っていたルビウスは、ため息をついて部屋の外にいたジョルジオに声をかけた。
「リリアンヌから目を離さないように。彼女は何をしでかすか分かったもんじゃないから。くれぐれも頼んだよ。」
念を押されたジョルジオは、静かに頭を下げて了解した。
「ところで、若様。先程チェスター公爵様から、使いが参りました。」
そう言って懐から差し出された上質な手紙を受け取ると、早速封を開けて目を通した。その口元が緩んだのを目ざとく見つけたジョルジオは、機嫌が良くなった若主に優しく問いた。
「色好いお返事を頂けたようですね。」
「あぁ、彼女はあの短気な母上の友人とは思えないほど気さくな方だからね。戻ったら直ぐに返事を書くよ。チェスター公爵には返事が遅くなると、ジョルジオ、君から伝えといて。」
手紙を直し、いそいそと部屋に戻って出掛ける支度をする若主に、今度は少し不安げなジョルジオの声が掛かった。
「今度はどれほど邸をお離れに?」
「研究にしか興味が無い堅物が相手だからね。いくらこの古記があると説言っても、得するのに時間がかかるだろう。それに魔法省の仕事も色々あるから、かろうじて週末に戻れるぐらいかな。」
「お忙しいのは重々承知ですが、まともにお休みになられていないのでは?それにお弟子さん方の事もほったらかしのようですし…。」
ジョルジオの言葉に耳を傾けながら、全く外出する支度を止めずに、真っ暗なマントを羽織った。
「僕は大丈夫だよ。あの子達には悪いけど、今は手が放せない。折りをみて指導するよ。レイチェルは試験があったっけ?予定を空けとくよ。ほんとにジョルジオは、心配性だな。」
とんがり帽子を被ったのを合図に、ジョルジオは脇に退き、その隙間を通って廊下に出た。
「留守を頼む。くれぐれもリリアンヌのことよろしく。」
「…お気をつけて。」
念を押す若主の背を見送る老執事は、小さくため息をついて頭を下げた。
「行ってくる。」
その言葉を最後に、廊下には誰一人としていないこざっぱりとした廊下だけとなった。だが、間を開けることなく、本館から喧しい声が彼の耳に届いてきた。時計を取り出して見れば、もう直ぐ夕刻。恐らく、授業が早く終わった弟子達が帰って来たのだろう。
留守にしている若主に代わって、またやんちゃ坊主達を叱らなければならぬのかと、年よりには見えない老執事は憂鬱気に歩き出した。