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第十一話 初めての登城

「ようこそ、王都へ!」


扉の向こう側には、貴族が住まうであろう屋敷の廊下が見えていたが、先程はこんなおじさんは居なかったぞとリリアンヌは怪訝そうに眉をひそめて相手を見つめた。


彼女の目の前には、初老の少し手前と見える男性が両腕を広げて立ちはだかっていた。


襟が着いた白い肌着の上に黒のチョッキを着こなしていて、腕を捲る姿は随分と若そうに見える。

けれど、若い姿の下から漏れ出てくる長年の貫禄が、初老を迎えるほどの年であると物語っていた。


背後を振り返るとマーサ小母さんとまだ話をしているルビウスの姿が、開け放たれた扉の向こうにぼんやりと見えた。


「もし、そこのお嬢さん。そんなに警戒せずとも。わたしと一緒に街に行きませんか?街は今、十年に一度しかない~シャルルのお祭り~がやってますし…」


そんなふうに嬉々として語る男性の顔面に突如、銀色の甲冑かっちゅうがリリアンヌの後方より飛んで来てぶち当たり、彼は派手にひっくり返った。


「爺様、うちの愛弟子に何をしてらっしゃるんでしょうかね?」


冷ややかに片手で扉を閉めながら、ルビウスが男性に視線を向けている。


「失礼なっ!わたしは、可愛い孫とその愛弟子に直々に挨拶をと」


床に仰向けになったままの男性は、どうやらルビウスの祖父のようだ。


「何を仰います。ちゃっかり手を出そうとしていたではありませんか!」


「なに、これしきの事。手を出したことには入らんな」


得意げに微笑みながらむくりと起き上がった男性は、床に座り込んだままルビウスを眺めている。少し癖づいた黒髪はまるで寝起きのようで、綺麗に撫でつけた髪が所々あらゆる方向に跳ねている。


「反省してないんですね。…こんな所に良さそうな槍が」


「ままま待ちなさい!」


ルビウスのすぐ右脇にあった、頭の部分だけがない鎧が持つ銀色の槍を手に取って彼に向けた。

殺気立ったその行動に、鋭く尖った槍の先端を向けられた男性が両手を振って慌てて止めた。優しそうな淡い紫の瞳が、恐ろしさで潤んでいる。


「冗談に決まってるだろう。槍をしまいなさい、危ないだろう。何を怒っているんだ?お前らしくない」


「貴方には関係ありません」


問いかけられたその言葉にぶすっと愛想悪く返したルビウス。槍を元の場所にしまい、いつの間にかこっちに来ていたレイチェルと不思議そうに二人の会話を聞いていたリリアンヌを見た。


「紹介するよ。彼は、私の爺様でシリウス・カインド」


立ち上がって身なりを整えている彼は、股下が分かれた黒の洋服についた埃を払いながら、はじめましてと微笑んでいる。到底、ルビウスの祖父とは思えない外見の若さである。


「爺様。後ろに隠れているのが、六番弟子のレイチェル・ディオムです。手前が七番弟子のリリアンヌ」


紹介された二人は、シリウスに向かっておずおずと頭を下げた。


「ほーぉ。ディオム家の末娘殿とあの噂のリリアンヌ殿だったとはね」


ふむふむと二人を眺めながら一人頷くシリウスを無視して、ルビウスは二人に外に行っておいでと言った。


「私は爺様に話があるから。ジョルジオ、案内してやってくれ」


ルビウスがそう声を掛けると薄い茶色の執事の制服を着た年配の男性が、シリウスの後ろに静かに姿を現した。


「畏まりました、ルビウス様」


「爺様、少し良いですか?」


頭を下げる執事の脇を通って、ルビウスはシリウスと共に去っていってしまった。


「お嬢様方、お初にお目にかかります。カインド本邸で執事長を任されております、ジョルジオ・ターナーと申します。わからぬ事が御座いましたら、何なりと私にお申し付け下さい」


「はじめまして。私はリリアンヌ、こっちはレイチェルよ」


柔らかな笑顔をジョルジオに向けると、濃い青色の冷たい瞳が穏やかに細められた。


「ほら、レイルも挨拶しないと」


後ろに隠れたままのレイチェルを肘で促す。


「…こんにちは」


しかし、リリアンヌの背後に隠れたまま、小さくそう言っただけだった。


「すいません」


「ようございますよ…お気になさらず。人見知りなのでごさいますね。では、リリアンヌ様、レイチェル様。お庭に案内致しましょう」


レイチェルの愛想のない挨拶にも顔色一つ変えず、ジョルジオはさっと身を翻して二人を案内する。


「みんな、どこ行ったんだろ?」


きょろきょろと廊下を見渡しながら、リリアンヌは独り言のように呟いた。


「ハイディリアご兄弟は先程、中庭におられました。他のお弟子の方々はお出掛けになられたようです」


機械的に答えるジョルジオにそうですかと言葉を返した時、ふとどこからか視線を感じて振り返った。


「リリア、どうした?」


右斜め後ろに歩いていたレイチェルが不思議そうに聞く。


「誰かに見られてたような気がして…。気のせいかな」


後ろを振り返ると深い森のような緑の絨毯の先に、別荘に続く淡い黄色を帯びた白い扉が突き当たりに存在していて、その両脇に銀色の鎧がある。

右側には、規則正しく並ぶ長方形の窓が。反対には、明るい茶色の扉が数えるほどあるだけで、人が隠れそうな場所は無い。


「いかがなされました?」


二人の前方を歩いていたジョルジオが、歩みが止まった二人に気がついて後方より声をかけてきた。


「誰かに見られてた気がしたんですけど、気のせいみたいです」


首をすくめて再び歩き出そうとするリリアンヌをジョルジオは反対に引き止めた。


「どの辺りから視線を?」


キラリと濃い青色の瞳を光らせるジョルジオに困ったように笑って、リリアンヌは一番遠い窓を指差した。

ジョルジオは足音を響かせながら、それこそシリウスよりも年を取ってると見えるその体格で、窓に近くと両窓を外へと勢い良く開け放した。


「…どうやらリリアンヌ様の言うとおり、気のせいのようです。人がいたとしてもここは三階ですので」


暫く外を窺っていたジョルジオは、窓を閉めながらそう言った。


「さぁ、気を取り直して。中庭に参りましょうか」


混じり気のない鮮やかな黄色の短髪を靡かせて、ジョルジオは戻ってくると二人を少しせき立てるようにその場を離れた。


広い階段を降りて中庭へと案内された二人は、四面を邸で囲われているとは思えない程、広く明るい綺麗な庭に言葉を失った。


「…凄く綺麗で暖かい庭だね」


数段しかない階段近くにあった白い薔薇の花壇を見ながら、リリアンヌはそう表現した。


「リリアンヌ様はこの庭を見て、そのように思われましたか。…昔、この庭を見てそう表現された方が一人だけおられましたのを思い出します」


「へぇ、誰?」


リリアンヌの興味気な質問に、ジョルジオはしばし間を開けてから首を傾げて答えた。


「もう…、忘れました。私も年ですね」


そんな筈は無いだろうと口を挟もうとしたが、賑やかなハイディリア兄弟の登場でその話は打ち切りとなった。


「リアン。お前、ちょっと食い過ぎじゃねぇ?」


「ジョーン兄さんの方が食い過ぎだよ」


「いいや、違うね。その焼き菓子、美味そうじゃん。もーらいっ」


「あー!それ最後に食べようと思ってたのに~」


片手いっぱいにお菓子を持つ二人は、何やら楽しそうに歩きながら話をしている。


「ジョナサン様、ジュリアン様。また厨房に忍び込んで、キャサリンのお菓子を摘み食いなさったのですね」


小さく溜め息をつくジョルジオには気付かず、中庭に降り注ぐ柔らかい光を浴びて、二人は仲良く言い合いをしている。


「キャサリンって?」


知らない名だと隣にいたレイチェルに聞いてみる。


「知らない」


レイチェルも知らないと言うように首を傾げて答えた。リリアンヌは顔を正面に向けて、兄弟子達を眺めた。ジョルジオが二人の間に入って二人を叱っている。


「私はキャサリンのお菓子に手を出さないようにとあれほど申し上げたはずですが。一体、どちらが言い出したんですか」


呆れたようにジョルジオが兄弟に聞くと彼らはお互いを指差して答えた。


「「こっち」」


「何だよ、ジョーン兄さんが言い出したじゃないか!何、人に罪を被せてるんだよ」


「はぁ!?リアンが、挨拶代わりにキャサリンのお菓子盗もうって言っただろうが」


「言ってない」


「言ったね」


「二人ともいい加減にしなさい」


耳が遠くなりそうなほど延々と続きそうな言い合いは、向かいの黒みを帯びた茶色の大きな両扉から現れたルビウスの言葉でぴたりと終わりを告げた。彼は右脇に、みずみずしい緑を思い浮かべる緑色の瞳と明るい金色の髪をした背の高い華奢な女性を連れている。

うねった長い髪を首の後ろ側で一つ括りにしており、白い料理人の服装を身にまとっている。その服さえなければ、良家のお嬢様のように見えるであろう。はっきり言って、たいそうな美人だ。


「何を言い合ってのるかと思えば、またキャサリンのお菓子を盗んだのか」


やれやれと肩をすくめたルビウスは、向かい側にいたリリアンヌとレイチェルに視線を寄越した。


「リリアンヌ、レイチェル。これから国王に会いに行くよ。レミとソラという侍女がいるから、着替えさせて貰って玄関に来るように。ジョナサン、ジュリアン。君達に、キャサリンが何か言いたいようだよ」


ルビウスが言い終わるや否や、彼の隣にいた女性が前に大きく一歩踏み出した。腰に手を当てて、大きな声でジョナサンとジュリアンを怒鳴った。


「あたしが丹誠込めて作ったお菓子を盗み食いするなんて!覚悟は出来てるんでしょうね、二人とも!!」


綺麗な容姿に不似合いな、どす黒い雰囲気を纏った彼女は、口々に言い訳する二人を無視して靴音を響かせながら近づいて行った。

兄弟の後頭部の真下にある襟元をむんずと掴むと引きずるようにして、中庭の隅にあった小さな木の扉の向こうへと消えていった。


扉が閉まった後、二人の悲鳴が中庭に響き渡っていた。


呆然と中庭に佇んでいたリリアンヌとレイチェルに、ジョルジオがキャサリンだと丁寧に教えてくれた。


「住み込みの料理人で、料理の腕は素晴らしいんですよ。怒ると手が先に出てしまう、少々困った所がございますが」


少々ではない気がするが、そこにはあえてふれずに無言でリリアンヌは小さく頷いた。


その後に現れた、赤毛を持つ双子のレミとソラにリリアンヌとレイチェルは各々部屋へと連れて行かれ、魔法師の正装である黒服に着替えさせられた。


上下がひとつづきとなっている真っ黒な服の裾は膝上にあり、その下にいかにも子供用だという丸い襟がついた淡い赤色肌着を着せられた。


少しでも動けば、風を含んでふんわりと女性特有の裾が広がり、危うく下着が見えるのではないかと心配になる。


指定の黒い革靴は踝の上まであるが、紐の縛り方が緩いのか歩くたびカポカポと間抜けな音が鳴るのがどうも好きに慣れない。


頭を通して着るだけの覆いが付いた黒の外套は、大きく作られているようで下の洋服まですっぽりと隠れてしまい、まるで何も履いていないかのように錯覚する。


この国では、男女共に十六歳で成人となる。

女性は成人前であるなら、膝上の女性特有の洋服を着ると決まっている。反対に成人した女性はくるぶしまである丈の長い洋服を着る。因みに、男性は成人になると膝下が見える衣類は着てはいけないことになっている。


「大変お似合いです」


深い赤毛に白に近い金色の瞳を持つ双子の片割れが、リリアンヌを見て誇らしげに笑った。


「この外套、何とかならない?」


袖口が広く、ひらひらと舞う袖を掴んでリリアンヌは困ったように聞いた。


「お気に召されませんでしたか?」


少し悲しそうに聞く片割れに、慌てて違うと両手を振る。


「それはようございました。もう直ぐ、レイチェル様も準備が整う頃でございましょう」


その言葉を合図に、目の前の扉が派手な音を立てて開いたと思ったら、リリアンヌと揃いの黒い服装で身を包んだレイチェルが、瞳に涙を溜めて駆けてきた。その表情を見れば、余程人に触られるのが嫌だったのだろう。


「リリアっ」


ててっと両腕を伸ばしながらリリアンヌに近づくレイチェルを横目に、双子の片割れ(リリアンヌについていたほう)は、静かにそっくりな片割れに聞いた。


「レミ、何でレイチェル様は泣いてらっしゃるの?」


「わからない。着替えをお手伝いさせて頂こうと思ったら、いきなり泣き出されてしまったよ。ソラ」


「それは、貴方の手伝い方が雑だったからでは?レミ」


「そうなのかしら、ソラ」


「どうなのかしら、レミ」


全く同じ容姿で、機械的な同じ声、口調で会話をする二人を見ていたリリアンヌだったが、段々気分が悪くなってしまった。


気にしないでと二人に言って、逃げ出すようにレイチェルを連れてルビウスが待つ玄関へと急いだ。


玄関の両扉を勢いよく開け放って邸の外に出たリリアンヌ。ふと後ろにそびえ立つ大きなカインド邸を見上げた。

赤紫の黒みを帯びた壁色に、暗い赤みがかった茶色の扉が規則正しく並び、渋い紫がかった緑色の屋根はどれも穏やかな斜面を描いている。

別荘の建物とは対照的な珍しい邸だ。何故、こんなに渋い色合いにしたのかは理解出来ないが。

ここは、何とも風変わりな邸…と言うだけに留めておこう。


「リリアンヌ、何を見ているだい?」


優しくかけられた言葉に振り向けば、にっこり微笑んだルビウスがいた。


「…変わった邸だなって」


やんわりと素直に思った感想を述べると言いたい事が伝わったのか、可笑しそうにルビウスは邸を仰いで笑った。そして、リリアンヌを促して門の目の前に止まっている二頭立ての馬車へと歩き出した。


「随分と控えめな感想だね。それに邸は住む者を表すんだよ。…僕の祖父母はかなりの変わり者だから。あの邸の趣味は僕じゃない」


クスクスと笑っていたルビウスに釣られて、リリアンヌもクスリと笑みを零した。


「ねぇ、さっきマーサ小母さん達と何を話してたの?私の話だったでしょう」


尋ねたその内容に困ったと言うように顔をしかめたルビウスは、言葉を濁すように小さく答えた。


「…うん、まぁね」


答える気はさらさらないな。

そんなふうに察したリリアンヌは、半ば諦めの境地で溜め息を零した。

溜め息を零した良い頃合いに、はたりと突如立ち止まったルビウスはリリアンヌとレイチェルに振り返った。


「リリアンヌ、レイチェル。これから城に向かうけれど、一番大事なことを言い忘れるところだったよ」


「…私達が一緒に行く意味ってあるの?」


「あるから言っているんだよ」


出来れば登城したくないと匂わすリリアンヌに眉を寄せて、ルビウスは彼女を見つめた。


馬車はもう目の前だという所で、ルビウスは左膝を地面に着いて二人に視線を合わせた。


「いいかい?城には国王がいらっしゃる。あの人の前では、絶対に私語は禁止だ。…いいね?」


訳が分からずも静かに頷く二人を交互に見つめたルビウスは、声を潜めて話を続けた。


「それから…」


「カインド魔法大臣」


咎めるような呼び声に、ルビウスは顔をしかめて声の主を振り返った。


「ルーベント宰相」


「お弟子さん方に余計な事を吹き込まないで頂きたい」


ルビウスと年頃は同じぐらいだろうか、馬車の後ろ側から一人の青年が現れた。淡い灰色の瞳を細め、銀色の細長い眼鏡を右手の中指で押し上げている。

肩まで掛かる淡い青色の真っ直ぐの髪と合わせれば、冷たい印象を受ける。


きっちりと濃い青色の細長い布を襟元で結んだ彼は、見てるこっちが肩が懲りそうな程、一寸の狂いがない完璧な容姿で佇んでいる。


「色々な知識、世の中の事を教える事が私の師としての仕事です」


「貴方のようなまだ年若い方が、師と呼ばれるとは」


ふんと鼻を鳴らして小馬鹿にしたような態度を取って、冷ややかな視線を投げつけた。


なんとも失礼なその態度に、リリアンヌは何か言い返してやろうと口を開いたが、それより早くに口を開いたルビウスに遮られてしまった。


「そのお言葉、そっくりそのままルーベント宰相あなたにお返ししますよ」


「…どういう意味です?」


「そのままの意味ですが」


「いいでしょう。…お迎えにあがりました、どうぞ馬車へ」


「わざわざ宰相殿直々にお迎えとは、よっぽど私は陛下に信用されていないようですね」


馬車の中へと促す青年にそう苦笑しつつ、ルビウスは背後にいたリリアンヌとレイチェルに、覆いを頭にすっぽりと被せた。その上に手のひらを置いて、ポンポンと軽く叩いて言った。


「取らないようにね。さぁ、行こうか。王が住まうところへ」


こっそり囁いて、ルビウスは二人を先に馬車へと導いた。全員が馬車へと乗り込むと青年が御者に合図し、馬車はゆっくりと走り出した。


「そう言えば、まだ名を名乗っておりませんでしたね。わたくし、リヴェンデル国の宰相を務めております、ルノ・ルーベントと申します。以後お見知り置き下さい。…陛下に謁見する際に諸注意がごさいますので、よくよくお聞きくださいますようお願い致します。これからお会いする国王は、誇り高き第37代現国王陛下です。くれぐれも粗相のないように。次に、城内じょうないではどんな魔法師であれど、魔法魔術は禁止です。特にルビウス・カインド公」


レイチェルの向かいに座るルーベント宰相は、じろりと視線を右隣に座るルビウスに向けて言った。


「貴方は、計百八回もの城内違反を犯してらっしゃる。このままでは、大臣として下の者に示しが尽きません。もっと自覚を持って行動していただかないと」


厳しく咎められたにも関わらず、ルビウスはまったく反省を見せずにわかってますと答えるとリリアンヌとレイチェルに向かって「二人とも法衣が似合ってるね」と微笑んだ。


そんなルビウスを見ながら、ルーベント宰相は溜め息をついて話を続けた。


「今日の披露式の流れですが、国王の始まりの言葉をまず頂き、その後チャーリー第一王子のお披露目。カインド公の六番弟子と七番弟子の紹介、各大臣達の報告等、そのあと休憩を挟み、夕刻より夜会となります」


さらさらと喋るルーベント宰相の意味が分からず、首を傾げてリリアンヌはルビウスを見た。見つめられたら本人も、やや困った様子で肩をすくめて補足をしてくれた。


「今日は、第37代国王の婚礼式なんだ。僕の伯母にあたるシャロン伯母上は、従兄弟のチャーリーを産んで直ぐに夫を亡くされた。僕の祖母の弟にあたる国王は結婚されていないし、跡取りも必ず必要だ。それで、シャロン伯母上とチャーリーも王家の血筋だからと今回、結婚が決まったらしいね。実は僕も、お二人の婚礼式の事を今朝知ったところなんだ。そのため、今日集まるのは身内のものとごく少数の大臣、幹部だけ。だから、今日の事はしばらく内密と言うことらしい。その流れで、国王に謁見しろと。魔法師は、新しい弟子をとったら国王に見せる事になってるから」


難しい顔をしたルビウスを眺めて、リリアンヌはふーんと納得した。


「カインド家は現国王の姉君、今は亡き女王の嫁ぎ先です。血は薄れど、チャーリー王子は立派な王家の血を引くお方です。何の問題も在りません」


淡々と答えるルーベント宰相をちらりと横目で見たルビウスは、溜め息を交えて小さく呟いた。


「叔父と姪にあたるという問題だよ」


そんな話の最中もリリアンヌ達を乗せた馬車の車輪は、軽やかに城へと向かっていた。

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