古城の子供達
山々に囲まれた緑豊かな場所に、石造りの古城が立っていた。古城には老人と子供が四人、そしてお手伝いさん一家が暮らしている。
古城は二階建てこじんまりとし、それぞれの部屋は小さい。また、四方に三階建て程度塔が建っており、それを繋ぐ塀に囲まれていた。塀の中には、剣の修練場、魔法の修練場、野菜畑等があり、子供達はその中で暮らしていた。
老人の名はオーウェン。長い白髪を後ろで束ね、黒いローブを纏っていた。少し面長なシワのある顔はいつも微笑んでおり、肩には羽のある妖精達が舞っていた。そして、古城の主人としてお手伝いさんに仕事を頼み、子供達には勉学と魔法、剣術を指導していた。
*****
アイリは10歳の女の子。銀髪のストレートが腰の辺りまで伸び、瞳は深いブルーでキリッとしている。子供達の中では最年少、いつも元気いっぱいだ。朝、アイリは起きると桶の水で顔を洗い、手早く水色のワンピースに着替え青い靴を履き、そしてまだ髪をとかさぬうちに食堂へ向かうと、エリーゼに捕まった。
エリーゼはアイリの二つ年上12才。金髪の腰まであるゆるい癖毛を綺麗に整え、エメラルドグリーンの大きな瞳に長いまつ毛が華やかな顔立ちだ。今日は淡いピンクのワンピースにペチコートを着てふんわりさせ、編み上げの白い短いブーツを履いている。
「おはよう、アイリ。また、髪を整えてないのね!こちらへいらっしゃい!」
エリーゼの部屋で鏡の前に座らされ、花のオイルをひと雫落とし髪をブラッシングされる。
「アイリ、お姫様はね、身だしなみを整えてから部屋を出るのよ。服もほら、襟をちゃんと整えて、スカートの裾、チェックしてね。王子様がどこから見てるかわからないわよ。」
「王子様なんて此処にいないよ。カインとライトしかいないし?」
「いつどこで出会うか分からないわ。日頃からちゃんと準備しておくの。靴を踏んではダメよ!足先は大切な人にしか見せてはいけないわ。」
「はーい!」
エリーゼの姿見横の机には「お姫様の嗜み」という教科書がいつも置いてある。他にも「月下の王子様」「姫と王子の冒険」等があり、表紙の王子様は素敵だ。
二人は髪を整えて部屋を出た。一階からいい匂いがする。
「おはよう。」
「おはよう!」
食堂ではお手伝いさんのタタとカカ夫婦に子供のピピとポポの四人が料理をしていた。お手伝いさん一家は片言しか話せないが、鼻歌を歌い陽気な人達だ。食卓にはパンにスープ、サラダにチーズが並んだ。
続いてあくびをしながらカインが入って来た。
「おはよぉ」
カインは14才、短い栗毛をオールバックにし、栗色の瞳は切れ長。薄茶色のシャツに黒のズボン、黒の短いブーツ履きダラダラと歩く。
「おはよう。もう!だらしない!」
「ハイハイ。お姫様、ご機嫌うるわしゅう?」
エリーゼは駆け寄りカインのシャツのボタンを留める。そしてプンプンしながら「シャキッとして」と背中を叩く。
最後にライトが入って来た。
「おはよう。」
ライトは年長の15歳、金髪は軽くウェーブ、琥珀色の瞳、整った目鼻立ちをしている。姿勢良く立ち、白いシャツ、グレーのハーフパンツは膝下でリボンで絞り片結び、絹のハイソックス、薄い革靴を履いている。ライトは皆が席に着いたのを確認して声をかけた。
「今日の予定は午前は剣術、午後は魔術。オーウェンが帰ってくるのは明日。他に何かあったかな。」
カインが小さく手を挙げる。
「俺は剣術の代わりにタタの薪割りを手伝う。」
ライトがカインに頷き、他に何もないようなので手を合わせる。
「感謝を」
続いて皆も復唱し、食事を始めた。
*****
食事後、カインは薪割り、他三人は剣の修練場に向かった。三人はそれぞれ指で空中に短い魔法陣を書くと、剣を持った精霊が現れ、そして向かい合い剣で戦い始めた。ライトは他の二人より強い精霊と力強く剣を交える、エリーゼとアイリはワンピースを着たまま精霊と舞を踊るように戦い始める。普段着でも戦えるよう時々スカートでも戦うのだ。
薪割りを終えたカインが修練場へやって来た。
「アイリ、剣には気合いをのせろ!」
カインがアイリに指導する。そしてエリーゼを見た。
「おてんばなお姫様がいたもんだ。王子様が逃げ出すぜ。」
「お姫様だって強い方が良いのよ!」
エリーゼが精霊と剣を交えながらカインにプンプン怒る。
「さて、そろそろお昼かな。」
ライトが爽やかに剣を納めてアイリに微笑む。
アイリはライトの立ち姿が素敵だなと思いつい言った。
「王子様ってライトみたいな感じかな?」
エリーゼは強く否定する。
「違うわ!もし王子だとしてもライトは腹黒王子だから!」
カインが同意する。
「そうだ。アイリ、騙されるなよ!」
ライトはにっこりと微笑む。
「二人共、アイリが誤解する事言わないでくれ。」
「あの笑顔が怖いのよ。」
エリーゼとカインが珍しく頷き合う。
*****
昼食後に休憩をとり、四人は魔法の修練場にいた。それぞれ魔法書を持ち、術式や魔法陣を確認しながら魔法の力を強めたり、覚えたりしている。魔法陣は主に人差し指で空中に描く、その時、指の爪は自分の瞳の色に輝く。今日はオーウェンがいないので攻撃系は禁止だ。それぞれが魔法書を読み、魔法陣を試していく。すると、ライトが皆に言った。
「皆、ちょっと手を止めて。」
そう言うとライトは魔法陣を描いた。辺りが明るく光り、フィラの白い花が四人の足元から噴き上がるように一面に咲き誇った!キラキラと眩くフィラの花畑にアイリがキャッキャと喜んだ。
「綺麗!!ライト凄い!」
「一度試してみたかったんだ。」
ライトは一輪摘み、アイリの髪に挟んだ。アイリはちょっとはにかんで、嬉しそうにくるりと回った。
カインはげんなりした顔をした。
「これ、消す魔法はあるのかよ?片付けどうすんだ。」
エリーゼは呆れ顔でカインを見る。
「この花畑を見て、他の感想は無いの?」
「無い。」
カインの答えにエリーゼがキィキィ文句を言っているのをアイリとライトは笑った。
その後、四人は花畑に腰を下ろして魔法書を読んだ。分からない所を教え合ったり、寝そべるカインにエリーゼとアイリが寄りかかったり賑やかだった。
*****
夕食の片付けが終わるとお手伝い一家は離れに帰る。お風呂は二つあり、順に汗を流す。ライトは風呂に入ると眠くなり早々に部屋へ。続いてエリーゼが髪と肌の手入れをすると部屋に戻った。残ったアイリはライトに本を読んで欲しいと頼んだ。食堂にはテーブルの他にソファがあり、二人は座った。
「アイリ、膝に座るかい?」
「のらない!」
そう言いながらも大きな膝掛けを肩までかぶりライトに寄り添う。時々、心細くなる夜はこうする事で安心する。
「小さな時は座ってくれたのに。」
ライトがからかって本を開く。幼い頃、アイリは夜が怖くてよく涙を溜めていた事を思い出す。
本は「龍と魔法使い」という童話でアイリは何度も読んでもらっていた。話が面白く、ライトの読唱は心地よくて大好きだった。
「魔法使いは……」
読み進めているうちにうとうとしているアイリに気付き、静かに本を閉じた。
「そろそろ寝ようか。」
眠そうに頷くアイリを抱きかかえ部屋まで運ぶ。そしてベッドに下ろし布団をかけた。
「おやすみ。」
静かに部屋を去るライトを薄目で見てアイリは心地よい眠りに落ちた。
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