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はじまり、はじまり

彼女は人を待っていた、昨日は来なかった、もしかしたら今日も、それでも待ち続ける。

カチ、コチ、カチ、コチ、

左手に嵌めた、傷だらけの腕時計の音が辺りに響く。


「今日こそ、会えるかな。」


待つのは辛くない。

時間だけはあるから。


時を刻む音が少し胸を締めつけることには慣れない、それでも、待つと決めたから。


「そろそろだと、思うんだけど…。」



あれから何年経っただろうか。

ユウの遺してくれたニホンゴを解読するため、かなりの年月を費やしてしまった。


お祖父様は、結局、ほとんど何も教えてくれなかった。

今思えば、案内人としてのお役目を引き継がせたくなかったのだろう。


その願いを私は裏切り、そしてまた、裏切る決断をしようとしている。


「でも、約束しちゃったしなぁ。」


彼に、ユウに託された。

次に繋げと。託せと。


私は彼を死地に追いやった、卑劣な女だ。

あそこに行けば死ぬとわかっていて連れていった。


そうしないといけないと、思っていたから。

そうするしかないと、思っていたから。


だけど、ユウは可能性を私に与えてくれた。


その時がいつかはわからないが、時間は自分たち長命種にとって味方だ。

…塔には敵わないが、なんて。

ユウのボヤキが移ってしまったと、一人吹き出してしまう。


その時だった、目の前が急に明るくなったかと思うと、見慣れた格好をした、見慣れぬ男が立っていた。


男は不安そうに、辺りを見渡している。


ユウもそうだったのだろうかと想像し、未だに自分の中心に居座っていることに苦笑いする。


まぁいい、今度は間違えない。

ユウが残してくれた物、ユウの遺志は私が継いだ。

まずは彼に事情を話そう。上手く行けばいいけど。


「ねぇ、…私はエスペラ、エスペラ・ルセロ。あなたの名前は?」



はじまり、はじまり

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