終わりと始まり
夜が明け、二人無言のまま、歩みを進める。
ゴールが近いからか、ゴブリンすらも出なくなった。
「俺の威圧感に慄いてしまったか、罪な男だぜ…。」
相変わらずエルファはダンマリだ。
何て考えてる間に、50層が見えてきた。
別れの時が近付いてきた。
「なぁエルファ、最後にこれだけ伝えとく。ここまで一緒に来てくれてありがとな。」
「……。」
振り返ってみたエルファの顔は何だかとても苦しそうだった。
そして、50層に足を踏み入れ、辺りを見渡す、
50層は驚くほど狭く、奥に何か、機械のような物があった。
「何だこれ…。」
「…装置。そう、呼ばれてるわ。」
「装置ぃ?なんだってそんな呼び方…。」
その時だった。
俺の周りが透明な見えないナニカに囲まれ空中に持ち上げられる。
「な、なんだこれ!?」
《キューブ内に到達者を確認、これより、処理を開始します。》
「はぁ!?」
とんでもなく不穏当な声が聞こえたぞコラ!
到達者ってのはここに来たやつってことか!?
ってマズイ、エルファは!?
慌てて振り返った俺をエルファは申し訳なささを極めたような顔で見つめていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。」
「おいおい、なんだよそりゃあ…。」
流石に俺でもわかる。嵌められた。
「こうするしかなかったの、あなたをここに連れてくるしか。」
謝り続けるエルファだったが、正直今は構ってる余裕がない。
とにかくここから脱出しないと。
そう思いながら、今までと同じように手からありったけの炎をキューブとやらに浴びせかける。
「オラァ!燃えて灰になれやぁぁぁぁ!!…あ?」
ゴブリンを、巨大蜘蛛を、道中の脅威を屠ってきた炎が全く通用しなかった。
「炎はダメか!ならこいつで!」
右手に持った片手剣を振り下ろす!ありったけの身体能力強化を発動させながら。
「…マジかよ。」
だが、キューブには1ミリの傷もついちゃいなかった。
《スキル吸収を開始します…。気配遮断、回収完了、片手剣術、回収完了…。》
俺の体から何かが失われていく。
今まで俺を支えてくれたスキル達は、アイツから与えられたものだったのか…?
ついに《アイテムボックス》を取り上げられたのか、キューブ内に荷物が溢れる。
「ち、ちくしょう、この、クソ野郎!」
俺は手当たり次第に、辺りに散らばったアイテムをさっきから喋ってる装置に投げつける。
キューブに当たって跳ね返っても、何度も何度も。
「ちくしょう!なんで!なんで俺なんだ!俺が何をしたって言うんだよ!!」
もう自分の運命はわかってる。俺はこのクソッタレな塔に食われちまう。
せめて痛くないといいな、なんて考えが頭をよぎる。
その時、部屋中にガラスを引っ掻いたような嫌な音が響き渡った。
《▼◆§∅◈※▽——————!!!!!》
「な!なんだぁ!?」
部屋、いや、塔全体が震えた。
それと同時にキューブがすごいスピードで縮み出す。
マズイ!
キューブに囚われ、残された時間も短い。
なんか、なんか無いか!このクソッタレな野郎に一矢報いる方法!
その時、さっき無我夢中で投げた水筒が装置に突き刺さっているのが目に付いた。
剣も炎もダメなのに、水筒程度で…?
いくら硬いって言っても所詮ステンレスだぞ?
違いっていったら、俺が元々持ってたくらいで…。
そこまで考えて合点がいった。
もっと前提を疑うべきだった。
水筒、スキル、片手剣、違いは何だ?
…エルファ!エルファに伝えないと!
あいつは決して無敵じゃない!これは負けイベントなんかじゃない!!
俺は慌てて辺りを見渡す、ノートは下に落ちてしまって取れそうにない。
「はは、二束三文なんて言って悪かったな。」
言いながら左手につけた時計を外し、数えるのも億劫になるほど手に入れたゴブリンの魔石を一つ掴み、裏蓋に刻む。
チキショウ!書きづりぃ!でも、やるしかねぇ!
考えることすら惜しむように、ひたすら魔石でメッセージを刻む。
後はコイツをエルファに渡すだけだが、あいつまだ下向いてやがる!いい加減にしろ!
「おい!エルファ!テメエいつまで俯いてやがる!こっち見ろアホ!」
さすがに俺の暴言に驚いたのか、豆鉄砲喰らったみたいな顔してやがる。美人が台無しだぜ。
エルファと目が合ったことを確認し、腕時計を投げつける。
「わりぃ!俺じゃ無理だった!次の奴に渡してくれ!」
「…な、何言ってるの!?あなた、私が何したか、わかってるでしょ!!?」
「桐島だ!」
「っ!!」
「桐島!桐島悠!俺の名前!忘れんなよ!」
ーーーーーブツッ
その言葉を最後にキューブは消滅した。
中身と一緒に。
もう、彼の…、ユウの言葉は聞こえない。
息遣いも、体温も、さっきまで、確かにあったものが、無くなってしまった。
…私が殺した。
「ユウ…。ごめんね、ごめんなさい。私が、わたしがぁ…!」
それは誰に対しての謝罪だったのか、彼はもういないのに。
自分でも訳がわからないくらい涙が流れた。
装置はユウを平らげて満足したのか、いつものように静かになってしまった。
もうなにも聞こえない。
そう思った私の耳にいつの間にか聞き慣れた音が聞こえてきた。
カチ、コチ、カチ、コチ、
…そうだ、ユウは言っていた。
塔は無敵じゃない。
ユウが託した遺志をここで無駄にしてはいけない。
そう考えた時に私の胸に一筋の光が灯った。
「大丈夫…繋ぐよ。必ず。だけどその前に、ユウの遺志を知らなくちゃ。」
そう誓った私は辺りを見渡す。
ここに残っているのは、ユウがキューブから落としたノート、それと…装置に引っかかったままの水筒。
水筒は取れそうにないが、仕方ない。
ノートを拾い、1人塔を歩く。
目的を果たした塔の中には魔物も居ない。
まるで私には用はないと言う塔をうらめしげに見つめながら私は塔を後にした。
この日、私は初めて、罪を犯したのだ。




