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絶望と決意

塔の中は控えめに言って地獄だった。


入り組んだ通路に、見たことのない化物たち。

まさに小説やマンガ、アニメの世界の住民たちとの邂逅は余裕ぶった俺の心を打ち砕くには十分だった。


無我夢中で通路を走る。周りの景色に目を配る余裕なんてない。

向かう先の天井を這うナニカを見た気がした。

それが何かを確かめる勇気すら、今の俺には無かった。



気付けば俺は、化物の見当たらない部屋の角で震えていた。



「な、なんなんだあれ。あれが噂のゴブリンってやつなのか?」


思い出しただけでも震えが止まらない。

緑色の肌、醜悪な歯並びに、歪な鼻、吐く息はひどく臭い、子どもの背丈に筋肉質な体。


それが集団で、殺意全開で追いかけてくるんだ。笑えない。



こちとら平和な世界に生まれて、この方本気の殺し合いなんて経験なしだ。

そりゃ逃げ出すのも無理ないさ。



「とはいえ、このままじゃジリ貧だ。俺も覚悟決めて、やらないとなのか…?」


何とか気持ちを前に向けて、独りごちるも、武器になりそうなのは勤務中に飲もうと思って持ってきた水筒くらいだ。


正直これだけであの集団の中に飛び込むのは…想像したくない。




「グギャギャ!!グギャグギャ!」


息が止まる。いや心臓すらも止まったかもしれない。

今の俺にとって、最も聞きたくない音が耳に届く。


だが幸か不幸か、どうやら奴ら、俺を探すためにバラバラになってるらしい。


さっきの追いかけっこを見るに、力自体は俺の方が上だ。

それは逃げ切れたことが証明してると言っていいだろう。


「あとは俺の覚悟次第か…」


生き物をこの手で殺めるという嫌悪感と、やらなければやられるという危機感が頭の中で争う。


思えば昔から、要領だけは良かった。

勉強も、部活も、仕事だって、その場のノリと勢いで乗り切ってきたんだ。俺なら出来る。


「どっちにしても、ここから出るにはあいつを何とかするしかないか」


そういって、もう一度、今度こそ、覚悟を決める。


水筒を持つ手に力が入る。


お気に入りだったんだけどな、コレ。



そしてようやく覚悟を決めた俺に応えるように、ゴブリンはゆっくりこっちに向かってきた。


さっきまで寝てたのか、こっちの気も知らずにやる気のなさそうな顔だ。


だがそんなやつでも、ここでは俺よりも格上だ。

俺はチャンスを逃すまいと集中して息を潜める。

自分の心臓の音が相手に聞こえるのではないかと心配になる。


その時だった、


ーーーー《気配遮断を取得しました》



「!!!!???」

思わず声にならない声を上げてしまい、慌ててさっきのゴブリンを見る。


が、奴が俺に気づいた様子は無い。


「いくらなんでも、この状況でこれかよ。わかったよ、やるよ。」


俺はさっき聞こえた声、《気配遮断》を意識する。


「なるほど、こういうことね。」

まるで自分が空気に溶け込んだかと錯覚する。


「これなら、なんとかなるかもな。」

そう言って俺はゴブリンの後ろに立ち上がり、腕を振り上げ、勢いよく振り下ろす!!


水筒越しに嫌な感触が手に届く。

命を奪うという行動から、少しでも逃れたくて目をつぶった。

初めは耳に届いた叫び声も次第に弱くなり、やがて止まる。

恐る恐る開く俺の目に飛び込んだのは血まみれになって苦悶の表情のまま息絶えた命だった。

俺がそれを理解した瞬間、

「うぐぅ!お”え”え”ぇ…。」

自分の手に残る不快な感触に思わず嘔吐く。

「ちくしょう…お気に入りだったのに。」

水筒を見てみると、ベッコリと凹んでいた。

今の俺のメンタルと、いい勝負だ。


《レベルが上がりました。各種ステータスが上がりました》


「なるほどなるほど、こうやってモンスター倒して、成長するタイプね。親の顔より見たラノベだわ。」


そうおどけながら余裕ぶる。


本当によくあるタイプだ。

言うのは簡単だが、ここまでキツイとは。


「このまま行けば、いつか俺TUEEEEで無双してハーレム作ってハッピーエンドか?…とてもそんな気にはならんが。」


よし、決めた。

俺帰る!!

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