日常の崩壊
夏の朝、今日も茹だるような暑さを堪えながら、会社への道を歩く。
新卒からこの方10年近く、毎日通った勝手知ったる通勤路。
名も知らぬ顔見知りとすれ違いながら、いつも目にする女性がいない事に気がつく。
「今日は遅刻か有給か、いい時代になったもんだ」
いつもと同じ、何も変わらない日常。
ーーーーそのはずだった。
俺は間違いなく、横断歩道を渡っていた。
白線を踏むはずの革靴は、見たこともない鮮やかな草を踏み、汁に汚れた。
周りは見渡す限りの木、木、木。
空は気持ち悪いくらいに真っ青だ。
そして、おあつらえ向きに、目の前には巨大な塔。
「……まさか、これが噂の異世界転移?」
俺もそこそこいい年だ。
もちろん異世界小説もいくつか読んでる。
このシチュエーションは完全にそうだと、俺の直感が告げている。
そう思いながら、ポケットからスマホを取り出す。
当然だが電波は圏外だ。
財布は…あるな。使えないだろうが。
弁当はちゃんと入ってる。とりあえず今日の昼飯は確保された。
案外悪くないスタートか?
「とはいえ、とりあえず帰るか。」
今は、部下も居るし、プロジェクトだって抱えてる。楽しむ前に帰る方法を探すのが筋ってもんだろう。
「この振り切れない感じ、サラリーマンの哀愁を感じるねぇ…。」
「とりあえずはあの目の前に見える塔へと向かうか。これみよがしに建っちゃってまあ。」
そう言いながら、俺は足を進める。
肌に張り付いたシャツはとっくに乾いていた。




