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守ってあげたい蠱惑姫と思いきや、1人で何でも出来る孤独姫でした〜捕まえておけないので自由にさせておきます〜  作者: 朔島 涼
一章.リヒトとエレノア

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6.大惨事ではない?!

夕刻、ふたりを乗せた馬車がロレーヌ邸に止まり、まず見えたのはリヒトにエスコートされホクホク顔のエレノア。『楽しかったのだなあ』っと微笑ましく見ていたお出迎えの使用人たちは、次の瞬間、その表情のまま固まり、背中にたらりと冷たいものが走るのを感じた。振り返ったリヒトの顔からは表情が全て抜け落ちており、疲労とも怒りとも絶望とも取れる負のオーラを全身に纏っていたからだ。


『お嬢様、いったい何を!』と心の中では皆同じことを思っていたが、誰1人それを口にする事はできなかった。そんな事を聞ける空気ではない。聞けば何が爆発する。しかしそこに勇者が現れた。


「リヒト様、本日はありがとうございました。」

「ああ。」

「とても楽しかったですわね。」

「…ああ。」


リヒトをこの状態にした元凶、張本人だ。勇者と大馬鹿者は紙一重である。


「わたくしの言った通り、誰かを『蠱惑』に巻き込んで大惨事を起こしたりはしなかったでしょう?」


えっへんと音が聞こえそうなくらい胸を張り、ドヤ顔で勇者は続ける。


「へぇ…」


明らかに空気が変わった。その勇者は大馬鹿者のうえ、着火剤でもあった。リヒトが纏うオーラは怒りの色が強くなる。


「変装すれば、全然問題ないのです。わたくしは変装のプロですから。」


ふふっと無邪気に笑うエレノアはそんなオーラに全く気付きもしない。『お嬢様ー!』使用人たちは固まったまま、心の中で泣いていた。絶望の涙である。そしてそれは爆発した。使用人たちが思っていたよりは静かに。


「ふぅ。君の言う『全然問題ない』がどう言う状態のことを言うのかは分からないけど、文字通りには受けとっちゃいけない事は分かった。」

「えっ?」


エレノアは心底リヒトの言葉の意味が全く分からないと言う様子で聞き返す。一言で表すならば正に『キョトン』である。


「えっ?じゃないよ、全く。」

「街で人気のおしゃれなレストランでランチして、大通りの雑貨店を見て回って、広場で話題の露店スイーツを食べて、とても充実したお出かけでした。」


うっとりと今日のお出掛けの事を思い出し、嬉しそうに話すエレノアを見て、項垂れるリヒト。怒りのオーラを鎮めて、もう怒っても仕方がないと諦めたようだ。


「…そうだね。たとえレストランを出た瞬間、すぐ横を通り過ぎた通行人に『魅了』をかけてしまい、捕まりそうになって【砂嵐】を起こして目眩しで間一髪逃げ切ったり。ふと立ち寄った雑貨屋の店主に養子になって欲しいと懇願され、僕を壁にしてなんとか店を出たけれど、店の外に出た瞬間、待ち構えていた従業員に僕ごと大袋を被せられ、連れ去られそうになったところ、【突風】で大袋を吹き飛ばして脱出したり。広場のベンチででスイーツを食べていたら周りで遊んでいた大勢の子どもたちに囲まれて、身動きが取れなくなってベンチの上に立ち上がり、足元に【上昇気流】をかけて大ジャンプして馬車の近くまで飛んで行ったり。まあ本当に色々あったけど、君の言う『大惨事』は起こっていないものね。」


幼い子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと優しい声色で今日起こった出来事を挙げていく。怒られるよりも、余計怖い。


「うう…。すみません。」


具体的に指摘されて、ようやくエレノアは現実に引き戻される。


「そして、こちらが先に『魅了』をかけてしまっているから、相手は悪くないし、僕たちに怪我がなせれば、むしろ彼らの方が被害者だ。彼らにも怪我なく済んでホッとしている。」

「はい。返す言葉もございません。」

「とにかく、絶対に1人で出かけない事。異論は認めないよ。」

「はい。お約束します。」

「来週も同じ時間に迎えに来るよ。今度は人通りの少なそうな場所を探しておくから。」

「えっ!?来週も来てくださるのですか?」

「君が行きたくなければ無理強いはしない。」

「い、いえ。もちろん嬉しいに決まっています。ですが、今日で懲りて来週は来てくださらないかと…。」

「あまり放置しておいて、脱走でもされたら大変だからね。」

「…。」


その通り過ぎて何も言えないエレノアである。


「君の考えている事なんて、丸分かりだよ。全部顔に出てるから。」


ここでエレノアは必殺『笑顔で誤魔化す』を放つ。


「…では、僕はこれで。ロレーヌ候爵によろしく。」


リヒトは馬車に乗り込み颯爽と立ち去っていった。そして、お辞儀をして見送るロレーヌ家の使用人たち。下を向いていて顔は見えていないが、皆涙を流している。『王太子殿下優しすぎる!お嬢様にいいお相手が見つかって本当に良かった!』今度は感動の涙である。


リヒトが爆発する事はなかったが、仕事で登城していたロレーヌ候爵は帰宅後にルドルフから詳細を聞き、額に青筋を立ててエレノアを呼び出した。そしてその夜、ロレーヌ邸は日付が変わる時間まで雷雲に包まれたのだった。


兎にも角にも、エレノア14歳とリヒト15歳の可愛らしい『お忍びデート』は毎週開催されることに相成った。

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