27.謎の魔物
「レオはアルバストル学園へ留学に来ていた同級生なんだ。5年間勉学を共にしていた。しかし先日、ご両親の訃報があり、学園を中退して祖国に戻ることになってね。外交中に天災に巻き込まれたそうだ。」
再び走り始めた馬車の中でリヒトは俯いたまま、ぽつりぽつりと話し始める。
「まあ、それは大変でしたね。」
「大慌てで戴冠式の準備を始めている最中に、今回の魔物事件が起こった。今は延期になっているが、彼は近々ヘレンツェの国王にならなければならない。」
エレノアは黙って頷く。
「なんとかひとりで頑張っていたが、今回の魔物事件でどうにも解決策が見当たらず、僕に声をかけてきたらしい。」
リヒトは顔を上げ、眉を下げて笑った。
「なるほどですね。」
「魔物を追い払うのを手伝って欲しい、これ以上国を混乱させたくないとのことで、最小限の人数で来て欲しいというのが彼の頼みだ。」
「確かに。その状態で大勢の他国の軍隊が入国してきたら、国民はパニックを起こすかもしれませんね。」
そう言うとエレノアは大きく頷く。
「それが、私とエレノア2人で来た理由のひとつ目。」
「ひとつ目?」
「理由はもうひとつあって、魔物がそれほど凶暴じゃないという事。」
「魔物が凶暴ではない。それでは、討伐の対象とはならないのでは?」
この世界の魔物はどこにでもいる生き物であり、魔力を持っていて、普通の動物よりもサイズが大きいものが多いが、皆が凶暴というわけではない。動物と同じように、森の中や、山の上で普通に暮らしているものがほとんどだ。討伐対象となるのは、街や村で頻繁に暴れ回る個体、もしくは人の味を覚えてしまった個体などである。ただそこにいるだけの魔物は討伐の対象とはならないはず。
「凶暴ではないのだが、沖に出た船を連れて行こうとするらしい。」
「それは十分凶暴に当てはまるんじゃ…」
ややこしい話に、エレノアは首を傾げる。
「しかし、連れ去ろうとする時にも船を壊す事なく、丁寧に。そして、船が嫌がって攻撃すれば、反撃する事なく大人しく立ち去るそうだ。」
「なるほど、不思議ですね。」
「ああ。今の所、実害が出ていないので、討伐の要請ではない。魔法で驚かせて追い払って欲しいとのことだ。」
エレノアはなるほどと頷く。
「そういう事ですね。それで我々2人が選ばれたと。圧倒的な力の差がなければ、討伐よりも追い払う事の方が時には難しいですからね。万が一反撃された時のためにも。」
「実害が出ていないとはいえ、やはり巨大生物が港をウロウロしていると噂が経てば、貿易船の立ち寄らなくなってしまうかもしれない。貿易での収益が国益の大半を占めるヘレンツェにとっては死活問題なんだ。」
「まあ最悪の場合は、私が『魅了』をかけて沖まで連れて行けば…って、そこまで考えての人選ですね。流石お父様、いい仕事しています。」
エレノアの目が死に、言葉が棒読みになる。リヒトは苦笑いを浮かべたが否定も肯定もしなかった。おそらくロレーヌ侯爵は本当にそれをリヒトに指示しているのだろう。
「まあ、それが一番平和的に解決出来るのであればやらせていただきます。」
「ありがとう、エレノア。」
「ええ、私の大事なカフェのスパイスのためですから。」
「ああ、うん。そうだね。」
リヒトは訂正するのを諦めた。




