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守ってあげたい蠱惑姫と思いきや、1人で何でも出来る孤独姫でした〜捕まえておけないので自由にさせておきます〜  作者: 朔島 涼
二章.ヘレンツェの王太子

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25.幼き日の憧れ

小さな頃読んだ絵本。ヒーローが出てきて悪者をやつけるお話。魔法使いが世界を救う話。私はこういう類の話が好きではなかった。だって強き者は他の人を守るのが当たり前だし、それが高貴なるものの責務である。ノブレス・オブリージュ。そして私もそういう者にならなければならないし、きっとなる。そして、私ならばもっと上手くやれるし、ピンチなんて作らせないのに、と考えて全然楽しめなかったのだ。エレノア4歳の頃のことである。


この国の生い立ちは、ひとりの英雄とその仲間たちが、今の王都を中心としたブラル平原一帯を平定したことによる。長く続いた戦乱の傷痕は酷く、何もないところからスタートした。その時の英雄が初代王であり、故にアランデル王国の王族は自ら戦う王族である。そして英雄の仲間たちの子孫がこの国の高位貴族である。高位であればあるほど、その血を濃く受け継ぎ、魔力が高く、戦闘能力の高い者が多い。領地・領民を文字通り守るのが領主貴族の義務であり、国土・国民を命をかけて守るのが王族の役目である。アランデル王国では実際にそうして平和が守られてきた。国境の向こう側に大勢の兵が集まっていても、まさか攻め入られるとは思わない程、平和ボケするくらいには。


そして現在、その象徴が王太子リヒトであり、侯爵令嬢のエレノアである。彼らは生まれた時から、その身体の中に大きな力を持っている。エレノアは物心ついた時にはそれを自分自身で理解していたのだ。しかし、5歳の誕生日を迎え、魔力や能力が発現し始めるととんでもないことになった。先に述べたので詳細は割愛するが、エレノアは青春時代を丸っと捨てることになったのだ。世界を救うどころか、自分の自由も叶えられないと絶望する日もあったが、エレノアは諦めなかった。来る日も来る日も血を吐くような訓練を重ね、ついに能力のコントロールに成功し、さらに莫大な魔力も使いこなせるようになった。エレノアは12歳となっていた。


13歳の頃にはエレノアの蠱惑が落ち着き、自己防衛には余りある魔力と戦闘能力もあったため、街へのお忍びが暗黙の了解となり、ロレーヌ邸をこっそり抜け出しても目を瞑ってもらえるようになった。


さらに、同世代の友人も必要だろうと、父の友人の子であるケヴィンとの交流も認められた。ケヴィンは伯爵家の次男で、魔力もそこそこあったため蠱惑も効きにくいとの判断だった。もちろんエレノアが言った通り、蠱惑は発動していないが、年頃の男女の交流は難しい。両家の親も彼が恋に落ちるとは計算外だったようだ。ケヴィンが年下だという事も油断の素だったのかもしれない。


その後も紆余曲折あったが、徐々にエレノアの世界は広がっていき、先日にはついに皆が公認の完全なる自由を手に入れた。努力と根性と継続の勝利である。





「お待たせしましたリヒト様。」

「おはよう、エレノア。急な事ですまないが、よろしく頼む。」


翌朝、王城から馬車でリヒトが迎えにきた。


「いえ、こちらこそよろしくお願いします!」

「ふふっ。エレノアがいると頼もしいよ、本当に。」


今朝も楽しそうなエレノアにリヒトは思わず笑ってしまう。


「さて、海を見に行くついでに、スパイスの価格を爆上げさせた元凶をやっつけにいきましょうか!」

「エレノア、口にするならせめて反対にしてね。やっつけるついでに海見に行こうね。」


急に色々心配になるリヒトであったが、ふたりが乗り込んだ馬車は構わずヘレンツェへ向けて出発するのであった。

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