21.隣国ツォルグ
その頃、東の隣国ツォルグの皇城では。
「陛下、アランデル王国より、早馬で書簡が届いております。」
「何、アランデルからか。昨夜の奇襲部隊から連絡は?」
「それが、何の音沙汰もありません。」
「くそ、失敗したのか。何の変哲もない国境街で、特に警備も強化されていなかったというのに。いったい何をやっているのだ!」
ツォルグ皇帝は従者が持っていた封書を乱暴に手に取ると、封蝋のシンボルを確認する。
「ふん。王太子か。」
雑に開封し、中身を確かめる。
『拝啓ツォルグ皇帝陛下
ご無沙汰しております。緊急でお話ししたいことがありますので、本日お時間いただけると幸いです。
リヒト・フォン・アランデル』
アランデルはツォルグよりも領土の大きな国であるが、リヒトは王太子。隣国の皇帝に対して、当日のアポイントを打診する事は通常であれば、かなりの無礼である。
「今日の今日だと?忙しいと追い払え。絶対に通すな!」
「承知いたしました。」
従者は礼をとり部屋から出ようとすると、近衛騎士が走り込んできた。
「火急の知らせにつき、失礼致します!」
「次から次と何だ!」
「申し訳ございません!アランデルの王太子リヒト様がこちらに向かわれております。」
「知っておる。今、追い返すように命じたところだ。」
「恐れながら、リヒト様は我が国の兵を風船のように引き連れていらっしゃいます。」
「奇襲が失敗して、生き残った兵が捕虜になっているという事か?」
「その様でございます。」
「王太子は1人か?」
「いえ、婚約者と思われる女性も同行しております。」
「護衛なしで来ているのか?奇襲を受けたというのに。」
「それが…その…」
「何だ!はっきり申せ。」
皇帝は、焦りと苛立ちを露わにし始めた。
「魔道騎士団長が遠目で確認したところ、リヒト様もその女性も膨大な魔力を持たれている様で、『護衛など邪魔なだけとの判断では』との事です。」
「なんだと?!平和ボケした領土だけは大きい国だと持っていたが…この機会に何か交渉を持ちかけようというのか。それで、捕虜は何人くらいいるんだ!」
「それが、たくさんとしか…」
「何だその子どもみたいな答えは!数を数えれば分かるだろう。」
「その…団長が言うには『奇襲軍ほぼ全員、もしくは全員が捕虜になっているのでは』との事でした。」
「は?」
「だから、何十人どころか、何百人もいるから数えられないんですよ!あんな風に!」
騎士は、窓の外を指差す。皇帝は指の先を目で追うと、窓の外に大量に浮かぶシャボン玉がこちらに動いてくるのが見える。
「何だ、あれは!」
皇帝は窓に駆け寄り、目を細める。遠目には無数のシャボン玉にしか見えない泡には、一つに1人ずつ人間が入っているのが見える。
「どうなっている!あの大量の【回復の泡】を2人で維持しながら移動しているのか?」
「いえ、おそらく同行の女性1人で維持している様です。ちなみに兵は眠っている様ですので、【催眠】も同時にかけているとのことでした。」
「化け物か…」
皇帝は窓際にあるソファに倒れ込む。
「そう、ですね。」
「何を呑気にしておる!王太子を向かい入れる準備を!」
「追い返さないのですか?」
扉の前で静観していた従者が尋ねた。
「あの数の捕虜を見せられては追い返せん。道中、街の者たちも目にしたであろう。…家族もいたかもしれん。」
「かしこまりました。」
従者は今度こそ退室した。




