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守ってあげたい蠱惑姫と思いきや、1人で何でも出来る孤独姫でした〜捕まえておけないので自由にさせておきます〜  作者: 朔島 涼
一章.リヒトとエレノア

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2.リヒトの提案

「エレノアは甘すぎる、牢屋にでも入れておけばいいのに。」


ケヴィンを彼の父親に引き渡した後、次はエレノアがお説教を受ける番となっている。


「そういうわけにはいきません。ケヴィンのお父様とわたくしの父は古くからの友人なのです。わたくしも何か勘違いさせるような振る舞いをしてしまったのかもしれません。それに、彼はキスをしようとしただけのようですし。」

「え?」

「ファーストキスを奪えば、結婚は白紙になると思ったようです。彼はまだ11歳だから、その…まだ知識が…おほん。」


エレノアは俯き、最後の方はどんどん声が小さくなる。


「…ほんとに、これからは気をつけてよね。」

「はい。」

「仕事ほっぽり出して飛んできたんだけど。自分で対処できるなら救援信号飛ばさないでくれる?」

「お忙しい中、本当に申し訳ございません。屋敷の中なので攻撃魔法が使えない事と、相手が友人でしたので少々パニックになってしまいまして。リヒト様のお顔しか浮かばず。」

「…まあ、無事だったなら何でもいいけど。」


満更でもないリヒトである。


貴族の屋敷内は安全のために攻撃魔法が使えないよう屋敷全体に制限魔法がかけられている事が多い。もちろんエレノアが暮らすロレーヌ邸も例外ではない。本来はあらかじめ設置している転移陣以外での転移魔法も使えないが、リヒトがエレノアにプレゼントした魔道具のブローチで、裏技を使ったのだ。持ち主の危険を感じると、渡した相手が近くに転移できるというものだ。恋人同士や、親が幼い子どもたちに持たせる用にと、高位貴族の間で密かに流行している。


「それにしても何で部屋に男を入れたりするわけ?いくらなんでも無防備すぎない?」

「招いたわけではございません。父からわたくしの婚約の話を聞いたようで、いきなり部屋に飛び込んできたんです。」

「なぜこの屋敷の使用人はあの男を止めない。」


リヒトは少しイラだった様子でつぶやく。


「だって…急に窓から飛び込んでいらしたんですもの。誰もわたくしの部屋に向かったとは思っていなかったと思います。侍女も午後のお茶の用意で席を外しておりましたし、不運が重なったとしか。」

「なるほどね。」


リヒトは開きっぱなしになっていた窓のそばまで行き、窓枠に手を添え呪文を唱える。


「【施錠】」


すると、窓がバタンと閉じてその外側に鉄格子が現れた。鉄格子にはご丁寧に王家の紋章まで入っている。リヒトは部屋中の窓に同じ魔法をかけて回った。


「これで誰も入ってこれないでしょ?安心して仕事ができる。」


リヒトよりも魔力の低い者は、この【施錠】の魔法を解くことができない。


「すなわち、わたくしも屋敷を抜け出してお忍びで遊びに行くことができなくなりましたわね。」


エレノアは唯一の楽しみを奪われたショックで、ぽろりと本音を溢してしまった。


「まだそんな事をしていたの?危ないからやめてとあれほど言ったのに!」


リヒトは切れ長のエメラルドグリーンの瞳を大きく見開き少し大きな声を出したが、エレノアの様子を見てため息をつく。エレノアがこぼれ落ちそうなほど大きなラベンダー色の瞳を潤ませて、銀糸のような美しい髪をびくりと震わせたからだ。


「ごめんなさい…っ。」

「…はぁ。怒っているわけじゃなくて、心配しているだけ。街に遊びに行きたければ、僕が一緒に行けばいいよね。」

「でも、リヒト様と一緒だと、気軽に女の子で賑わう雑貨屋でお買い物したり、流行りのカフェでお茶をしたりできません。目立ち過ぎます。」


リヒトは肩書きだけでなく、見た目も王子そのもので、誰もが振り返るほどの美丈夫である。プラチナブロンドの髪を靡かせ、颯爽と正装を着こなす姿に、多くの年頃の貴族令嬢が魅了され、エレノアとの婚約が公となった今でも求婚が殺到しているそうだ。


「あのさ、君1人でも十分目立つと思うんだけど。それにまた『蠱惑』の能力が発揮されて今日みたいな事があったら大変だし。」

「ケヴィンは『蠱惑』せいでは…。それに、お忍びの際は変装しますから、大丈夫です。変装中は、周りの方を『蠱惑』の騒ぎに巻き込んだ事はございません。万が一何かあっても、出先であれば魔法が使えますし。」


言わずもがな、エレノアの美しさも一部の貴族の間で評判であったが、学園にも通っておらずロレーヌ邸に引きこもっているため、実際に顔を見た事がある者は少なく、お忍びで遊びに出かけても気づかれなかったのだろう。しかし、問題は『蠱惑』の能力である。本人には全くその気はなくても、近くにいる人を無意識に魅了し、混乱させ、とんでもないことに巻き込まれるのだ。その相手は、今日のように友人であったり、父の知人であったり、屋敷に立ち寄った商人であったり、時には『蠱惑』に慣れていない使用人、女性までも巻き込んだこともある。


「何と言われようと、だめ。1人で出かけるのは金輪際禁止ね。」

「…はい。」

「その代わり、週1回、僕が時間を作るから一緒に出かけよう。もちろん変装してね。」

「えっ、いいんですか?でも…王太子になられてからは、ご公務でお忙しいのでは?」

「君がお忍びで街に出かけてるかもしれないと思ったら、仕事に集中できないからね。それに、週に一度くらい君と出かけたとしても全く問題ない。」

「わぁ、とても嬉しいです。」

「…。」


エレノアが頬を赤く染めて喜ぶ姿を見て、リヒトは自分も『蠱惑』にかかったような気分になるのだった。

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