10.土地探し
「ここ、ですか。」
エレノアが街の端、もとい森の入り口の土地を目の前にして呟く。木々が生い茂り全く手入れもされていない土地だ。
レストランで食事を終えたエレノアは、商業ギルドに出向き土地の紹介と出店の許可をもらっていた。
「カフェを開きたいんです。」
担当してくれたのは30代くらいの男性で、彼は初め露店や閉店済みの空き店舗を勧めてくれた。露店では『蠱惑』の心配が尽きず、また万が一エレノア捜索隊がやってきた際に隠れる場所も確保できない。空き店舗は少し悩んだが、『街に出かける度に店名とオーナーが変わっている店舗があったな…』と思い出し、縁起が悪いのでやめておいた。実際には縁起が悪いのではなく何か地理的な問題で集客が見込めない、もしくは家賃が高すぎる、もしくはその両方などが当てはまっているのだろう。
「街のはずれがいいです。できれば森のすぐ近くがいいですね。」
「そんな所でいいのですか?ではちょうどいい土地がありますのでご紹介します。ちなみに紹介料と土地代は前金でお願いします。出店の許可は商売の目処が立ってからで大丈夫ですよ。建物や設備の確認なども行わなければなりませんので。」
商売をするのであれば、人通りの多い中心街の方を選ぶ者が多いが、そういう場所はもちろん土地が高く、初めて商売をするエレノアにはハードルが高い。
森の近くは土地は安いが、猛獣や魔獣が現れた時に真っ先に危険が及ぶためあまり人気ではない。もちろんエレノアにとっては何の意味もない情報だ。土地が安いこと以外は。
「ここにします!」
即決であった。
「今から作業に取り掛かるにはちょっと人目が多すぎるわね。少し休めるところを探しますか。」
今度も少しランクの高い、下位の貴族や裕福な商人なんかが泊まりそうな宿を選んで中に入る。
このランクであれば、キチンとしたカウンターがあるため、パーソナルスペースを十分に確保できるし、悪質な絡みも心配いらない。
「ふぅ、何とか今日中にやってしまいたかった事はできたわ。夜までは派手な動きも出来ないし、とりあえず寝よう。」
ベッドに潜り込んだエレノアは3秒で眠りについた。さすがにクタクタであった。
「【風刃】」
200坪程度の土地の木を風魔法で一瞬にして切り倒し、地面に触れる前に中に浮かせ、隅の方に寄せて積み上げた。エレノアの詠唱以外はほぼ無音で。
夜中に目を覚まし、部屋の窓から宿を抜け出したエレノアは、日中に契約した土地に立っている。
「建物の資材がこんなにいっぱい。森で伐採して運んでくる手間がいらないなんて、ラッキーだわ!」
自由を手に入れた今のエレノアはポジティブの塊である。そして夜中に森の中で材木に向かってニヤニヤしている少年の姿はなかなかに異様である。
「土魔法はあまり得意ではないんだけれど、従業員は多い方がいいわよね。」
エレノアは両手の平を地面に向ける。
「【土人形】」
モコモコモコと地面の土が動き出し、100体ほどの小さな土人形が形成された。そして、人形を作るために大量の土が掘り起こされ、基礎を打ち込むための穴が既に開いていた。
小さな土人形たちは土から出てくると、散り散りになって働き始めた。石や粘土の材料を採取してくるもの、石で基礎を作るもの、粘土を作るもの、木材を加工するもの、木材を組み立てるものなどバランスよく役割分担されている。
エレノアも(魔法で)大きな柱を建てたり、【風の刃】で木や石から建材を切り出したりして参戦。
組み上がったログハウスの壁に、土人形たちが漆喰を塗りつけて、木枠に白い壁のかわいらしいお店兼住居が出来上がった。
土人形たちが漆喰を塗っている間、エレノアは既に家具に使う木材の切り出しにかかっている。
土人形は幼児のように小さいが、力は熊並み、器用さは職人並。因みに移動スピードは本気を出せば音速であり、生み出された瞬間から本気モードが続いている。なぜエレノアにこの様な知識と技術が備わっているのかというと、逃亡計画を始めた瞬間からロレーヌ邸の書庫に篭り、1人で生きていくための勉強しまくったからである。学園にも通っておらず、王太子妃教育が終了したエレノアにはたっぷりと時間があった。
外装がひと通り出来上がり日が登り始めたため、エレノアは宿に戻って泥の様に眠った。頑張っているのは主に土人形たちであるが、それらはエレノアの魔力を使って動いている。一方で土人形たちは休息を取ることもなく、出来たばかりのお店の中で作業を続けていた。エレノアが切り出した木材に細工を施し、建て付けの家具やカウンター、テーブルとイスなどを次々と作成する。
土人形、たいそう働き者である。どこからかあの歌が聞こえてくる。
ハイホーハイホー…




