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第9話 One for all - All for one

※本作は現代日本を舞台にした

音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。

火・木・土曜日の20時に更新します。

 玲の姿が見えなくなった後、私は握っていた右手を開いた。

 白いワイヤレスイヤホン。

 ペアリングボタンを押し、自分のスマホに接続する。


 なんて言ってたっけ。

 たしかアーチエネミーの……

 動画投稿サイトの検索窓にバンド名を打ち込むと、ずらりとサムネイルが表示された。


「これだ」


『ネメシス』というタイトルに聞き覚えがある。

 ワイヤレスイヤホンを装着し、曲を再生させた。

 液晶画面にギタリストの首から下が映し出され、恐ろしく速いギターのフレーズが始まる。


 ジャッジャッ、ジャッジャッ。


 足並みを揃えたキメの後で、バンド全体が疾走を始めた。

 そこに乗っかるのが突進する獣のような咆哮。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……!」


 やっぱり、かっこいい…… 

 全身がぞわりとする。


 そして次の瞬間、画面の真ん中に登場した金髪で赤いジャンプスーツの白人ボーカリストの姿に、思わず首をかしげた。


 むさ苦しい長髪の男たちを従え、整った美しい顔立ちに似合わない猛々しい声で歌い始めたボーカリストの胸が、膨らんでいるように見えたのだ。

 最初は角度の問題かと思っていたけど、どうも違う。


「嘘……このボーカルの人、女なの……??」


 声を聞く限りとてもそうは思えない。だけどどう見ても女性だ。メイクをした中性的な男性ではない。

 脳がバグったまま、気づけばおよそ4分半のミュージックビデオが終わっていた。


 すぐにまた再生する。


 やっぱり間違いなく女性。だけど声は獣。ぎっしり音を詰め込んだようなバンドの演奏にぎゅっと心を掴まれる。


 最初のうちは脳のバグりを修正したくて繰り返し曲を聴いていた。

 けれど次第に、曲そのものの魅力に打ちのめされていた。

 聴かずにはおれなくなっていた。

 

 そして五回目を聴いている途中で、ふいに歌詞が聞き取れて胸が詰まった。英語は得意でないし、そもそもデスヴォイスの歌はなにを言っているのかほとんどわからない。歌も楽器のひとつのような感覚で聴いていたのに、突然、一部だけなにを言っているのか理解できたのだ。


 One for all - All for one

 We are strong - We are one


 サビの歌詞がすっと入ってきて、気づけば私は涙を流していた。


 一人はみんなのために みんなは一人のために

 私たちは強い 私たちはひとつ


 これからバンドをやろうという私たちにぴったりな歌詞じゃないか。


 ……え? 私()()


 ――いい加減、認めたらどうですか。バンドで歌ってみたい自分を。


 ハッとした。

 脳に直接語りかけてくるようなこの声は……。

 私は手の甲で涙を拭った。


「アズラエル!」


 周囲を見回してみるが、姿はない。


 ――すみません。女子生徒たちにつきまとわれているのでいまは直接お話ができません。


 それができるのなら入浴中に登場する必要もなかったんじゃない?


 ――遠隔で語りかけるのはけっこうエネルギーを消費するのですよ、いくら大天使であっても。


 なんか都合よくない?


 ――アーチエネミーの『ネメシス』、気に入ったでしょう?


 それについては認めざるをえない。


 ――アーチエネミーはスウェーデン出身のバンドで、元カーカスのギタリストであるマイケル・アモット、その弟であるクリストファー・アモットの二人を中心に結成されました。当初はヨハン・リーヴァという男性ボーカリストが在籍していましたが、ヨハン脱退後にドイツ人の女性ボーカリスト、アンジェラ・ゴソウを加入させ、世界に衝撃を与えました。


「本当に女性だったんだ。すごい声」

 もう五回も繰り返し聴いたのに、いまだに見目麗しい容姿と獣の咆哮が結びつけられないでいる。


 ――アンジェラは恐るべき才能の持ち主です。しかしポテンシャルだけなら、あなたも負けてはいません。


 私が?


 ――正式加入については慎重になるべきだと考えていますが、潜在能力に疑いの余地はありません。それは私も認めます。少なくとも、オーディションする価値はあります。


 上から目線。


 ――大天使ですから。天界からみれば、すべての発言が上からになります。


 アズラエルはこらえきれないという感じで笑った。少なくともユーモアセンスは人並み以下のようだ。


 ――いま、あなたは生まれて初めてメロディックデスメタルという音楽に触れ、その魅力に惹かれている。バンドに誘われ、興味を抱いています。しかし自分は人前でパフォーマンスするような人間ではないと尻込みしてもいる。


 わかったような口を。

 ……まったくその通りだけど。


 ――なにも始まっていないのに、終わらせる必要はありません。合わないと感じたらやめればいいのです。放課後、視聴覚教室でお待ちしています。


 だけどいくらなんでも時間がなさ過ぎるよ。

 せめて曲を覚えるまでは……

 

 もうアズラエルの返事はない。


「勝手に話を終わらせやがった……」


 そのとき、かすかになにかのメロディーが聞こえた気がして、ワイヤレスイヤホンを外した。

 昼休み終了を告げるチャイムだった。

お読みいただきありがとうございます。

小説投稿サイトで初めて連載してみています。

ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。

また高評価やコメントなどで応援していただければ励みになります。

よろしくお願いします。

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