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第7話 重音部設立!

※本作は現代日本を舞台にした

音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。

火・木・土曜日の20時に更新します。

 その日の碑文谷(ひもんや)学園は、朝から異様な雰囲気だった。

 生徒全員がどこか浮かれていて、授業を受けていても心ここにあらずといった、文化祭の一週間前といった空気。遠くの受験より近くの模擬店のほうが気になるというか、なんとなく地に足がつかない感じ。

 校門をくぐった時点からなにごとかと思っていたけど、緊急に開かれた全校集会でその理由が判明した。


 体育館に集った全校生徒の前で、校長が新任教師を紹介したのだ。

 しかも新任教師は純白のスーツを身にまとった金髪のイケメンときた。


 ……そう。壇上で校長に紹介されたのはアズラエルだった。

 もはやひそひそ声ともいえない音量で新任教師の容姿を讃える同級生に囲まれながら、私は呆然と立ち尽くしていた。新年度のスタートから2か月経過した不自然きわまりない時期に新規採用されたのに、誰も疑義を唱える気配すらない。少なくともあの男、人智を超越した存在であるのは間違いないらしい。


「えー、鈴木アズラエル先生は……あれ? どちらの高校からいらしたんでしたっけ? うかがいましたよね?」


 校長が不可解そうに禿げ頭をひねる。いくらひねったところで「鈴木先生」の経歴など思い出せるわけがない。存在しないのだから。


 女子生徒たちが黄色い声を上げた。

 アズラエルが椅子から立ち上がったのだ。彼は「ありがとうございます」と校長をやんわり押し出し、演台に立つ。目上の人にたいして失礼な態度だと思うけど、それすらなぜか女子たちの歓声の対象になるようだ。


 アズラエルはマイクに向かい、全校生徒を睥睨するように視線を動かした後で、おもむろに口を開いた。


「皆さん、はじめまして。本日付で私立碑文谷学園高校に赴任した、鈴木アズラエルです」


 ロックコンサートよろしく歓声が沸き起こる。


 とんとんと肩を叩かれ、ハッと我に返った。

 クラスで一番仲良しの美琴(みこと)が八重歯を覗かせて笑っている。


「希音。なに見とれてるの」


「見とれてないし」


「気持ちはわかる。超イケメンだよね。なんで芸能人にならずに先生になったんだろう」


 だから見とれてないってば。


「アズラエルってことはハーフかな。どこの血が入ってるんだろう」


「さあ」

 私には「鈴木」のほうが気になるけど。

「鈴木」だったのか。


 私は美琴を生返事でいなしながら、前方の演台に意識を戻した。


「先生! 彼女いるの?」


 生徒の誰かが無遠慮な質問を投げかける。

 アズラエルは声のした方角を見つめ、黙り込んだ。

 もしかして怒らせたのではないかという緊張で空気が瞬時にピリつく。


「彼女というのは、三人称代名詞のことだという理解でいいのでしょうか?」


 静寂。誰もが新任教師の意図を探りかねている。


「だとしたら、ここにたくさんいるじゃありませんか、()()が」


 体育館が破裂せんばかりに、キャーッと悲鳴のような声が重った。生徒だけでなく女性の教師までもが胸の前で手を重ねてうっとりしている。


 いや、みんな誤解しているけど、アズラエルはリップサービスじゃなくて本当に()()という言葉の意味を間違えているだけだと思うよ?

 まあ、どうでもいいけど。


 アズラエルは右手のこぶしを天高く突き上げた。


 今度は女子だけでなく、男子も交ざったウォーッという声が応える。生徒の群れの中から、いくつもこぶしが突き上げられた。

 アズラエルが突き上げていたこぶしをおろし、今度は前方に向ける。

 よく見るとそれは握りこぶしではない。人差し指と小指が立っていた。


「これはメロイックサイン。英語圏ではデビルホーンとも呼ばれています。人差し指と小指を悪魔の角に見立てているのです」


 なんだなんだ? なにを言い出すんだ? という感じにあちこちでざわめき出す。

 アズラエルはかまわずに続ける。


「サタンやサタン信仰と結びつける解釈もあるようですが、実際には違います。悪魔祓いのサインです。誤解しないでください」


 この場には誤解するほど知識のある人もほとんどいないと思うけど。


「私はこの学校に、悪魔祓いのためにやってきました。ただし、悪魔を祓うのは私ではありません。あなたたちです。人間界は人間の力で守れるようにならないといけません。あなたたちを導くのが私の役目です」


「任してくれよ! 悪魔なんかひとひねりだ!」


 お調子者の男子が適当に調子を合わせる。


「きみはお呼びじゃありません」


「なんでだよ!」


「悪魔を祓うには魂の清廉さと音楽的な素養、それに磨きをかけるたゆまぬ努力が必要です。きみは学業をおろそかにしているようだし、音楽的な才能もない。地道な基礎練習で腕を磨く根気強さもなさそうです。なにより同級生の伊藤和史(いとうかずし)くんをいじめています。その時点で悪魔と戦うには魂の清廉さに欠けます。きみに戦士の資格はないのです。二年B組八重束健人(やえつかけんと)くん」


 ハッとした空気が広がった。

 お調子者も絶句しているようだ。ということは、アズラエルの指摘が当たっているのだろう。

 アズラエルが高々と掲げたメロイックサインを体育館じゅうに見せつけるように動かす。


「私は今日ここに、私立碑文谷学園高校重音部の設立を宣言します」


 これにはさすがの校長も驚いていたようだ。ハンカチでこめかみを拭いながらアズラエルに歩み寄る。

「鈴木先生、新たな部を設立されるのはけっこうですが――」


「ありがとうございます」


「必要な手順を踏んでいただかないと――」


 それ以上、アズラエルの耳には届かないらしい。


「重音部とは、ヘヴィメタルで悪魔祓いをする部活です!」


「はいはい! 入部希望しまーす!」

 一人の女子が手を上げたのを皮切りに、大勢の手が上がった。

 しかしアズラエルは大きく手を振って「却下!」と宣言する。


「誰でも歓迎の生ぬるい部活ではありません! 清廉な魂と音楽的素養に加え、悪魔と戦う覚悟を持つ選ばれし者だけに入部が許されます! 現在の重音部の部員は鷹宮玲、白石澪、犬飼ヒナ、そして黒崎希音の四人のみ!」


「へ?」と間抜けな声を漏らす私に、背後から美琴が顔を寄せてくる。


「なになに? なんで希音が重音部に? あんた、あのイケメンと知り合いだったの?」


 アズラエルの演説を聞き取ろうとするのに必死で答える余裕もない。


「本日放課後!」とアズラエルはメロイックサインではなく人差し指を突き上げた。


「重低音部初のライブを視聴覚教室にて開催します!」


 …………は!?

お読みいただきありがとうございます。

小説投稿サイトで初めて連載してみています。

ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。

また高評価やコメントなどで応援していただければ励みになります。

よろしくお願いします。

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