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第4話 これがメロデスDEATH

※本作は現代日本を舞台にした

音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。

火・木・土曜日の20時に更新します。

 玲がストラップで赤いギターを肩にかけ、アンプに向かってしゃがみ込んだ。

 アンプの黒い表面には『Marshall』という筆記体のロゴが白い字でプリントされている。スイッチが入ったらしくアンプからサーッとかすかなノイズが流れ出す。

 玲はいくつかツマミをひねった後で、右手に持ったピックで弦を弾いた。


 ジャッ、ジャッ、ジャッ。


 歪んだ音が空気を震わせる。ロックのライブなんて生で見たことがない私は、その音量にすでに圧倒されている。


 ツタタタタタトンッ。


 犬飼先輩が太鼓を打ち鳴らす音で、驚いて椅子から軽く飛び上がってしまった。

 両手にスティックを握った犬飼先輩を太鼓が取り囲んでおり、戦車のような物々しい印象を受ける。

 先輩は足でペダルを踏んでみたり、シンバルスタンドの位置を微調整していた。


 右手の玲から中央の犬飼先輩、そしてさらに左の白石先輩へと視線を移す。

 紫色に光るボディーのベースギターを提げた白石先輩は、すでに準備万端という感じでほかの二人を見つめている。


 私は犬飼先輩の正面で、丸椅子に腰かけていた。

 アズラエルは私の左隣で腕を組んで立っている。あの大きな翼では動き回るたびにどこかに引っ掛けて大変だろうと思っていたが、かなりコンパクトに収納できるらしく、いまは普通の人間にしか見えない。


「これまでにメロデスを聴いたことは?」

 ふいに左から声が飛んできた。


「メロ、です……??」


「愚問でした。すみません。忘れてください」


 アズラエルが手をひらひらさせる。

 感じが悪いな。知らないとわかっているなら最初から訊かなければいいのに。


「準備は?」という感じで、玲がリズム隊を順に指さす。

 頷く白石先輩と犬飼先輩の頬には、さっきまでなかった緊張の色が差している。静寂がヒリヒリと肌を刺すような空気感に、私まで緊張してきた。


 トントン、と、マイクを人差し指で叩き、玲は言った。

「じゃあ、行こうか」


 犬飼先輩が高く掲げたスティック同士を打ち鳴らす。


「ワーン、トゥー、スリィー……」


 フォーは発声しないんだ、と思った瞬間、ものすごい音のかたまりがぶつかってきた。

 うるさい――反射的に耳を手で塞ぎかけた。

 でも、持ち上がった両手は私の耳まで届かない。

 これまで体験したことのない音圧に拒絶反応を示しかけた肉体はしかし、整然と揃った音に心地よさを見出したのだった。三人のバンドメンバーはものすごい速さで手足を動かしているけど、完璧にタイミングが揃っている。まるで三人一丸となってマシンガンをぶっ放しているようだ。


 玲の左手の指がイソギンチャクのように動き、メロディーを奏で始めた。

 凶悪な音色に似つかわしくないような、もの悲しげな美しいメロディー。


 なにこれ、こんな音楽、聴いたことない……。


 ふいに鼻の奥がつんとした。喉に力をこめて懸命に涙を呑み込む。演奏開始三十秒で泣くわけにはいかない。まだ歌すら始まっていないのに。


 そういえば歌――。


 この音にいったいどんな歌が乗るんだろう?


 マイクは玲の前にしか立っていないから、玲が歌うんだと思うけど。


 玲がせわしなく両手を動かしながらマイクに向かう。


 そして飛び出してきた声に、私は目を丸くした。


 ボボボボボボボボボボボボボ……


 字で表すとそうとしか書けないような声だったのだ。

 工事現場のドリルのような、低い地を這うような声。

 私はアズラエルを振り仰いだ。マイクが壊れていると思ったのだ。

 視線に気づいたアズラエルはちらりとこっちを見たものの、ちゃんと見ていろという感じに顎をしゃくった。ということは、機材の故障ではない?

 玲はあえてこの声を出しているっていうのか。


 なんで?


 せっかくかっこいい演奏なのに、こんな歌じゃ台なしじゃん。

 もっとちゃんと歌えばいいのに。

 最初はそんなふうに思っていたけど、しばらくすると印象が変わってくる。この演奏の上に朗々と歌い上げるヴォーカルが乗っていたらくどすぎる。

 呪詛を吐き出すようなこの声、意外と演奏に合っているかも。


 いや、この声しかないかも。


 音楽に波長が合った瞬間、ぞくりと全身が粟立った。


 かっこいい。


 世の中にこんな音楽があったんだ……。


 そう思った瞬間、スピーカーからゲホッ、ゲホッという咳が聞こえてきて我に返った。そういう歌なのかとも思ったけど、玲はしかめっ面で右手を振っている。


「ダメだ。やっぱり私には歌えない」


 玲が演奏をやめると、リズム隊の二人も手を止める。空気が急激に萎れるのと入れ替わりに、見慣れた視聴覚教室の光景が戻ってきた。ああ、終わっちゃった。祭りの後のような寂しい気持ちに襲われる。


 何度か咳払いをした後で、玲が私を見た。


「私は地声がそんなに低くないし、喉があんまり強くないから、デス声を出そうとしても一曲もたないんだ」


「デス声……」


 隣でアズラエルが口を開く。

「意図的に潰したりがなったりして歌うヴォーカルスタイルのことです。クリーンヴォイスにたいしてデスヴォイス。いま彼女たちが演奏したのは、ヘヴィメタルの中でもメロディックデスメタルと呼ばれるサブジャンルにカテゴライズされる音楽です」


「メロデスって」


 メロディックデスメタルの略か。


「な? これなら希音にも歌えそうだろう?」

 玲が言う。

 たしかに。こういう歌い方なら、誰よりも上手くできそう。

 私は無意識に息を吸い込んでいた。

お読みいただきありがとうございます。

小説投稿サイトで初めて連載してみています。

ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。

また高評価やコメントなどで応援していただければ励みになります。

よろしくお願いします。

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