第3話 理想の声
※本作は現代日本を舞台にした
音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。
火・木・土曜日の20時に更新します。
私の目はどれほど泳いでいただろう。
端から見ると泳ぐというより溺れていたかもしれない。
たとえ息を呑むほどのイケメンであったとしても、堂々と「大天使」と自称するのは危ない人だ。
ただ、アズラエルの顔までの距離はたったの20センチほどしかない。いくら目を逸らしたところで、視界に入ってきてしまう。
私はアズラエルと目が合わないよう、幼馴染みに顔を向けた。
彼女は鼻に皺を寄せる。
「うざいよね。わかる。でも悪いやつじゃないから」
「当たり前でしょう。大天使ですよ」
まだ言ってる。「大天使」は冗談ではないらしい。
それにしても、玲をはじめとしたバンドメンバーたちの反応が不可解だ。「大天使」を自称する白ずくめで翼をつけた男にたいし、面倒くさそうに扱ってこそいるものの排除する気配はない。その存在を容認している。どういうことだろう。玲も白石先輩も犬飼先輩も、この胡散臭い男に洗脳されているのだろうか。
「そんなことをするつもりはありません」
アズラエルの発言の意図に気づいて、私は背筋が凍った。
この人、いま、私の心を読んだ??
「とにかくさ」と、玲が私の肩をポンポンと叩く。
「一発カマしてやろうよ。私の中ではとっくに正式メンバーだけど、希音のヴォーカルを聴けばアズちゃんも認めざるをえないだろうから」
「馴れ馴れしい呼び方をしないでください。大天使ですよ」
アズラエルが不服そうに唇を曲げる。
「玲。さっきから言ってるけど、私、バンドなんかやる気ないよ。音楽の授業の成績もよくなかったし、楽器とかぜんぜんできないし」
「楽器なんかできなくていい。希音はヴォーカルなんだから」
「歌も苦手だよ。カラオケとか下手くそだもん」
「そりゃ、カラオケは苦手でしょう。普通の女性ヴォーカルの歌じゃ、希音の声域に合ってないから」
ぎくり、とした。
玲は裏声で話すようになる前の私の声を知っている。普通は変声期を経て声が低くなるのに、私の場合はむしろ高くなっているのだから、幼馴染みとしてはさぞ不自然に思うだろう。
なのにどうしてバンドのヴォーカルなんて?
まさかとは思うけど、玲は私に嫌がらせをしているのだろうか。
私は顔を横に振った。
「やっぱりダメ。できない。ごめん」
部屋を出ていこうとすると、玲に腕をつかんで引き止められた。
「待ってよ、希音。希音しかいないんだ、私たちがやりたい音楽には。希音ほど理想の声を持っている人間はいない、ほかに」
切実な瞳の光に、私は言葉を失った。
嫌がらせでも冗談でもない。玲は本気で私をバンドに最適な人材だと思っている。
顔を上げると、白石先輩も犬飼先輩もうんうんと頷いていた。
「なんで? どうして私なの?」
「その声」と、玲は即答した。
「この声は……」
偽物だよ。低すぎる地声がコンプレックスで、ほとんど裏声に近い発声で無理に女の子らしい声を演じているんだよ。
「アズラエルを見た瞬間、すっごい声が出てたよね」
犬飼先輩が目を輝かせる。
あのときの――出会い頭に翼の生えた人間を見たせいで、つい「素」の声が出てしまった。思い出すだけで顔が熱くなる。
でも。
ふと気づいた。
玲も白石先輩も犬飼先輩も、私の低い声を嘲笑ってはいない。
むしろ好意的な様子で、すごいものを見たという感じで頷き合っている。
「まずは一曲だけでいいから、私たちの演奏を見てくれないかな」
玲の提案に、白石先輩が頷いた。
「それはいい考えです。曲を聴いていただければ、私たちの言っている意味をご理解いただけると思います」
「頼むよ。希音」
玲の眼差しにこめられた熱に当てられ、断ることが出来なかった。
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