第16話 スクール・オブ・メタル
※本作は現代日本を舞台にした
音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。
火・木・土曜日の20時に更新します。
――私たちは天から使命を授かった
――悪魔を退け 平和な日常を取り戻すために
――そう 我々こそが退魔の戦士
――戦え 武器を手に取り 自由のために
「ちょっと待ってちょっと待って」
玲が大きく手を振り、演奏を止める。
それから後頭部の髪の毛をかきながら顔をしかめた。
「なんかピンと来ないな」
「そうかな。ヒナは良い歌詞だと思ったけど。いかにもメロデスって感じしない?」
ドラムスティックを手に、ヒナちゃんが肩に載せたドリアと頷き合う。
澪ちゃんはしばらく、人差し指を顎にあてて虚空を見つめていた。
「いかにも……というところが問題なのでは?」
「そう」と、玲が澪ちゃんを指差す。
「いかにも過ぎるんだよね。いかにもメロデスの歌詞っていうか」
「そこがいいんじゃないの?」
ヒナちゃんは不思議そうに首をかしげた。
「たしかに典型的なメロデスという歌詞ですが、希音ちゃんはよく頑張っていると思います。初めて書いたとは思えません。とても良いです」
澪ちゃんからフォローされても、この状況では素直に喜べない。
「じゃあ、どういう感じならいいの?」
私は玲に訊ねた。正直少しムッとしていた。
「どういう感じって具体的に言うのは難しいんだけど……なんていうか、希音の心からの言葉にはなっていない気がする。有名なバンドの歌詞から借りてきた世界観や言葉をパッチワークにしているっていうか」
その指摘には反論の余地がない。歌詞を書いた経験のなかった私は、いろんなメタルバンドの曲を聴き、歌詞を読みまくった。メタルバンドの歌詞には、Jポップと違ってストレートな恋愛をテーマにしたものがほとんどない。悪魔とか戦士とか魔術とか、ハリー・ポッター的というかロールプレイング的な世界観を踏まえて書かれたものが多い印象だった。
「ファンタジー小説などを読んでみたらいいのでは?」
澪ちゃんの提案に、玲はかぶりを振る。
「そういう話じゃないんだよね。うちらは別にアーチエネミーになりたいわけじゃない。インフレイムスになりたいわけでもカーカスになりたいわけでもアット・ザ・ゲイツになりたいわけでもダーク・トランキュリティになりたいわけでもない。うちらはうちらだから」
玲が口にしたバンドの名前も、いまではすべてわかる。メロディックデスメタルというジャンルを代表するバンドたちだ。
「玲ちゃんの言うこともわかるけど、最初からオリジナルを求めるのは酷じゃない? 私たちだって最初は誰かの曲をコピーするところから始めたわけだし」
ヒナちゃんの意見に大きく頷いたドリアが、私のほうを見る。
「なかなかかっこいい歌詞だったぞ。初めてにしては上出来だ」
褒められた喜びより、聖獣にまで気を遣わせている後ろめたさのほうが勝ってしまう。
「でもうちらには時間がない。一か月後には悪魔と戦うんだから。しかも次のやつは、この前のより断然強いらしいじゃない」
「やだ。脅かさないでよ」
玲の言葉にヒナちゃんが肩をすくめる。
「脅かしてるわけじゃない。アズラエルだって言ってたじゃないか。この前のは下の下だって。いまみたいな借り物の言葉じゃ勝てない」
「なら玲も考えてよ」
「そうだね。ダメ出しするなら対案も提示しないと」
ヒナちゃんの言葉に、澪ちゃんも乗っかる。
「せめて具体的な方向性を示してあげないと、希音ちゃんが途方に暮れてしまうだけだと思います」
玲は腕組みをしてううんと唸った。
やがて顔を上げ、
「たとえば、最近なにか腹の立ったことは?」
「ギタリストが私の書いた歌詞に言いがかりをつけてくること」
玲の頬が引きつる。
「いいじゃない。それを歌詞にしたらいい」
「本気で言ってる?」
ヒナちゃんの声は笑いを含んでいた。
「本気も本気。だって希音の心からの言葉ってことでしょう? 借り物の歌詞よりずっと良い」
私はマイクを口に近づけた。
「玲の、バカーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
玲のほうに視線を戻す。
「こういうこと?」
玲はしきりに目を瞬かせている。
「いま、見た?」
「なにを?」
玲はヒナちゃんのほうを指差した。
「ドリアがデカくなった」
ヒナちゃんじゃなくてドリアを指差していたらしい。
「ドリアが?」
いま見る限りでは、さっきとなにも変わっていない。肩乗りサイズの角の生えた柴犬だ。
「見ました」
澪ちゃんが言う。「希音ちゃんが叫んでいる間、ドリアが大きくなっていました」
ヒナちゃんも目を丸くしたまま頷く。
「もう一度、さっきのやってみてよ」
玲から言われ、マイクに向かって叫ぶ。
「玲の、バカーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
ドリアを見ながらやってみたけど、なにも変化はない。
「どういうこと?」
ヒナちゃんがドリアに問いかける。
「いまの叫びには感情がこもっていない。本心からの叫びでないと意味はない」
たしかに最初の叫びには玲への怒りをこめたけど、いまのは言われた通りにやっただけだ。
「じゃあどうしたらいいの?」
私は訊いた。
「単純なことだ。本当の気持ちを叫べばいい。怒りでも喜びでも悲しみでも」
「なんでもいいの?」
「なんでも」
私はしばらく考えた。私の本心ってなんだろう。私がいま、いちばん考えていること。
よしっ。
ひとつ頷き、マイクを口に近づける。
「お腹空いたーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」
ヒナちゃんの肩に乗っていたかわいらしい柴犬が、一瞬にして筋肉を固めたヒグマのような猛獣になった。
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