第15話 やばい!!!!
※本作は現代日本を舞台にした
音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。
火・木・土曜日の20時に更新します。
「リフのアイデアならいくつかあるんだ」
玲はそう言ってギターをかまえる。玲の赤いギターはポール・リード・スミスというメーカー製らしい。「オールマイティでいろんな奏法に対応してくれるし、いじり方次第で多彩な音色を出せる。なにより弾きやすいんだ」というのが玲の弁だ。そんなに弾きやすいのなら私にも弾けるのかと思って触らせてもらったことがあるけど、そんなに甘いものではなかった。
玲がツマミをひねってボリュームを上げる。マーシャルアンプからかすかにホワイトノイズが聞こえる。
ジャキッと慣らし運転のように弦をひと払いした後、ズクズクと低音弦を刻み始めた。
六弦をミュートした刻みに五弦のハンマリングやプリングが挟まる。
とてもかっこいい。
玲は二小節ほどのフレーズを繰り返した。このギターフレーズの繰り返しはリフと呼ばれ、ヘヴィメタルでは曲を構成する際の重要な基盤となると、みんなから教えてもらった。言われてみれば、たしかにメタルの曲には印象的なギターの繰り返しフレーズが多い。多くのバンドでギタリストがメインソングライターをつとめていて、曲作りもギターリフから発展させていくことが多いのだという。
ブイーンと澪ちゃんのベースが加わり、ツッタットコトンとヒナちゃんがリズムを刻み始める。
「おお」と思わず声が漏れた。
即興で合わせただけなのに、すでになんとなく曲になっている。こうやって曲が出来ていくのか。
私は上下に身体を揺らしながら、三人の演奏を聴いていた。
ジャーンとロングトーンを鳴らした玲が、ピックを持った右手を上に上げる。
するとリズム隊の二人も演奏をやめた。
「どう?」
玲が私を見た。
「かっこいい」
「悪くはないけど」と言ったのはヒナちゃんだ。
「ありがちなリフという印象です」
澪ちゃんはいつだって率直だけど、相手を怒らせないのは才能かもしれない。
「ありがちもいいところです。スレイヤーのパロディバンドのようですね」
余計なことを言うアズラエルをひと睨みしたものの、反論の余地はないらしい。
「だよね」と、玲が自分の頬をかく。
そっか。私は単純にかっこいいと思ったけど、三人にしてみればいまいちなんだ。
「五弦の音をスケールアウトしてみたらいかがでしょう」
澪ちゃんの提案を受けて、「こんな感じ?」と玲がリフを修正する。
「アクセントの位置をずらしてリズム的に遊んでみたら?」
ヒナちゃんの意見も取り入れて試行錯誤するうち、ビビッと電気の走るような瞬間があった。
「いまの!」
私は思わず声を上げた。「いまのめっちゃかっこよくない?」
「マジ?」
玲はよくわからないという顔だけど、澪ちゃんとヒナちゃんは賛同してくれる。
「希音ちゃんの言う通りです」
「うんうん。すごくかっこいいリフだった」
ね、と同意を求められたドリアも頷く。
「なんだか、全身に力が漲ってくるみたいだ」
「なら、このリフを広げていってみようか」
ギターをかまえた玲が、私のほうを見る。
「希音も適当に入ってきてよ」
「え……」そんなことを言われても。
「もしメロディーが浮かんだら」
「わかった」
そう返事したものの、即興セッションに加われる気がしない。
ところが――。
三人の演奏に耳をかたむけているうち、頭の中でメロディーが流れ始めた。
私はマイクを口に近づけ、歌う。
なにも考えていない。ただ演奏に導かれ、自然に浮かんだメロディーを再現する感覚だった。
なにこれ……。
自分でもわけがわからない。
ふと顔をひねると、玲と目が合った。
「サイコー」と玲の口が動き、ウインクする。
サビらしきパートを何度か繰り返した後は、玲のギターソロ。ロングトーンでは胸が詰まるような、速弾きでは感情がかき乱されるような音の連なり。なんでだろう。まったくの即興で事前に打ち合わせたわけでもないのに、嵐の中にたたずむ少女が目に浮かぶ。少女は濡れ鼠になりながらも、瞳にしっかりとした意思を宿している。生きる意思を持っている。
演奏が終わった。
引きずるようなギターアンプのフィードバック音が完全に消えるまで、時間が止まったようだった。
「やったな」
第一声はアズラエルだった。
「記念すべき初のオリジナル曲!」
ドリアも嬉しそうに壁から壁へと飛び跳ねている。
私は周囲を見回した。
三人のメンバーはどこか呆けたような雰囲気だ。
「やばくね……?」
玲の呟きが悪い意味の「やばい」のように感じて肩をすくめる。
でも違った。
「やばいやばいやばいやばいやばい!!!!!」
だんだん玲の声が大きくなり、興奮も高まっているようだ。
「やばい! やばーい!」
ヒナちゃんが両手に持ったスティックを天に向かって突き上げる。
興奮する二人に圧倒されながら、私は澪ちゃんのほうを見た。
汗で顔に貼りついた長い髪を手でかきわけながら、澪ちゃんは唇の端を吊り上げた。
「私たち、最強のバンドになれそうですね」
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