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第14話 次なる戦いへ

※本作は現代日本を舞台にした

音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。

火・木・土曜日の20時に更新します。

 ドラムのリズムに合わせて交互に足を踏み出す。

 顎をリズミカルに上下させる私に装着されたワイヤレスイヤホンから流れているのは『ウォー・エターナル』。アーチエネミーの曲だが、ヴォーカルは『ネメシス』とは違う。『ネメシス』を歌ったアンジェラ・ゴソウは2014年にバンドを脱退し、後任にはアリッサ・ホワイト=グラズが加入した。このアリッサも女性で、青く染めた髪に小柄な身体から、信じられないほど凶悪な声を絞り出す。

 ふと、すれ違った女子たちが私を見ながらひそひそ話しているのに気づいた。どうやら頭を大きく振りすぎていたようだ。ヘヴィメタルのライブでは、観客はリズムに合わせて大きく頭を振る。この動きをヘッドバンギングというらしい。最初に動画サイトで映像を観たときには異様な光景だと感じたけど、聴き込むうちに自然と身体がそう動くことがわかってくる。私もいまではいっぱしのヘッドバンガーだ。

 自宅の部屋やお風呂の中では――。

 頭を振りたい衝動を懸命に堪え、廊下を歩いた。

 視聴覚教室の引き戸を開くと、まず目に飛び込んできたのは大きな翼だった。


「アズラエル。来てたんだ」


 大天使はくるりと背を向けながら、翼を広げた。


「顔」と、玲が迷惑そうに手で払う。

 あのときと同じだ。

 最初にこの部屋に呼び出されたときと。

 既視感に襲われ、妙に感慨深い気持ちになった。


「やあ。一週間ぶりですね。希音さんの上達がめざましいと、みんなから話を聞いていたところです」


 ぶっつけ本番で『ネメシス』を演奏させられた日から、重音部は毎日放課後に視聴覚教室で練習するようになった。あれだけ渋っていたのにと笑われるかもしれないけど、いまは毎日とても楽しい。みんなからオススメの曲やバンドを教えてもらいながらヘヴィメタルについて勉強している。


「一週間もどこでなにをしていたの?」

 ドラムキットの向こうからヒナちゃんが言う。彼女の肩には、タラコ・ポップコーンシュリンプ・ドリア364世ことドリアが乗っている。誰がドリアを引き取るかと話し合ったとき、ドリアの意思を尊重するために自分で選ばせたら、ヒナちゃんを選んだのだった。選んだ決め手は「親の作る手料理が美味しそう」というものだったけど、普通の人には姿の見えないドリアに手料理を食べるチャンスなんかあるのだろうか?


「悪魔と戦う戦士はあなたたちだけではないのです」

 アズラエルがやれやれという感じで両手を広げる。


「ほかにもメタルバンドがいるのですか?」

 いつもクールな澪ちゃんの声が、喜びで少しうわずっている。


 気づいたかもしれないけど、リズム隊の上級生二人のことを下の名前で呼ぶようになった。この一週間ですっかり打ち解けた――のは事実だけど、呼び方を変えたのは玲の提案だった。バンドとして結束を高めるためにも、よそよそしいのはやめようという主張だ。


「会ってみたいな」

 みんなも同じだよな? という感じで、玲がメンバーを見回す。

 もちろん。同じ音楽を愛する仲間。会えるものならぜひ会ってみたいし、いろんな話をしたい。


「それは無理な話です」

 にべもない回答だった。


「どうして?」という私の質問に、アズラエルは肩をすくめてみせる。


「まずはパスポートを取得していただくところから始めないと」


「日本じゃないんだ」

 玲が目を丸くした。


「日本にはあなたたちがいるでしょう」

 なにげに重たい言葉だ。

 私たちが日本全国の悪魔を祓う役割を担うってこと?

 アズラエルは気障っぽく金髪をかき上げる。

「今日ここに来たのはほかでもありません。次のライブが決定しました」


「は?」と声が漏れた。

 結成一週間で、レパートリーはまだ一曲しかないのに。


「ライブって、対バン? にしても持ち時間30分ぐらいあるんじゃないの」

 さすがの玲も出演には慎重だ。


「心配いりません」

 アズラエルは懐から取り出したフライヤーをメンバーに配った。


「渋谷メタルナイト……開催はちょうど1か月後」

 澪ちゃんがフライヤーの情報を読み上げる。


「渋谷の桜ヶ丘にある老舗ライブハウス『メテオ』を貸し切って行われるイベントです。主催の『道玄坂エキサイター』という団体は社会人のセッションサークルで、月に一度、リハーサルスタジオに集まってフリーセッションを行っています。今度の渋谷メタルナイトもフリーセッションの延長のような感じなので、1バンドの持ち時間は10分。たくさんのバンドが入れ替わり立ち替わり演奏するものです」


「10分ってことは2曲か」

 それなら大丈夫、という感じで、ヒナちゃんはドリアと頷き合っている。


「またあのマッチョな鬼みたいなのが出てくるわけ?」

 玲の言葉に、胃がきゅっと締めつけられる。

 バンドをやるのは楽しいけど、悪魔は怖い。悪魔祓いなんか関係なく、バンドだけやることはできないんだろうか。


「あんなのは出てきません」と、アズラエルは手を振る。

「あれは悪魔の中でも下の下です。出てくるとしたら、もっと強い魔力を持つ相手でしょう」

 余計に怖いじゃないか。


 でも、さっきのアズラエルの話を聞く限りだと、悪魔祓いを担うバンドは日本には私たちだけ。

 

「大丈夫です。あなたたちが負けることはありません」


「でも万が一、負けたら?」

 玲の声からは緊張が伝わってきた。

 不自然な沈黙。

 やがてアズラエルが口を開いた。

「あと一曲、レパートリーを増やしていただく必要があります」

 露骨に話題を逸らしやがった。


「おい! 話逸らすな! 負けたらどうなるんだ!」

 語気を強める玲に、アズラエルが横目を向ける。

「負けません。負けることを考えてはいけません。あなたたちは勝つのです」

 有無を言わさぬ迫力に、玲も口を噤まざるをえなかったようだ。

「わかった」と、小刻みに頷く。


「あと一曲」と、澪ちゃんが床を見つめる。


「あの」私は手を上げた。耳から外したワイヤレスイヤホンを鞄のポケットにしまう。

「もう一曲やるなら、アーチエネミーの『ウォー・エターナル』はどうかな」

 単純に私のお気に入りという理由だけど、とてもかっこいいし、同じバンドの曲だ。悪くない提案だと思う。

 なのに、どういうわけか空気が硬い。

 私以外のメンバー同士、怪訝そうに互いの顔を見合っている。


 え……私、なにか変なこと言った?


 やがて玲がこちらを見た。

「なに言ってるの。うちらコピバンやる気ないから。やるならオリジナルでしょ」

お読みいただきありがとうございます。

小説投稿サイトで初めて連載してみています。

ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。

また高評価やコメントなどで応援していただければ励みになります。

よろしくお願いします。

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