第13話 命名会議
※本作は現代日本を舞台にした
音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。
火・木・土曜日の20時に更新します。
「ポチ!」
「シロ!」
「おもち!」
「大福!」
「お雑煮!」
「みたらし団子!」
「磯辺焼き!」
「なにそれ」
プッと犬飼先輩が噴き出した。
「餅はやっぱり磯辺焼きがいちばんでしょうよ」と、胸を張った玲が「そう思わない?」と、私に同意を求めてくる。
「私はお雑煮も好きだよ。みたらし団子も」
「っていうか、みたらし団子は団子であって、お餅の食べ方のバリエーションとは違くない?」
玲が口を尖らせる。
「私は大好きなんです、みたらし団子」
白石先輩はマイペースに応じた。
「ずるいよ、澪。ちゃんと『好きなお餅の食べ方』を言ってくれないと」
「違うだろ!」と、一角犬が口を挟む。
「いつからそんなルールになったんだ。おれの名前を考えてくれているんじゃなかったのか」
「そうだった」
玲が肩をすくめ、ぺろりと舌を出した。
私たちは駅前のファミレスにいた。四人がけのボックス席で、私と玲、犬飼先輩と白石先輩という組み合わせで向き合って座っている。犬飼先輩と白石先輩がやや席を詰めているのは、一角犬が座るスペースを空けているためだ。当然ながらペット同伴不可の店だけど、店員が一角犬に気にする様子はない。それどころか、七割ほど埋まった席の誰も、一角犬の存在に気づいてすらいないようだった。どうやらこの子は私たち以外には見えていないらしい。
「おれ、ということは、あなたは男の子なの?」
白石先輩が犬飼先輩越しに一角犬を見る。
無遠慮にお尻のあたりを覗き込もうとする犬飼先輩をガウッと威嚇してから、一角犬が答える。
「おれは男でも女でもない。おれはおれ」
「性別がないってこと?」
私は訊いた。
「あるわけないだろ。下等生物じゃないんだから。聖獣だ。聖なる獣だぞ」
くだらない質問をするなといわんばかりの口調だった。
「天使とか聖獣ってのは、どいつもこいつもいけすかないやつしかいないのかね」
メロンソーダのストローを口に含む玲のほうを、一角獣が睨む。
「なんだと? おれを生み出したのはおまえたちだ。いけすかないと思うのなら、おまえたちにそういうところがあるからだ」
「本当か?」
「聖獣は嘘をつかない。メンバーを見渡したら、おれの口の悪さが誰から由来したのかわかりそうなものだがな」
「なにそれ。なにが言いたいの」
「やれやれ。察しの悪いやつに言って聞かせるのはストレスだな」
「まあまあ。めでたい打ち上げの席なんだから」
犬飼先輩にとりなされても、一人と一匹は不服そうにしていた。
「それで、名前どうする?」
気まずい空気をなんとかしようと、私は口を開いた。
途中からすっかり『好きなお餅の食べ方』を言い合う山手線ゲームみたいになってしまったけど、もともとはこのかわいらしいけど口の悪い聖獣の名前を考えていたのだった。
「やっぱり無難にシロとかでいいんじゃないでしょうか」
白石先輩の意見に、犬飼先輩が異を唱える。
「ちょっと古臭くない? ムギとかきなことかココとかが最近のトレンドみたいだよ」
犬飼先輩はスマホで犬の名前ランキングでも調べていたのだろうか。スマホから顔を上げ、どう? という感じで一角犬を見た。
犬飼先輩を見上げる一角犬の姿は、どう見てもかわいらしい豆柴だ。
だけど、本人はそれを認めたくないようだ。
……あ、本人じゃなくて本”犬”か。それとも本”獣”?
「おまえたち、少しはペットの名前という発想から離れられないのか」
そうは言うけど、見た目が完全に犬だし。
「……なら、ヨシオとか?」
犬飼先輩がおもむろに言った。
「なんだそれは」
一角犬が問う。
「人の名前だよ。ペットの名前から離れたほうがいいんでしょう」
「だからってヨシオはダサくないか。なんだか響きが古臭い印象だ」
「失礼ね。うちのお祖父ちゃんの名前を悪く言わないで」
「なんでおれにおまえの祖父の名前をつけるんだ」
「ダメ?」
「ダメに決まっているだろう」
古臭いという一角犬の印象は間違っていなかったのか。
一角犬がメンバーの顔を見回す。
「発想の貧困な連中だな。もっとこう……おれに相応しい名前はないのか。高貴で威厳があって強そうで、偉大な聖獣に相応しそうな響きの名前が」
反応はない。
「おい。おまえら、無視するな」
鼻で小突かれた犬飼先輩は、スマホをいじっていた。
「またペットの名前ランキングでも見ているのか」
「いいや。お腹減ったからなにか食べ物注文しようと思って」
モバイルオーダーのメニューを見ているらしい。
「おれの名前は」
「自分で決めなよ」
「そうやって責任を放棄するわけか」
「だって文句しか言わないんだもん。好きにしたらいいよ」
「おまえたちのアイデアが良くないからだ。もうちょっとマシな意見を出してくれれば、おれだって文句は言わない」
「…………。」
ついにみんなから匙を投げられてしまったようだ。
「おい。おまえら。聞こえてるんだろ。返事しろ」
誰も顔を上げない。うつむいてスマホに見入る犬飼先輩の頬が、かすかに痙攣しているのに気づいた。笑いを堪えているらしい。
「美味そうだな。おれもなにか食べようかな」
犬なのに猫なで声を出した一角犬が、犬飼先輩に寄り添うようにして横からスマホを覗き込む。
「ちょっと、あっち行ってよ」
肘で押しのけられた一角犬が「あっ」と声を上げた。
「なに」
「良い名前を見つけた」
「は?」
犬飼先輩だけでなく、全員が顔を上げる。
一角犬は犬飼先輩のスマホを見ていた。
「それだよそれ」
「スマホ?」
犬飼先輩は自分のスマホを持ち上げた。
「違う」
「アンドロイド?」
「違う。画面に表示されている文字だ」
犬飼先輩は怪訝そうにしながら液晶画面に表示された文字を読み上げる。
「タラコとポップコーンシュリンプのドリア……364円」
「な?」と言われてもわけがわからない。
「高貴で威厳があって、しかも強そうじゃないか」
「まさかこれを自分の名前に?」
「タラコ・ポップコーンシュリンプ・ドリア364世。これからそれがおれの名前だ」
満足そうな一角犬を見ながら、やっぱり人間界の生物とは感覚が違うものだなと妙に感心した。
お読みいただきありがとうございます。
小説投稿サイトで初めて連載してみています。
ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。
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