第12話 勝利の末に
※本作は現代日本を舞台にした
音楽×悪魔祓いの現代ファンタジーです。
火・木・土曜日の20時に更新します。
その後も演奏は続く。
私の歌が終わった後は楽器隊だけになり、玲のギターが泣きそうになるほど叙情的なメロディーを奏でる。
最後にもう一度キメ。
ジャッ、ジャッ。ジャッ、ジャッ。
犬飼先輩のタム回しがあって、全員でジャン!
終わった。
私はしばらく肩で息をしていた。
玲を見ると、頬を膨らませてふうと息を吐き、お疲れさんという感じで肩をすくめられた。
白石先輩は先ほどまでのアクションはどこへやら、何事もなかったかのように楚々と立ち尽くしている。
犬飼先輩からはニコニコ笑いながら親指を立てられた。
観客の反応はどうなんだろう。
先ほどまで激しくノっていた群衆が、いまではしんと静まりかえっている。
しかしほどなく、爆発したかのような大歓声が沸き起こった。
ウオオオオオオオという地鳴りのような声はやがて、誰かが音頭を取って「重音部! 重音部!」というコールにまとまっていく。
よかった。
みんな、楽しんでくれたんだ。
そう思った瞬間、ふいに視界が白くなる。
気づけば私は、横になっていた。
「あ! 目を覚ました!」
覗き込んできたのは犬飼先輩だった。
犬飼先輩は身体を起こそうとする私の背中を支えてくれる。
「大丈夫? 無理しなくていいからね」
「いいえ。ありがとうございます」
周囲を見回す。
視聴覚教室ではない。私はベッドに寝かされていて、ベッドの周囲にはカーテンが引かれている。
「保険室……?」
「歌い終わった後でいきなり倒れちゃったから、みんなで運んできたんだ」
「ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。大変だったよね。初めてなのにすごいパフォーマンスだった。かっこよかったよ」
私は記憶を反芻した。
視聴覚教室での初ライブ。熱狂する観客の上に青黒い肌の怪物が現れて、巨大化した怪物は教室全体を呑み込む勢いで、でも光るオオカミみたいな生き物が怪物に襲いかかって……。
あれは夢だったのだろうか。
だったらいいのだけど。
答えを聞くのが怖くて、犬飼先輩に確認することができない。
「みんなは?」
「澪はトイレ。玲はお腹空いたからコンビニでアイス買ってくるって」
「アズラエルは?」
初めてその存在を思い出したという感じの、犬飼先輩の反応だった。
「そういえばどこに行ったんだろう。神出鬼没だからね」
そのとき、奥のほうで物音がした。
誰かがいるのかと思い、カーテンの隙間から覗いてみる。
ととととと、と、軽やかな足音が近づいてきた。
「え……?」
ぎょっとした。
そこにいたのは犬だった。白い柴。大きさは豆柴ぐらいじゃないだろうか。
「なんで?」
「アズラエルが言うには、私たちのアンサンブルが生み出した聖獣だって」
犬飼先輩が頭を撫でようとすると、白柴はさっと身をかわした。
「やめろ。そこらの犬と同じような扱いをするな」
時間が止まったような気がした。
いま、犬がしゃべった?
「ごめんごめん。かわいいからつい」
犬飼先輩は普通に会話している。
どういうこと?
白柴と先輩の間で視線を往復させていると、先輩が口を開いた。
「覚えてない? あの図体だけはやたらデカい悪魔を祓っている最中に」
「あ……」
夢ではなかったらしい。
『ネメシス』の演奏中、悪魔に飛びかかっていった白く光るオオカミのような生き物がいた。正体は不明だが、あのオオカミが登場してから明らかに形勢が変わったし、敵ではなさそうだった。
たしかによく見ると、その額には小さなツノがある。
「あれがこの……?」
オオカミじゃなくて豆柴じゃないか。
「なんだ」と、白柴は露骨に不服そうな顔になる。犬のくせに。
「おれがこんなに小さいのは、おまえらのアンサンブルが弱いせいだぞ。もっとしっかり練習してくれないと、上級の悪魔には勝てない」
「はいはい、わかりましたよ」
犬飼先輩に抱き上げられ、白柴は腕の中で暴れる。
「なにをするんだ。おれは抱っこが嫌いなんだ」
「本物の柴犬と同じでツンデレなのね。よしよし」
犬飼先輩が白柴の身体に頬ずりする。
「やめろ、こら! 放せ!」
「あんたが大きく強い犬になれるよう、私も練習頑張るね」
「おれは犬じゃない! 聖獣だ!」
話の流れから察するに、この一角犬はバンドの演奏によって生み出された生き物で、バンドの演奏力が向上するにつれて身体も大きくなるということのようだ。
そのとき、ふいに隣のベッドのカーテンが開いた。
うっすら茶色い髪をした女子がベッドからおりて鞄を手に取る。
「わっ。びっくりした」
犬飼先輩が自分の胸に手をあてた。
ようやく抱っこから逃れた一角犬は、とととと、とベッドから遠ざかる。
「ごめんなさい。うるさかったよね」
私は女の子に謝った。聖獣だとかの会話、聞かれてはマズかったのでは?
「バカじゃないの。高校生にもなって、ぬいぐるみを持ち歩いて」
女の子の吐き捨てるような言葉を聞いて、一角犬は私たち以外には見えないんだと気づく。
「そんな言い方することないじゃない」
犬飼先輩を軽蔑するように一瞥して、女の子が出入り口に向かう。
すると引き戸が自動的に開いた。
のではなく、ちょうど白石先輩と玲が入ってくるところだった。
「あら。水野さん、具合はどうですか?」
白石先輩の問いかけにも応じず、女の子はぷいと顔を背け、部屋を出ていった。
「なんだあれ?」
玲は手にアイスクリームの棒を持っている。
「感じ悪っ」
犬飼先輩が廊下に向かってあかんべーをした。
「おまえたちがうるさくするからだろう。ここをどこだと思ってるんだ」
「犬のくせに正論言うんだね」
「犬じゃない。聖獣だと何度言えばわかる」
一角犬と犬飼先輩のやりとりにくすっと笑い、白石先輩が私を見た。
「黒崎さん。大丈夫ですか」
「はい。ちょっと寝たらスッキリしました」
「よかった」
「だったらさ、みんなでファミレスでも行って打ち上げしない?」
玲の提案に反対する者はいなかった。
お読みいただきありがとうございます。
小説投稿サイトで初めて連載してみています。
ローカルルールがぜんぜんわかっていないので、不手際があったらご教授ください。
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