第八話 悪銭の使い方
カツ カツ カツ カツ...
「_____そーいやあそこの裏カジノ、マネージャーが気絶してから休みが続いてるんだって」
「なんかヤベー客にやられたんだと。俺もベルリンで暮らすなら、用心しないとな」
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カチャカチャ...ギギ...
「ぺズさん。なんか因縁とか付けられました?」
「あ...?別に、何もしてねぇよ」
「ロイター、部品」
「はい」
「いや最近聞いた話なんすけど、なんか半グレの連中が眼帯のコート着た女見つけ次第ボコしてるらしいんすよ」
「なにそれ。めっちゃ怖いんだけど」
カチャカチャ
「...いや眼帯のコート女ってぺズさん以外いないでしょ。何やったんすか」
「昨日さぁ、パチ屋行ったんだよな。んで話題のスマスロってのを打ったワケ」
「そしたら6700枚くらい出してバカ勝ちしちゃったんだよ。そこで面白いことに」
「それ見た経営者がゲロ吐いてぶっ倒れちゃったんだよね。マジ面白くね?」
「いやマジで面白くねぇっすよ!あそこの後ろ盾ヤクザなんすよ!?」
「じゃぺズさん今バックにヤクザの半グレに追われてるって事じゃないすか!」
「...知らねぇよ。クソヤクザなんて」
「それより飯いこーぜ。ちょうど勝った金あるし」
「いや...表出て大丈夫なんすか」
「あー大丈夫大丈夫。どうせそいつら雑魚だから」
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カランカランッ
「いやー久々に肉食ったって感じ。やっぱステーキは牛だよなぁ」
「私は後ろ刺されそうで気が気じゃなかったっすよ...」
「まだ気にしてんのかよ。別に何もないって____」
ドスッ
「...」
「...え?」
ロイターの青ざめた表情が見える。
しょんべんみたいな鼻を突く臭いと鈍い感触が私の全身を巡った。
目の前には私より首ひとつ小さい禿げた中年男がピッタリとくっついて居るのだ。
「...いったぁ...なにこれ。痴漢?」
いや...痴漢じゃない。
男は息を荒くし、私の脇腹に刃渡り10センチ程の汚れたナイフを突き刺してる。
真っ赤な血がべっとりと、滲み出してきた。
「ぶっ...ぎゃはははッ!!元軍人とか言ってたけどこいつ雑魚じゃねーかよッ!」
「これで賞金1万は俺のもんだぁッ!!」
ガシッ
グググググググググ____________
「が...ぎゃ...あ...ッ!!」
片手でジジイの顔面を掴んで持ち上げる。
ミシミシと音を立ててるが、こんなゴミの頭蓋骨誰が気にするんだ?
「お前さぁ...乞食如きが殺せると思ったわけ?修羅場くぐってきた私を。お前と違って」
「ねぇ、痛いんだけど。ナイフ錆びてるし。破傷風なりそうなんだけど」
「いだっ....がぁああ...ッッ!!」
「さっきバカでかい声で賞金とか言ってたけど誰がやってんの、それ。答えろよ」
ギギギギギギ...
「づゔぁッ!!ダミアンざんに言われだ...ッ!!やったら1万€やるっでぇぁああッッ!!」
「...」
「(知らねぇえ...誰だよそのクソヤクザ)」
ミシミシミシ...ッ
ビュジッ
「ぎやっ________ッッ!!」
...ドサッ
「(...もう頭割れたのか...雑魚すぎんだろ)」
「まぁまだ生きてるからいいか」
「...ぺズさん、血...」
「ん...あぁ、まぁ消毒したら大丈夫だろ」
「ダメですよ病院行きましょうって...!」
「ロイター。お前先帰ってろ。今日はもう上がっていいわ」
「...あとちょっとお願いあるんだけどさ。今日一日私ん家で過ごしてくんない?レーナが心配」
「その代わり家にある酒とか飲んでていいから」
そのジジイを抱えて車の助手席に乗せる。
その後ロイターはワーワーなんか言ってたが車に入った私の耳には何一つ入ってこなかった。
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カツ カツ カツ カツ__________
ドサッ
「う...ふぁ...あ...はあ...ッ!!」
「うわぁぁああ助けて、誰かぁぁあああッッ!!!」
「うっさ...ここ地下室だから響くんだよな...」
「おい、ジジイ。黙れ。だーまーれー」
バギっ
「ぶっ...助けて...助けてくれぇええええッ!!」
「チッ...ダメだわこいつ。まるで自分のことしか考えてない」
「今までもこれからも、そういう生き方してくんだろうなこういうカスは」
「...尚更小便くせぇジジイでしょ?マジ救いなさすぎだろ」
「うぅ...助けてくれ...お願い...」
「人前ではイキって見せて迷惑かけて、中身はスカスカの喧嘩も弱い雑魚、痛すぎるおっさん」
「今からお前に本当の恐怖ってやつを教えてやるよ。自分本位おじさん」
プスッ
「...ッ、なんだ、なんだそれ...ッ!」
「これね。中米産のヘロイン。今から3本は打つから楽には死ねない」
チャキッ
「んで、お前の持ってたナイフで全身の皮を剥ごうか。おっさんまじムカつくから肉も削いで骨だけにするよ」
「そしたら小便臭い体も綺麗になるでしょ」
グチグチグチグチ_____________
「づぁぁああぎぃぃいいいだいだぃだいだいッ________!!」
「だからうっせぇんだよジジイッ!!殺すぞッ!!」
バギッ ブヂァッ...ヂャ...
乞食のジジイの口ん中をブーツの踵で蹴る。
しかしそいつの想像以上に大きい喚きは止まらなかったので、口ん中を錆びたナイフで何度も突き刺した。
血が痰のように喉奥に絡まってそいつの"喚き"は小さくなった。
「ゴボ...ブゴロロ...ロァ...ッ」
「はぁ...は...ははははっ...」
「血まみれになってもテメェは汚ぇなぁッッ!!乞食野郎がッッ!!」
ギチギチギチギチ...
「がろぁ...ごぼらろあろぎぁぁあぁあッッ__________!!」
ドンドンドン________ッ
ガチャッ ガチャガチャガチャガチャッ______
「______ぺズさんッ!!ぺズさん何やってんすかここ開けてくださいッッ!!ぺズさんッ!」
おかしい。
ロイターはこの場所を特定することはできないはずだ。
じゃあなんで彼女は地下室の扉を叩いているんだ?
「やべぇって...マジでやべぇよぺズさん...ッ、なんの臭いだよこれ...ッ!」
「チッ...開けますかんね...ッ!!」
ドガンッ ドガンッ ドガンッ
_________バキンッ
202x年 午後1時19分 とある廃自動車整備工場の地下室にて。
ロイターは今まで想像もしたこともなかった光景を初めて目の当たりにした。
自分の上司であるクロズコップ・ペズーヘが暗闇の中で、乞食の肥満の中年男性を拷問していたのだ。
それもその拷問方法が凄惨を極めており、男性の上半身の皮を丸ごと剥ぎ、肩の肉を削いでいる。
床に転がった注射器の残骸を見るに、男は薬物や麻酔の類を打たれたのだと、彼女は考えた。
現に男が未だ悶え生きていることを考えると尚更薬物の可能性があると考えた。
「...」
「なんでお前がここにいんだ?」
背中から後頭部にかけて鳥肌が立つ。
もう私に話しかける彼女の姿は鬼にしか映らなかったから。
だがその私に微笑みかける優しい表情を見ると、例え血が顔にこびり付いていようとあの憧れの上司に成る。
頭がおかしくなりそうだった。
「こいつさぁ...マジでムカつく奴だよ。今際の際まで自分のことばっか。他人がどうなろうと全く意に介さない」
「ただ今日は相手が悪かった。恐らくこいつは本物の命のやり取りってのを軽く見ていたんだ。だからこいつは私の脇腹をナイフで刺して、そしてこいつは私に倍にして返された」
「...私もとんだアホ野郎に時間かけちまったな...んで」
「お前はなんでレーナと一緒にいないんだ?」
「...いや...レーナさんは家で過ごしてました...だから...」
「お前さ...家にいない間にレーナが襲われたら困るからお前を家に寄越したんだけど」
「...すぅ...いや...ごめん、お前は悪くない。全部私の都合だった」
「悪いが家に行っててくれないか。今日一日帰らないしレーナが心配なんだよ」
「...頼むぜ」
「...ぺズさんは...どうするんすか」
必死の問いかけ。
異常な空間に呑まれた私が絞り出した言葉はそれだった。
「...」
「...なんか、先走りすぎっすよ...今レーナさんと一緒に居るべきはぺズさんなんじゃないんすか...」
「もしこれからこの乞食の指示役殺しに行くとしたら...それ犯罪組織に喧嘩売るってことでしょう」
「絶対ヤバい...そっちの方がレーナさんも危ないでしょ...」
「だからこそ根元から潰す。目標はその犯罪組織とやらの絶滅だ」
「お前も深く関わらない方がいい。まぁこの現場にいたことは...私が証拠消しておく」
カランッ
彼女は血のついたナイフを床に放り投げため息をついた。
「とっとと行け。レーナんとこに」
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「________ってのが、事の経緯です」
私はソファーに座ってレーナさんにそのことを話した。
ぺズさんが乞食を殺したことについては話さなかった。
ただ刺されたから、やり返した。それで面倒事になったとだけ。
レーナさんは起きてすぐなのか、寝癖のついたまま私の話をソファーに座って聞いている。
「...そうですか」
「わかりました。ではしばらくここに泊まってってください。必要なものがあれば全て用意しますので」
「...はい。お世話になります」
「(やっぱ殺したの言った方がいいのか...?いやでもレーナさんにはキツすぎるな...やめとこ)」
「でも、本当に申し訳ありません。クロズコップ様のせいでこんなことになって」
彼女は私に頭を下げる。
「あぁ...大丈夫ですよ。自分は休み頂いたようなもんなんで」
「ただぺズさんが戻ってくるまで一緒にいて欲しいって言われたんで...外出とかは控えてください。危険なんで」
その後私はレーナさんに夕ご飯を作ってもらい、寝室まで用意してもらった。
木が差し込む月が大きく映える窓。
質素な部屋ではあったが、眠るにはとても静かでちょうど良かった。
私は枕に頭を乗せ、ベッドに潜り込むと今日起こった事柄を映画のように流してみては"ぼーっ"と考えてみる。
「......これ」
「...夢か?」




