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第五話 しばらく安静にしててください





「あ"...ぁ...右眼から...血が止まらない...」






暗闇の中、月明かりを頼りに右眼から無限に垂れてくる血液をコットンで押さえ続ける。


白い清潔な布を赤く染めては捨てて、紙箱からコットンを取り出し目を押さえる。


その作業に退屈しなかった。






もはや猫に引っかかれた程度ではない。


唇も結構深く切れてるし、全身噛み跡だらけだ。


私の体が頑丈で助かった。


本当に。






ブチッ






「い"っ...ッ」






ダラダラ...






頬あたりの噛み傷が深すぎて切れた。


絶えず血が止まらない。






「...もう無理だ...明日病院いこう」






______________________





「それで、その血まみれの姿で病院に来たと」






「はい」






翌日にもなれば昨日よりはマシになると思ってきたがダメだった。


全身から血が滴った状態で真っ白な病院に入ったらこの女にカルテで頭をぶっ叩かれた。


主治医の胸のネームプレートにはボウモアと書かれている。


もちろん面識は無い。






「はぁ...あのね、クロズコップさん。自動車事故にあったらまず救急車を呼んでください。運が悪かったらもっと血を失って気を失ってたかもしれないんですよ?」






彼女は金の長い髪を手で靡かせて、私の前に人差し指を立てて呆れた口調で言う。






「あぁ、別に自動車事故じゃなくて」


「恋人に」






「...恋人...?」


「クロズコップさん。もし彼氏さんからDV等を受けていたら、迷いなく相談してください」






「あー、そういうんじゃない」






「...大丈夫です。DVを認めることはさぞ御辛いでしょうが、あなたの為にも__________」






「はぁ...」


「...サディスト」






「...さでぃすと...?」






ボウモアは目を丸くして私を見る。


こっから(はじめ)から説明することを考えると、手を額にあて項垂れるのは仕方ないだろうからどうか許して欲しい。






「私の恋人は少し...変わった性癖っていうか」


「日頃の鬱憤が溜まってるのか知らないが、私を噛んだり、無い方の右眼に指を突っ込んで傷つけることで性的興奮を覚える。そんな性分(しょうぶん)なんですよ」






「ぐっ...ゔぅう...ッ!!」






ボウモアは私の眼帯を外した右眼の奥を見て吐き気を覚えたらしい。


口に手を押さえ表情を真っ青に変えた。


眼球が無くなったとこはピンク色の肉があるだけだが、そこが指でえぐられ傷ついたとなるとミンチ状になって...これ以上は言いたくない。


てか患者の患部見て嘔吐(えづ)くって医者がしていいのかよ...






「果てはその血の付いた指で私の陰部を犯す。自らの陰部また」


「まぁ、だから...これはまだセックスの範疇(はんちゅう)かも」






「ヴォエゴァ...ッ!!!」






彼女はとうとうゴミ箱に吐いた。


それ程までに異常なんだろう。私らの性行為が。






「ぁ"...ゔぇ...」


「はぁ...が...それは...お互い愛し合ってるんですよね...なら良かったです」






ボウモアは自身を落ち着かせるためにその丸いメガネをハンカチで拭いた。


決して吐瀉物が付着したからではない。






「(多分相手があんな小さい少女と聞けば吐くことはなかったんだろうな)」


「(...見せてみるか)」






彼女は咳払いをしてメガネをかけ直す。






「それでは...えぇ。全身の患部に薬を塗って行きますので、裸になってください」






「先生。ちなみに恋人というのがこの人なんですが」






スマホの過去の写真。


レーナがカーキ色の胸リボンのついたベージュのシャツワンピースを着て、笑顔ではしゃいでいる写真だ。


背景の日差しが彼女の可憐さを増幅させている。






「えこの子がぁぁあああッッ!?!?」






分かりやすいリアクションどうも先生。






_______________________





ガチャッ






「Willkommen...あれ、ぺズちゃんじゃーん。またこっぴどくやられたねー」






「黙れ。お前のせいで殺されかけたぞ」






「レーナちゃんかぁ...あの子えげつない程のSだからね」


「昨日もえらくお盛んだったみたいだねぇ」






「お前も知ってるだろ。彼女の他の女を嗅ぎつける嗅覚は」


「もうベタベタするな。毎度こんな虐められかたしたら体が持たない」






「はいはいわかったわかった。それで?今日はどうすんの」






「別にどうもしない。お前と話に来ただけだ」






「あそう...確かに、そんな手負いでスロット打ちに来られたら逆に引いてた」






「...ったく...そういうことだから」


「今日は帰る。じゃあな」






カツ カツ カツ...






「...ねぇ、ぺズーへ?」






「...」






またあの毒々しくも甘い声が背後から聞こえる。


今ギフトの考えてる"何か"に付き合ってやる暇もないが、それを無視するのも友人として如何なものだろうか。


私はため息を吐いて、後ろを振り向いた。






「Bitte kommen Sie noch einmal(また来てね)、傭兵さん」






相変わらずカウンターに肘をついて、やる気のない眠そうな様子だった。


しかしいつもと違ったのは、私を弄ぶように重たい投げキッスを送られたことだった。





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