第三話 ABJ(アルティメットブラックジャック):2
______午後20時18分 開始
チャラーン
トッ トッ トッ
通常時を1g1g慎重にレバーを叩いていく。
今回スマスロということで、マグラーのようにメダルを入れる必要がない。
日本では紙幣をそのままサンドに突っ込んで内部的にメダル管理するらしいが、流石にユーロを受け付けない。
なので、メダルがなくなったら横に座っているバニー姿のギフトにユーロを渡すことで続行になる。
「ていうか、おい」
「んー?なにぃ、もうギブアップ?」
「気が散る。どっか行け」
「ひどいねぇ。バニー美女が隣に座ってるのに」
「でも残念。メダル交換するにはこのギフトちゃんがいないとできない仕様になってるんだー」
「他の従業員いるじゃん...バニー姿の」
「別に間近で見てなくったってゴト行為なんかしねぇよ」
「そんな事じゃないよ。ただ、新台だから挙動がちょっと気になってね」
「それよりほら、もうアツいの引いてんじゃない?」
「_________」
第1停止。
私はチェリーを取りこぼさないようにBARを狙っていた。
その第1停止下段にチェリーが止まっていたことを、ギフトに知らされて気がついた。
チェリーorチャンス目。
この台だとチェリーは高確率も取っていない状態だとかなり弱い。
今は手っ取り早くボーナスに当選させたいためただただチャンス目が成立することを祈る。
「(右リール中下段にBAR・7でチャンス目2確、もしくは中リール中段にチェリー右リール上段にチェリーが成立でチャンス目...)」
トンッ
右から押す。
中下段にBAR・7の停止形だ。
チャラリラッ!
「おー高確率とバトルゲットだね。対戦相手とカジノでバトルして、勝てばボーナス確定だよ」
「対戦する相手によっても勝率が変わるよ」
「解説どうも...っ」
ジャキシンッ
[マワード!ブラックジャック!]
対戦相手はホテルの支配人マワード。
勝利期待度星3。
...微妙だ。
「なーんで自分のカジノに賭けに来るんだろうねこのおっさんは。暇なのか?」
「マジで黙れって...!」
トンッ トンッ トンッ
ブゥーン...
[Burst...]
「あっ...」
「おいギフトッ!!」
「あーあー、ごめんって。もう邪魔しないから」
「でも一戦目は大体勝てないの。この高確率でまたレア役からバトル引いたらアツいんだから」
「はぁ...ほんとかよ」
シャラランッ
トンッ トンッ トンッ
次々と現れる演出。
主に左から右に人が歩く演出だ。
基本は黒いバニーガールと金の持ってそうな爺さんだが、稀に来る紫色のバニーが目の前に立ち止まるとチャンス目確定。
...誰が興味あるんだこんな話。
「あ、噂をすれば」
止まった。
だが緑色のバニーだ。
スイカか...いくら高確中のレア役とはいえボーナス当選は薄いだろう。
トンッ トンッ トンッ
チャラリラッ!
「んぉお"ッ________」
それはスイカではなかった。
スイカが上段に揃うチャンス目である。
「ぶははっ!単純に脳汁出ちゃっておもれ〜ッ!」
「は...ぐ...はぁ...っ」
なんだ。
この台、なんかやばい。
一つ一つのレバーで心臓の鼓動がコントロールされてるような...ッ
「(握られてるのか...?この台に)」
「(私の心臓が...ッ)」
シャラランッ
[キファニー!ブラックジャック!]
期待度星4.5。
ほぼ確定だ。
[21!]
ヴゥゥゥゥンッッ
「...ッッ」
脳に痺れる重低音。
錯覚とも言える程の映像演出。
瞬間、私はその台に骨抜きにされた。
間違いなくこの瞬間、私の脳はドーパミンとエンドルフィンに満たされているから。
「ボーナス確定だ。7を揃えて?」
「ちなみにレギュラー引いたら追加投資だから」
「れ、レギュラー確率は...っ」
「そ・れ・はぁ...」
ギフトが私の右耳に甘く囁く。
「▅▅▅お・た・の・し・み▅▅▅」
「...は...ははっ、お楽しみ...?」
あまりにおかしくて笑ってしまった。
ふざけるな...レギュラー引いたら天井まで行くかもしれないんだぞ。
実際この台は2回も天井に行ってる。
ビッグ...ビッグが引けなきゃ私の負け。
マイナスのまま、一日を終える。
「ちなみに今日の閉店時間は22時45分。消化するのに時間がかかるから、レギュラー引いたらお終いね」
「ば、それじゃ後30分しかねぇだろうがッ!」
「あはっ、残念ながら当店はそうなっておりまーす」
さっきまで妖艶だった顔が私の知る"悪い顔"に変わっている。
クソが...上手く誘導された。
「ぺズちゃんってさ、ほんとにドーパミン好きだよねぇ」
「脳汁脳汁って、馬鹿みたいに誘導されちゃってさ」
ギフトがわたしの首を撫でるように絡みついて、耳に囁いてくる。
「こんな眼帯なんかしちゃって、"かっこいい""かっこいい"って言われてる傭兵さんがこんな単純な機械でドーパミン漬けになってるって、そういうの...」
「▅▅▅ほんとにかわいい▅▅▅」
彼女は私の耳をゆっくりと舐めた。
恐らく、笑っている。
イタズラに。
「(...馬鹿か?これはただのお遊びだ。低投資のお遊びギャンブル)」
「(そうだ、完璧な777を揃えてしまえばいい。BARなんか考えるから余計な緊張するんだ)」
しかも煽られているからか、無駄に失敗してはいけないという自分に強迫をかけている。
自分が自分に首を絞めているのだ。
「ふ...は、はは...あははっ...!」
私は、笑った。
もう笑うしか無かった。
「ふふっ...づっははははッ!」
合わせてギフトも可笑しくて笑う。
トンッ トンッ_______________
そして、私は第3停止を押した。
__________トンッ
[BAR。レギュラーボーナス]
「...ゔっ...ぁ...!」
レギュラーボーナス。regularbonus.
レギュラー___regular___レギュラー___regular___レギュラー_________
「▅▅▅はい、150€負け▅▅▅」
「__________」
「____そんな_____入れてないだろ___」
眼帯が汗ばんできた。
確か最初に用意したのは50€のはずだ。
「そんなのとっくに使い果たしましたぁ。通常時、私の解説に集中して」
「それとも"楽しくて"忘れちゃった?」
レギュラーボーナスは66枚しか貰えない。
この枚数と時間制限では、捲るのは不可能だ。
あれ、手が震えてレバーが上手く叩けない。
落ち着け。たかが150€無くしただけだ。
いや...そうじゃない。
怖いんだ。
この短時間熱中して今日働いた分の金を溶かしたことが、ただただショックだったんだ。
今日のロイターとの会話も、ろくに覚えてやしない。
「...」
「ねぇぺズちゃん」
「▅▅▅お疲れ様▅▅▅」
最後に、ギフトは私の耳に甘く囁いて店は閉店時間を迎えた。
▅▅▅▅▅ 本日の収支 -150€ ▅▅▅▅▅▅




