第十八話 何者でもない者の挽歌 Ⅳ
______suburbs of berlin 13:26 am.
ドパパパパパッ パパパパパパパッ______
既にベルリンの郊外では戦闘が始まっていた。
どこの何系のマフィアか知らないが警察機動隊やら軍隊やらと銃を持って抗争を始めているのである。
最早ベルリンとしての都会の美しさは消え去り、瓦礫と砂埃の舞う"戦場"と化していた。
「...」
カチャ_______ジィ_________
そんな様子を遠くから撮影する。
「(...猫さんのとこから車を飛ばして6時間...彼女の助けがなければここにはたどり着けなかった)」
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昨日言った通りプレゼントをやるにゃ。
私と同じく処刑対象になったのはベルリン・ミッテ在住の裁定者シルベニア。電話番号03X-55C5-2856
そしてもう一人はベルリン・パンコウ在住のクロズコップ。番号02Y-3O09-70A3 (※但し現在なぜか繋がらない)
多分この2人取材しとけばいい記事作れるにゃ。
あ、あとガレージに停めてるボルボもう使わないからそれでベルリン行けにゃ。
まぁ死なない程度に頑張れにゃ。
歩いてベルリンまで行こうとしたマヌケへ。
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「...」
「車にしても、こっからぺズ姉さんのいるパンコウまで行くにはこのミッテを突っ切るしかない。別に遠回りすればパンコウまで直でいけるけど」
「それだと時間がかかりすぎる...その間に姉さんの元に軍隊が押しかける」
「...やっぱりこの戦場を抜ける他ないか」
いや...落ち着け。
いくら数十メートル上から落としてもぶっ壊れないボルボだって、この銃撃のなか突っ込んでったら流石に壊れて爆発は逃れられない。
「クソっ...先にぺズ姉さんに電話が繋がれば...」
「...」
「_______シルベニアを取材してからパンコウまで突っ切る_______」
...一見無謀にも見える...いや、リスクが高すぎるが効果的だ。
猫さんは確かに裏社会の大物だった。
その人の紹介で来た、というのはあまりにも甘い考えだが、正直に伝えれば話は聞いてもらえるかもしれない。
「結局こうして暴徒化しているのは...誰かに話を聞いて貰いたがってる証拠だって」
「そうなんだろ...猫さん」
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プルルルルル...プルルルルル...
「...」
プルルルルル...プルルルルル...
________ガチャッ
「...ッ!」
「...誰だ。この番号にかけてくるのは知り合いだけだが」
「お前非通知だな...警察か?」
「...いえ...違います」
「いきなり電話して申し訳ありません。自分はノイアーと言います。今回の緊急事態法制下の取材をしているフリーのジャーナリストです」
「実は猫さんから紹介があって、あなたの下で取材をすればいい記事が書けると...言われて電話しました」
「...」
「猫が?」
「...ええ」
「...」
「証拠を出せ。確かにこの電話番号を知ってるのはお前が本当に猫の紹介だという証拠なのかもしれないが、サツだって個人の電話番号を特定することぐらいできる」
「...」
「証拠は今...提示することはできません。申し訳ありません」
「でも。猫さんを取材させて頂いた時のビデオテープは今持ってます」
「...へぇ」
「どうやら確固たる自身があるらしい。だがもし仮にお前を信じて取材を許可したところで私に一体なんの得がある?」
「この混乱に紛れて、気まぐれで殺されたジャーナリストなんか何人も知っている」
「...得は...ないです。ただ僕は」
「今起きている現実を皆が直視しなければ何も問題は解決しないと思って行動しているだけです」
「...ほう...これは、青二才が言うじゃないか」
「じゃあその問題の解決策ってのが、自身が死ぬことだったら?お前は簡単に自分の情報を敵に受け渡すのか?」
「...それは...」
「ふっ...悪い、少し意地悪だったな。別に謝る気もない」
「そこから紺色の塔の教会が見えるか?とりあえずそこまで来い」
「取材とやらを受けてやる。青二才」
プツッ
「...」
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カツ カツ カツ カツ...
紺色の塔の教会。
別に大きくもない普通の街にある教会だ。
僕はバリケードや鉄柵が張り巡らされている門の前で立ち止まった。
ギギ...ギィ...
門の奥の木でできた玄関扉が開かれる。
それと同時に、手前の鉄門が左右に開かれた。
「...よう。入れよ」
「それとも立ったまま世界を救うつもりか?」
「(こ、こいつ血まみれだ...後ろの取り巻きも警戒態勢だからか興奮しているように見える)」
「(猫さんとは大違いだ...)」
「はい。では失礼します」
カツ カツ カツ カツ...
「...ところでお前、猫に会ったと言っていたな」
「よく無事でいられたな」
「はい。彼女は襲われている僕を助けてくれました。良い人だったと思います」
「...あの猫が...?」
「...はい。あの、何か」
「...いや。別にどうもしないが」
「奴はこの業界で最も非道だと言われている人間だ。薬物には手を出さないとプログラムされているのか知らないが、それ以外の汚れ仕事はほとんど奴が請け負っていた」
「...」
「それが真実だとしても、僕は記録するだけです」
「...全員が被害者であり加害者なんだ。もう誰も知らないフリをすることはできない」
「...」
「...あおくっさ...」
彼女はステンドグラスから日が差す細い空間を通った先の一つの部屋の中に入っていく。
そして彼女は玉座のような、座り心地の良さそうな椅子に勢いよく座り込んだ。
「さぁ、始めろよ」
「取材ってやつを」
「...ええ。準備があるので少し待っててください」
カチャカチャッ
なんだろう。
この人はやはり猫さんとは違う。
何か裏社会に入り込まなければいけない過去があるようにも思えないし、どこも殺されても可哀想とは思えない。
優しかった姉さんとも違う人種だ。
僕はこの人を何も知らないが、もう嫌いになりかけている。
「...」
「ひとつ聞きたい。お前はなんのためにこんなことしてるんだ?」
「さっき得はないと言ってたな」
「...」
「自分には助けなきゃいけない人がいます。その人は小さい頃お世話になったんで」
「...あ」
いや...それはそうだけど、根本的に、なんで僕は猫さんやこの人の映像を撮ろうとしているんだろうか。
もし姉さんに会うために今ここにいるなら、他の人間なんかどうでもいいはずだ。
...
いや...これがきっと僕の本当にやりたかった事なんだ。
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「ノイアー君は人の痛みがわかる優しい子だから」
「君は、迷っちゃダメだよ」
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「...僕は」
「みんなが過去に蓋をして、忘れ去りたい歴史を僕だけが目を離さず記録しておきたい」
「...」
「ははっ...こんなこと忘れるなんて、一体なんのために会社やめてきたんだよ。ほんと」
セッティングを終え、カメラを固定しシルベニアに向ける。
「別にこんな行為に得なんかない。ただ」
「大切な人との約束のために、あんたを利用させてもらう」
「...」
「...いい目になったじゃん」




