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第十三話 施設警備アルバイト





夜勤。


それは朝が来るまで己の恐怖との戦いである。


コンビニ、病院、その他商業施設。


監視カメラで室内に異常がないか確かめ、特に病院の看護師なんかは夜間ぶっ通しで患者の様子を見るそうだ。


なんて恐ろしい職業なんだろう。


子供の頃の私は、そうも思ってたさ。






_______________________





「孤児院の夜勤警備?」





「えぇ。退院したのはいいのですが、クロズコップ様はまだ現場での労働は早すぎます」


「なので孤児院で労働、もといリハビリというのはいかがでしょう」






「...それで夜勤ってわけか」





私とレーナは河原のほとりで風を浴びながら鳥を見ていた。


ハイイロガン。


外敵から群れをなし、自らを守るために行動する。


そんな心の和む様子を眺めて、私はタバコに火をつけた。






「私は...子どもの世話は出来ないぞ」





「えぇ。分かってます。トイレや寝かしつけは夜勤の者が担当しますので」


「クロズコップ様は施設全体の心配をしてください」


「あなた様なら、簡単でしょう?」






「...」


「任せな」





______________________






_______3月1日 21時29分 セキュリティルームにて






「________さ、みなさん就寝です。電気を消しますから、早くベッドに入ってください」






騒がしい子供たちの声もレーナの一声で段々と静まり返っていく。


この施設は流石に彼女一人で運営するには無理があったため、8人の女性職員を雇わせた。


今日は5人非番なので電気を消すまではレーナ含め4人体制でおよそ26人の6歳から15歳までの少年少女を寝かしつける。


ただ、これから暗い部屋で監視モニターを眺めて業務を始める私からすればあまり関係のない話だが_______






『______おねえさんなにしてるの?』






「...」






9歳程の男の子が、回転椅子に座り青白いモニターに照らされる私を見つめていた。


ただ漠然と、これから十数年妙に記憶に深く刻み込まれるような丸い目をしている。


...あぁ...なんて___________





「バルーナ...!この部屋に入っちゃダメって言ったでしょ...!」






「だってしらないおねえさんが」


「おねえさん、僕たちにひどいことするの」






「そんな訳ないでしょ...?この人はね...」






________なんて綺麗な目をしてるんだろう。






「____スーパーシークレットエージェント"K"」


「私はね、この施設に夜な夜な現れる悪ーいお化け達を退治するスーパーなお姉さんさ」





「スーパー...シークレット?」





「そうさ」


「今回の任務は...君たちをこの真っ暗な部屋から、静かに、そして遠くから守り抜くこと」


「だから君ももう寝なきゃね。夜の警護は私一人で十分さ」






「うわぁ...」


「なんか、ダサい」






「ぬっ...そ、そっか...」






「ほら...もう寝ましょう、バルーナ」






「...」


「しっかり守ってね。スーパーエージェントのおねえさん」






「...ふっ」


「任せろ少年。この...」


「_______スーパーエージェントに」





______________________



▅▅▅▅▅The Melancholy of Croscop▅▅▅▅▅


______________________






________消灯 午後22時 業務開始






______ピッ ____ピッ _____ピッ ____





「...とは言っても、侵入者なんて来るわけねぇんだよなぁ...」






モニターのスイッチをリモコンで切り替える。


玄関の出入口から子供たちの寝ている寝室まで続く第1廊下、寝室からトイレ、また職員室へと続く第2廊下、そして外の駐車場、外A(裏口と雑木林)、外B(バスルーム側の壁から雑木林)。






「(ここは野生動物も出没する。不審な動きがあれば熊だろうが射殺しなければ)」





ガサ...ガサガサ...






街で買っておいたDöner(デュナー:ドネルケバブ)の包み紙を開け、口の中に頬張る。


いい具合にスパイスの効いたオーロラソースが生地とチキンに絡みこんでいる。


美味い。






「...」






依然としモニターには何も映らない。


この部屋に木霊(こだま)しているのは私の咀嚼音と電子の波の音だけ________






『▅▅ねえ▅▅』






「むぅお、ぁあ"あ"...ッ!!」






心臓が飛び出て刻みキャベツが気管に入る。


その声の主は扉を開けて立っていた。


眠そうに目を擦る少女だ。






「げっほぇっほぇ...ッッッ!!あ"ぁ...びっくりしだぁ...ッ」






『ねぇ...おトイレ』






「あぁ...わかった。一緒に行こう」


「夜勤の人は?」






『...いない』






「...」


「...いない?」






『うん』






「...」


「そっか。とりあえずトイレに行こうか」






「(...どういう事だ?夜勤の人間がいるんじゃなかったのか?)」






________________________






カツ カツ カツ カツ__________





「ほら、早く済ませてきな」





『...置いてかない?』





「置いてかないよ。お姉さんここで待ってるから。ほら」






...ギィ...ガチャ






「...」


「...妙だな」






私はその廊下の先にある職員室に向かって懐中電灯をつけて歩いていく。


すぐ近くだから、トイレ手前にはすぐ戻るつもりだ。






カツ カツ カツ カツ____________






「...ん」






...おかしい。


職員室は人の気配どころか明かりすらついていない。





「...」





カチョッ






念の為腰のP7を取り出しドアをゆっくりと開ける。





ギィ...





「ッ...!」






部屋の臭いを嗅いだ瞬間P7を構えた。


血の臭いだ...ここは孤児院だぞ。






「誰かいるのかっ」





...そう声を出して辺りを懐中電灯で見渡す。


丁度奥の壁際のデスクに血まみれの豚の頭部を発見した。


そしてその壁には






「...Töte alle(皆殺し)」






血で書かれたそんな文字が壁にはあった。






「...ふざけんな。裁定所でカタはついたはずだろ」






辺りを見回しても、やはり人の気配はしない。


私はその豚の前まで警戒して歩いていき、その雑にちぎられた頭の様子を伺った。


ふと耳を済ませると、カメラのシャッターを切るような音がその内部から聞こえてくる。






「...」






ちぎられた首に手を突っ込み感触を確かめた。


何か硬いもの...小型の機械のような角張ったそれを私は取り出した。


ライトで照らす。


それは、刻々と残り45秒を1秒ずつ減らしていく工業用ダイナマイトが巻き付けられたものであった。






「...」


「ガキも殺そうってそういう魂胆か。クソ野郎」






そう言っているうちに時間は40秒を切っている。


私は走って職員室を出て、その時限爆弾を抱えたままトイレ横の窓ガラスをぶち破って外に転がり出た。


懐中電灯で地面を照らしながら建物周辺を一周する。





ダッダッダッダッ_____________





「_________!」






あった。


直径28cmのサイズの足跡。


靴のサイズから見るに男。


今日のレーナの話を聞いた限りでは男の訪問客は誰も来ていない。


ましてや28cmの足の女の職員もこの施設では働いていない。


つまりこの足跡を辿っていけば、このふざけたマネをしたクソ野郎にご対面という訳だ。





「...ッッッ!!!」






全身の力を腹筋に込めその足跡の方向に走る。


残り20秒。


この辺りから雑木林に入り足跡も見えづらくなる。


視界にも全力を注ぎ、ただの一度の見落としもないようにその足跡を懐中電灯で照らし辿っていく。






ザッ ザッ ザッ ザッ _________






残り11秒。






20メートル先、12時の方向から林を分ける音が聞こえた。


ライトで照らしてみる。


黒いジャンパーを着た176cm程の背丈の男が、フードを被って必死に私から逃げている。


...あいつだ。





残り8秒______7______6______






「...ふざけるな...!はぁ...は...っ、なんで...なんであいつ病院から出たばっかりじゃ無かったのかよっ!」






男は月夜に照らされながら息を切らして喚く。


どうやら潜入の技術はあっても体力にはことかけていたらしい。






4______3______2_______






その男との10m以内の範囲に足を踏み入れ_____






「おいッ!!忘れもんだぞボケッッ!!!」






シュッ






ラグビーボールを投げるようにそいつに向けて投げた。


軌道は()を描き、見事男の後頭部にヒットした。






「ゔわぁあ"あ"ッッ!!!」


「んな_____そんな馬鹿なことあるかぁあ"あ"あ"ああ"ッッッ_______!!!」






____________0。







プッ_______ボギャァアアアアッッッ______







_________パラパラ_...







「言っとくが...私の100m走自己ベストは11秒32」


「今回は相手が悪かったな」






...そいつの最期?


そんなの、前方に向かってバラバラに上半身が弾け飛んだに決まってるだろ。


歯がそのまま生え揃った下顎が木にぶつかって力なく地面の枯れ葉に滑り落ちた話を聞きたいのか?






ザッ ザッ ザッ ザッ...






男の死体と反対を向き、来た道を戻る。


背丈の高い木々が眩しいくらいの満月を遮って私を青白く照らしている。


もはや数十メートル歩いたら、芳醇な森の匂いしかしなくなっていた。






「...」


「さ...もうあの子を寝かしつける時間だ」






そして、その夜は静かに終わりを迎えた。






「あー、まだ体いてぇ...」










[施設警備アルバイト (完)]

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