第十話 クズの踊り方
カツ カツ カツ カツ...
...カツ
「...」
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[君の今見えてるものが青色なら、私は黒色だろうか]
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スチール製の黒いドアの上部に彫られたわけのわから言葉のツギハギ。
これを見る度に、またここへ帰ってきてしまったとしんどい気持ちに侵される。
「東ドイツってのも冷たい国だにゃ。歪んだ歴史の流れに呑まれて善人の面をした悪人が大勢生まれてしまった」
「そんな悪人が自らを裁くために作られた最後の良心がこの裁定所にゃ」
「ここから先どんな末路を辿ろうと...あとはわかる?」
「"裁定結果が如何なるものでもそれを否定することはできない"」
「知ってる。それがルール」
「なははっ。よく知ってるにゃ」
「じゃ、さっさと終わらせるとするかにゃ」
ガチャッ ギィィィィ...
「______ようこそお越しくださいました。クロズコップ様、猫様」
「ではクロズコップ様は責任者席へ。猫様はその後ろの見届け人席へお座り下さい。双方武器はお預かり致します」
木製の硬く傷だらけのダークブラウンの椅子に座る。
ここでいう責任者席とは事件の当事者同士が争うため一定の間隔で離れた場所で座り、裁定者に事の経緯を説明し、争う。
裁判所と違うのはここに被害者や被告人など存在しないこと。所詮は悪人同士なのだから、平等に扱うという不平等ともいえるシステム。
まぁ裁定者が市民から罷免された裁判官なんだからこんなおかしな裁判所の真似事施設を作るんだろう。
「...」
隣を見てみる。
今回の責任者席には紺色のスーツを着た肥満のはげ上がった男が座っていた。
いかにもマフィアでございって感じの。そいつは私の事なんて意に介せず正面にある高い席の裁定者席をずっと眺めている。
こいつもきっとクズなんだろう。
_______カーンッ カーンッ カーンッ
「______裁定者が参ります。皆様ご起立下さい」
ガタッ_______ガッ______
黒のベストを着た男は頭を下げる。
カツ カツ カツ カツ...
「皆様ご着席を。手短に行きましょう」
黒い法服を着た長髪の金髪女が裁定所に入ってくる。
フリーデ・H・シルベニア。
メガネをかけたあの女こそ、鉄の女だ。
私ら責任者側を見下ろす形で、彼女もまた粗悪な木製の椅子に腰掛けた。
「まず裁定所内で暴行及び場を荒らす行為をした者は即刻射殺します。人外には裁定を受ける権利はありません」
「それを第一に、2つ目に"裁定結果が如何なるものでもそれを否定することはできない"。裁定を長引かせる必要はありません。ましてや私ら、人の世から外れた悪人に二度目のチャンスは存在しません」
「そして3つ目は...責任者の家族、またはその組織が裁定結果を重く受け止めそれを未来永劫遵守することその3つを頭に叩き込んで裁定を進めていきます。では、始めましょう」
「(...相変わらず劣化版裁判所みてぇなルールだな。まぁいいや、どうせ私が勝つし」)
「(...でもなんで負けるとわかっててここにいるんだ。身代わりか?)」
「まぁ...なんていうんでしょうか。今事件の概要を把握した限り、100対0で悪いのは組織側なんですが」
「クロズコップさんは自分を刺してきた乞食に凄惨な拷問を加えたようですね」
「それは何故ですか?」
「このクソ共が私の友達と恋人に手を出させないため。こいつらお得意の見せしめってやつさ」
「随分と短絡的な理由ですね。この一件が今後の審議に不利に働きますよ」
「...どうでもい。私らの身を守るためだ」
「...全く」
「(...ペズのボケッ...あれほど言ったのに冷静さ無くしてるにゃ。このまま進むと明らか裁定は不利に進む)」
「(なんとかして、せめて決闘裁定は避けなきゃならないにゃ...っ)」
「裁定者。クロズコップは裏カジノで勝って因縁をつけられ、元締めに懸賞金をかけられた被害者だにゃ。仮に拷問が凄惨を極めても組織側が行った行為の方が重いことには変わらないにゃ」
「組織側が乞食を雇ってクロズコップを刺した。そこは紛れもない事実だにゃ」
「確かに。しかし今問題なのはそこだけなんですよ。それさえ無ければこの男を殺す権利でもなんでもやりましょう」
「ただ、"拷問が"やりすぎです。薬物を過剰に打ち込みすぐには死ねない状態で顔、肩、胸の皮を剥いだ。既にこの乞食は死んでるも同然です」
「それでもってまだクロズコップさんの友人や恋人には被害が出ていない...これは大きく見積もった所で」
「5対5、または6対4ってとこですか」
「な、それじゃ決闘裁定はほぼ確定じゃないかにゃッ!」
「組織側、ダミアンさん。もう既に懸賞金は取り下げましたか?」
「取り下げました。裁定所で争うことを組織の総意で決めたためです」
「では5対5です。じゃ、決闘裁判へと移りましょうか」
「な、ちょっと待つにゃッ!」
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裁定所の地下多目的ホール、別名決闘場。
裁定結果が5対5の時のみ使用される。
ルールは各自預かっていた拳銃にマガジン一丁だけ装填が許され、開始の合図と共にお互いを撃ち合う。
結果先に死亡した者が敗北者、生き残った者が勝者となる。
「ただ、ここにいるのは悪人のみ。勝った者が正義で負けた者が悪人などという道理は通用しない」
「あくまで5対5は痛み分け。死亡した一方が受けた痛みを勝者側も同程度受けなければならない」
「相手を1発の弾丸で殺したなら自分も1発どこかの部位を撃ち抜かれなきゃいけないって、そんな血も涙もないルールにゃ」
「どこかの部位って、頭、右手、左手、胸、右足、左足の6つ?」
「じゃあ運悪く頭や心臓をぶち抜かれたら私も死ぬってわけか」
「そうだにゃ」
「この勝負お前が勝つのは無論にゃ。ただ1発の弾丸で3分の1を引いたらお前の死亡が確定する、それだけの話にゃ」
「...悪いにゃ。私にできるのはここまでにゃ」
「安心しろ、私は死なない。ましてやこの裁定結果はお前のせいでもなんでもない」
「そもそもこういうゴタゴタが起こったら、大物は裁定所への出頭が義務付けられてるのは裏社会の掟だからな」
「一つ目お化けのクロズコップなんて、最初から世俗で暮らせるわけがないんだ」
「...」
コンコンッ
「______時間です、クロズコップ様」
「あぁ、それとありがとな。時計。大事にするよ」
「お前と私は、一生の友達だ」
「...」
そう言って私は、猫に笑顔を送って部屋を出た。
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「...では決闘裁定を始めます。両者構えて」
相変わらずシルベニアは面倒くさそうに私と正面にいる肥満のハゲ男、ダミアンに軽蔑の視線を向けている。
彼女の号令が、周囲の人間を黙らせた。
「なぁ、ダミアン。最初からこれが目的だったんだろ。"自分が死ぬ代わりに決闘裁定で私も道連れにする"」
「でもさぁ...甘えんだよ。組織だかマフィアだかの総意だろうが、一つ目お化けはそんなんじゃ殺すことはできない」
「特にテメェみてぇな豚野郎にはな」
「...何が言いたい?」
「...」
「拳銃よりも鬼を連れて来いってことだよ」
「「____________」」
『________撃て』
「▅▅▅▅派手に行くぜ▅▅▅▅」
ダッダンダンダンッ______!!
刹那、私は4発の弾丸で奴を蜂の巣にしてやった。
その豚野郎は叫び声も上げずに絶句の表情で私を眺めた後、汚れた血をだらしなく垂らしながら地面に倒れた。
即死だ。2発目で脳を貫通している。
「「「...」」」
周囲の沈黙はもっと静かになった。
当然だ。
今度はその4発の弾丸が自分に返ってくることになるからだ。
シルベニアは少し眉をひそめた後、手元のルーレットを4回回して私の撃ち抜く部位を決めた。
生存確率6分の4、すなわち3分の2。
『...撃ち抜く部位が確定しました。各自射撃用意』
心臓の鼓動が速まる。
変な汗もこめかみを伝った。きっとアドレナリンも混じってるに違いない。
ああ、これって...これこそが...
「______最高のギャンブルだ」
『▅▅▅撃て▅▅▅』
バシュッ バッ ジュッ ガシュッ______ッッ!!
「__________」
体が地面に落ちる。
何かに弾かれて脱力していく感覚だ。
最早どこを撃たれたのかすら把握できない。
...あれ。でも視界が消えていない。
呼吸も思い通りとは行かないものの、確かにできている。
『裁定結果が出ました。勝者はクロズコップ』
『これにて裁定を終了とします』
辺りから拍手が聞こえてくる。
多分猫と...あとは誰かわからない。シルベニアのはずは無い。
まぁ...どうでもいいか。
私、勝ったんだから。
「...はは...っ...」
「...ギャンブル...最高...」




