お貴族様はご遠慮願います。
初投稿です。
貴族学校に平民が特待生として在籍するってどんな状況か想像してみました。
ノリと勢い任せのご都合主義なコメディです。
その日、貴族学園の食堂にそぐわぬ大声が響き渡った。
「もう!ほんっっっとうにいい加減にしてほしいんですけど!!」
お貴族様たちが通う学園に相応しいとか相応しくないとか、そんなのもう知ったもんか!とアリーシャは全力で声を出した。
下町の大衆食堂の給仕仕事で鍛えた声帯はいい仕事をしてくれた。
食堂中の注目を集めたが、そんなことは今更だ。
アリーシャはいつだって注目の的だった。
非常に不本意ながら、悪い意味で。
だったらいっそ全員に聞かせてやろうと声を張り上げたので目論見は大成功だ。
ともあれ食堂中に響き渡る大音量を目の前で聞かされた相手は盛大に顔をしかめていたので、ついでの嫌がらせも大成功だろう。
いつものすまし顔を崩せてちょっとだけ気が晴れる。
まあそれはそれ、言いたいこととは別なので当初の予定通り遠慮はしない。
「何度も何度も何度も!うんざりするほど!言ってますが!わたしはお貴族様の世界に興味はありません!!」
全身全霊の叫びに食堂の大半が目を丸くした。
今までの一生懸命礼儀を守ろうとしたお上品な態度では、何度説明しても伝わらなかったことがやっと脳に届いたのかしら、とフリーズする周囲の様子に思わず舌打ちが出る。
その小さな音に大げさなほど身を揺らす令嬢たちの小心さに、ほんの少しだけ冷静さを取り戻した。
大人数で寄ってたかって取り囲むのは小心者の証だ。
こちとら下町育ち、荒事なんか見慣れてるし女同士タイマン張って引っぱたきあったことだってある。
オジョウサマの威嚇は権力のある脅迫であって恫喝ではない。
しょせん他人任せのそれに簡単にひるむほどか弱くもない。
が、しかし一庶民に権力に逆らう術はないので今まで反論はすれど反撃はせず。
一生懸命我慢してきたけども、そろそろ一か月経つとなればそれほど気の長い方ではないアリーシャは限界だった。
「いいですか、わたしはこの学園には推薦という名の脅迫もどきで編入させられただけなんです。別に来たくて来たわけじゃありません!お上品でインケンなお貴族様の仲間になれるとも思いません!」
仕方なくちょっとだけ声量を落としたけど、きっちり食堂中に伝わるように腹の底から声を出すことはやめない。
元凶はもちろん、この機会に傍観者たちにもはっきり言い含めておきたい。
わたしは貴族社会に興味はない!
あとずっと我慢してた本音言いたい!
不満とか愚痴とか嫌味とか文句とか悪態とか!色々ぶちまけたい!
「そもそもお貴族様に人気のお美しいお顔?いや有望株だっけ?の人たちって、正直ひょろ長くて頼りなさそうと言うか、ぶっちゃけると趣味じゃないです。わたしは南部学校の騎士養成コースに通う愛しの幼なじみと将来を誓い合ってますので!浮気するつもりはありません!貴族の一夫多妻だの愛人制度だの、まっぴらごめんです!」
わたしは一途なのだ、幼い頃から幼なじみ一筋である。
彼にちょっかいかけてきた横やり女とは散々やりあって勝利し、今や大切な親友だ。
そんなちょっぴりやんちゃなわたしを、力強く支えてくれたり力づくで止めたりほほえまし気に見守ってくれる幼なじみにメロメロのわたしが、貴族のお坊ちゃんに目移りするはずがないのだ!
といった本音を真剣に語っていたら心なしか周りとの物理的距離が開いた気がする。
なぜだ、こんなに素敵なラブロマンスだというのに。
「いやだから声が大きいんだよ、じゃなくて、ええと色々聞きたいことはあるけどさぁ、俺が一番気になったのは脅迫もどき?編入させれらたってどういうことぉ?」
ぬ、でたな元凶その三。
勘違い軽薄男と、話を聞かないその婚約者よりも、よほどたちが悪い愉快犯め!
この男が助けるどころか煽ったせいで収拾がつかなくなったのだから、むしろこいつこそが戦犯だ。
自分が一部の界隈から人気があるからって調子に乗りやがって!
狡猾ぶってるけど張りぼてバレバレなんだからな。
あといい歳した男が語尾伸ばすな。
人気界隈以外からは痛々しいお子ちゃまだと思われてること、そろそろ気付いた方がいいよ。
手遅れかもしんないけど。
「ん、どしたの、変な顔して。まぁいつも気持ち悪いにやけ面だしあんま変わんないか」
「きもっ……!?」
あれ、何かますます変な顔で固まった。
まあいいか、途中で茶々入れられる心配しなくていいし。
「えーと編入の話だっけ?どっから説明すればいいのかな……」
今まで頑張ってきたわたしの説明が、マジで全くちっとも伝わってない気がしたので、本当にイチから話すことにした。
そもそもわたしは、北部王都学園に通っていたのだ。
王都には貴族御用達の中央貴族学園の他に、東西南北に分けられた五つの学園が存在する。
領地運営や行政を中心とした中央貴族、経営や会計など経済学に特化した東部、法律から地学まで専門的な分野を修得するための西部、加護を持つ者だけを集めた南部、そして庶民も通える基礎教育のための北部学園である。
下町育ちのド庶民なアリーシャは悩むまでもなく北部一択だ。
基礎教育で十分な上に、そんなにお金もない。
ちなみに北部は内容が難しくないから子供でも通えるけど、卒業資格も年齢制限も在籍期限もないし、ここだけは別の学園と掛け持ちができるんで、ぶっちゃけ学費さえ払えば死ぬまで通い続けられる。
え、なんで掛け持ちするか?
そりゃ北部は他と違って、国の識字率の向上とか治安改善とか?そういうのを目当てに作られた場所だからでしょ。
だから頑張って下働きとかでお金を貯めてから通学する大人もいるし、お金があっても元々の仕事が忙しくて勉強を優先できない人とかも結構いる。
そういう人は来てもムダだからバイバイ、じゃ意味がない。
なので北部はかなり小さな子供からオッサンまでとにかく年齢層が広い。
そんなわけで特に商家の関係者が、人脈作りやら人材確保やら情報収集やら?まあそんないろいろ目当てで、人が集まる場を有効利用しようと掛け持ちしてでも延々と在籍するのだ。
と、本人に教えてもらった。
あの人らにとって超長期在籍はムダ金じゃなく必要経費らしい。
そもそもお金に困ってない人らにとって北部の学費とかはした金だろうしね。
あんたらの家もやってんじゃない?
いやお貴族様本人は来ないよ、使用人とかさ、派遣していそうだなって話ね。
完全に話がそれた。
まあとにかく、わたしは十二から北部に通っていた。
んでなるべく多くの人に通ってほしいから、成績が良かったら補助金が出るっていう素敵な学則がある。
まあみんな目指すよね。
さっき言ってた居残り組はともかく、真面目に頑張れば費用が浮くなら、生活に直接影響する庶民ほど頑張ってみるでしょ。
当然わたしもめちゃくちゃ頑張りましたとも。
おかげで上位十番内に入れるくらいには優秀だとわかって、将来の仕事をいろいろ夢見るくらいには浮かれた時期もあった。
そんなこんなで、三年。
ウチの国では全国民の義務である十五歳の春の恒例行事がありました。
そう、潜在能力診断と加護の託宣ね。
そろそろ一通り習ったし離籍するかーってなってた頃だったから、ちょうどいいし今後の目安にさせてもらおう!とちょっとドキドキしながらも、気楽~な感じで参加した。
そしたらさー、潜在能力が知力方面で高適性かつ『治癒』の加護持ちだったわけよ。
まぁビックリだよね!
いや、驚かれるのは予想してたけど知らんかった人めちゃめちゃ多いね!?
余計なお世話かもだけど、お貴族様なのに情報収集、大丈夫?
うん、あっちの辺はやっぱり知っててちょっかい出してきてた感じだね。
絶っっっ対に!お前らには取り込まれてやらんけどな!
えーとそんで……あ、先に言っとくけど今までのもこれからの説明も別に自慢じゃないから。
単純に事実だけ聞いて。
そんで、まずは加護能力の制御と育成と研究のために作られた南部学園へ移動した。
そこでの勉強も楽しかった。
北部より高度で専門的な学びも、治癒の力が向上していくのがわかるのも楽しかった。
これはあくまで私個人の感想だ。
そもそも加護は国民全員に与えられるわけではない上に、能力の種類も強弱も個々で異なる。
珍しい能力でも出力極小とか。
しょぼい能力なのに何かすごい結果出したとか。
実際に試してみないとわからないことだらけである。
そんな中で、アリーシャは治癒という超有用な能力な上に、適性的にもわかりやすーく優秀だと国に把握された。
しかも本人の意欲も高く、治癒能力の向上度合いも実際に優秀。
本人の知らぬうちに囲いたい者が増産される一方だった。
「そうしてわたしの知らないところで取り合いが起きて、収拾がつかなくなって、でも国から出たり抜け駆けされたりできないように、時間稼ぎを兼ねて中央貴族学園へ編入させられました」
加護能力の管理のための学園なので南部は学費、諸経費は全面免除される。
成績や能力の優劣で分類できないので、完璧な制御を覚え、情報収集へ協力すれば、どんなに能力がしょぼかろうと金銭面は国が支援してくれる。
ただし不真面目が過ぎたり危険思想だったりなど、問題が大きすぎると免除対象外として支払い義務が生まれる。
ちなみに超高い。
高学費の貴族学院よりさらに高い。
専門知識を学ぶための専門指導員、資料、教材、施設、警備、場合によっては衣食住。
国の最高機密と同等の場だ。
惜しみない費用がつぎ込まれている学園の学費など、一介の裕福な商人どころか下位貴族でも太刀打ちできない。
それを払えと言うのだ。
突然来たお偉いさん達は、今後のためにお貴族様たちと面識と交流がある方がいいので、次の春から貴族学園に通えと。
断るなら重大な問題行動とみなし、すぐさま支援を停止すると。
これが脅迫じゃないとでも?
わたしの知らんところで!
わたしの意思など気にせず!
勝手に争って勝手に決めて強引に押し付けて反抗するな?
こちとら生まれた時から鳥のヒナのように忠心をすりこまれてるお貴族様じゃないんでムリでーす!
と言っても生きていけないどころか、死んだとしても周りに迷惑かかるレベルの圧迫だったから、ひとまず編入はした。
だからって反発心が消えるわけではない。
わたしが頑張ってきたのは同じ庶民のためだ。
お貴族様のように専属の医者も、気軽に行ける治癒院もない、自分たちで工夫しながらケガや病と闘う下町の皆のためだ。
治癒の能力を極めて、貧しい人たちが健康に過ごすための施療院を作りたくて頑張ってきたのだ。
それなのに今だって優遇されてるお貴族様のお囲いになれと?
ぜっっっっったいにイヤだね!!
知ってて絡んでくる奴も、なーーーんも知らんで見当違いに絡んでくる奴も全員お断りです!
むしろますますお貴族様嫌いになったね!
おめでとう、偉い人!!
「ということで今度こそお分かり頂けたでしょうか。わたしはあちらにいらっしゃる、当事情とは無関係な、非常に軽薄なだけの、顔だけの男性には微塵も興味がありません。ご婚約者様は今後も苦労なさるでしょう。僭越ながら遠くよりご健闘をお祈りしております」
慇懃無礼なんのその。
アリーシャはこの貴族学園で初めて心からの笑顔を浮かべた。
本当にこの学園内に興味がなかったんだな、とまざまざと感じるほど、普段とは笑顔の質が違った。
にっこりと表現できるアリーシャの可愛らしい笑い方は、下町でも北部、南部学園でも人気だったが、貴族学園に編入が決まってからは愛しの幼なじみにしか向けることができなくなっていた。
それほど貴族学園での生活に喜びがなかった。
なお今はやっとハッキリ言えてうれしいな!スッキリした!と顔に書いてある。
隠す気ゼロ、全開である。
周囲の引きつり顔など目に入らんというより、入ってるけど砂粒ほども気にならない。
しかし一種のハイ状態だった苛立ちも興奮も爽快感もおさまると、後に残るのは事実のみ。
断じて後悔などではない。
空腹であるという本能一強だ。
なぜ昼時の食堂でこんな大演説が起こったのか想像に易い。
ここのところ毎食事時間に邪魔をされ続けていて、少しずつアリーシャの食事量は不足してきていた。
そこにきて本日ついに、昼食をひっくり返されるという分かりやすい嫌がらせを受けた。
アリーシャは食べ物を大事にする根っからの庶民だ。
後先よりも簡単にブチ切れた。
それだけのことである。
取り合えず大体の言いたいことは言えたので、他はひとまず放置で昼食の再入手しようと思ったアリーシャはしかしすぐに固まった。
すぐそばにはひっくり返された最初のトレイ。
食器も一口も食べれなかった中身もぐっちゃぐちゃに散乱しているのだ。
ついでに足元が少し冷たい。
自分の着替えなど当然後回しだが、この状態まで放置していいものか、直接の原因は自分ではなくとも元食堂勤めとしては気が咎める。
床を見て固まっていたアリーシャに気が付いて、周囲もつられて固まった。
不意に、汚い、早く片付けろ、清掃員はまだか、だけで済ませてはいけないのかもしれない、と一部の人間は考えた。
なぜいけないのかまでは、まだ分からない。
しかし考えるようになっただけでも確かに変化は起きていた。
実際に食堂中が沈黙していたのはほんの数秒だけだ。
その数秒で空気を読んで待機していた数人の食堂従業員が静かに近づき、そっとアリーシャに移動を促した。
「お嬢様、あちらに代わりの食事と席を用意しております。ここは私共が片付けますので、どうぞごゆっくりお食事ください」
悔しげに、そして申し訳なさそうに従業員を見たアリーシャの視線を受けた従業員は、かすかに笑みを浮かべて小さく首を振った。
アリーシャは眉尻を下げたままぺこりとお辞儀をして、そっと席を離れる。
向かった先で待機していた別の従業員がアリーシャを案内したのは、すぐ近くに従業員用の出入り口がある食堂の隅の席だった。
人の出入りが気になり、また従業員の目にもつきやすいため嫌厭されがちで、普段はあまり使用されない場所だ。
逆に周囲から距離をおきたい一部の人種にはそこそこ人気がある。
今さら人目を気にするどころか常に注目の的のアリーシャにとっても、安心できる位置だった。
人が集まれば一つ一つの声が小さくとも賑やかになるものだが、お上品な貴族学園ではそれすら控えめだ。
食器の物音にも気を配る上級階級の優雅さが、賑やかだった下町との違いを浮き彫りにし、喧騒に慣れ親しんだアリーシャには落ち着かないことこの上なかった。
帰りたい、と何度思ったことか。
興奮が治まるにつれ頭に浮かぶのはそればかり。
鬱々とした気分でアリーシャが案内された席に着こうとした時、従業員用の扉が開かれた。
反射的に皆が視線を向けた先にいたのは一人の青年だった。
青年は一斉に向けられた視線に僅かに目を見張ったが、落ち着いた様子で食堂を見まわし、すぐ傍の席へ腰を下ろそうとした姿勢で固まったアリーシャに気が付いて足を向けた。
周囲の怪訝な視線をはねのけ足音少なく機敏にアリーシャの目の前に立つと、呆然と目を見開く彼女へ小さく笑いかけた。
「おまたせ、アリー。遅くなってごめんな」
青年の柔らかな呼びかけを耳にした瞬間、アリーシャは跳ね上がるように青年へ抱き着いていた。
アリーシャよりも頭半分以上背が高く、鍛えているとわかる体付きと身のこなしの青年は、慣れた様子で危なげなく少女を受け止めて宥めるように背を叩いている。
優しい手つきに後押しされたようにアリーシャの目から涙があふれた。
「ロイィ……会いたかったよぉぉ」
隠しもせずに涙をこぼし、ロイと呼ばれた青年にしがみつくアリーシャに周囲は呆然とした。
あれだけ嫌がらせを受けていたのに、彼女が泣いたのは初めてだった。
それなのに知り合いと思しき青年が現れただけで堰を切ったように涙を流している。
特別なのだと全身で表しているようだった。
「うん、ごめんな。これからは一緒にいられるぞ」
ぐすぐすと鼻を鳴らしていたアリーシャは、三拍おいてべしょべしょに濡れた顔を上げた。
可愛くない顔を見せたくないとか言ってられない。
「これから一緒って、え、どういうこと……?」
アリーシャは特例としてお貴族様たちの学校に無理やり放り込まれたが、本来はその名の通り貴族以外は通えない。
そうでなければアリーシャがロイと離れる道を選ぶわけがない。
青年は慣れた様子でハンカチを取り出してアリーシャの顔を優しく拭きつつ、どう答えるか考えるように一瞬目を伏せると、穏やかに説明する。
「うん、それな、まあ簡単に言うとアリーの護衛になった。生徒じゃないから在籍ルールが異なる。それで護衛だからずっと一緒にいることが一番大事。わかった?」
あきらかに色々すっ飛ばした返答に困惑する周囲をよそに、最後の一文を聞いたアリーシャは、途中の色々はどうでもいいです!と言わんばかりの輝くような笑顔で何度も頷いて「わかったぁ!」と子供のように答えながら再び抱き着いた。
アリーシャにとって色々の部分は後から聞ける。
大事なことは今ロイがここにいること。
この後はどうなのかということ。
彼は近道は活用しても、周りに見咎められるような抜け道を使って既成事実のゴリ押しなんてことはしない。
最短のルートで然るべき結果と許可をもらい、正規でここへ来ているのだろう。
そのロイがずっと一緒にいることが一番大事だというのだから、これからはずっと一緒なのだ。
なんて幸せなんだろう!
ここ一か月の苦悩が全て吹き飛んだようにアリーシャの心身は急激に回復した。
実はアリーシャの治癒能力は自身にも適応できる。
近頃まったく発動させられず徐々に心身ともに弱っていていたが、それは治癒の発動条件のせいだった。
『能力者本人の強い要求があること。あるいは能力者本人が幸福感を抱いたとき周囲に恩恵が与えられる』
アリーシャが相手を癒したいと真実考えたときに相手を癒し。
またはアリーシャが幸せだと感じた時に、自身を含めた周囲に治癒の力が伝わる。
歴代の中でも強い治癒力を持つアリーシャは、その分とても扱いにくい性質をもっていた。
勿論、個人の発動条件や能力値といった個人の詳細な情報は南学園内部で厳重に秘匿されているので、外部には知られていない。
詳細は秘匿されていても、アリーシャのように目立つ人物は目を付けられてしまう。
引き抜き行為そのものは定期的に行われていた。
過去には快諾する能力者もおり、無理強いでなければ決して悪行ではない。
アリーシャの場合は本人が望まない上に、規模が大きくなり過ぎたため収拾がつかなくなったタイプだ。
発動条件的にも性格的にも、アリーシャと貴族社会は馴染まない。
まあつまり、強制的にこの学園に放り込んだ上層部は大前提を間違えていたのだった。
キラキラと本当に光りだしそうな勢いで多幸感を振りまいているアリーシャは、心なしか肌や髪の艶まで増したような回復ぶりを見せている。
ああ自分たちはどこまでも勘違いしていたんだな、と周囲が否応なく実感するには充分だった。
特に最後まで絡み続けていた、アリーシャ曰く元凶一から三は完全に打ちのめされたようにうなだれている。
紛うことなき自業自得だった。
今後は己の視野の狭さを自覚し、周囲を顧みてほしい。
そして出来れば客観的な評価を認識して恥ずかしさにもんどりうってほしいものである。
……と後にアリーシャは語ったとか。
ロイにすりつきながら、アリーシャは今後に思いをはせる。
憂鬱そのものだった学園生活も何とかなりそうだ。
いいことなんて何もなかった貴族学園も、ロイと一緒ならきっと大丈夫。
だって一緒にいるだけで幸せになれるのだから。
ぬふふふ、と年頃の乙女にあるまじき笑い声をもらし、アリーシャは顔を上げる。
聞こえていたロイの苦笑いが目に入り、そんな表情が見れるのも傍にいるからだと嬉しくなってしまう。
わたしは彼がいれば無敵なのだ!
謎の全能感ににんまりし、それをみてますます苦笑いを深めるロイにしっかり抱き着きながら、アリーシャは再びお腹の底から声を張り上げた。
「わたし、相思相愛の恋人と過ごす日々に忙しいただの庶民ですので、お貴族様のお声がけはご遠慮願います!」
ロイは大らかで穏やかだけど、意思が強く根回しも得意な用意周到タイプ。
めちゃわかりやすく好意全開で向かってくるアリーシャが可愛くて仕方ないらしい。
追記。
誤字報告ありがとうございます…!何度見直しても自分では見つからないのは何故でしょうか、ぐぬぬ。
予想外のランキング入りには震えが止まりませんが、たくさんの方に読んで頂けて嬉しいです。ありがとうございます!




