結婚して5年目で夫から「離縁してくれ」と言われました
思い込み強めなヒーローによって起こる物語です。
「すまない、離縁してくれ」
結婚して5年目の今日、夫にそう告げられた。
◆◇◆
私、リヴィアはアルハン伯爵家の長女だ。
昔から、両親みたいな愛し愛される家族を築くことに憧れていた。私は誰かのお姫様になりたかった。
私が17歳になった日、私の婚約者が決まった。10歳年上のマームル侯爵家のギデオン様に決まった。
お互いの家の利益がある契約結婚ではあったけれど、それでも愛を育めると信じていた。
ギデオン様に嫁いだその日
「本日から、よろしくお願いいたします。リヴィアと申します」
「よろしく。俺はギデオンだ」
ギデオン様はそっけなく挨拶をした。歓迎されていないかと不安に思ったがそれも杞憂だった。
その後、ギデオン様と初老のメイド長に案内された部屋には、たくさんのドレスやぬいぐるみ、流行りのお化粧道具などがたくさん用意されていた。
「すごい、素敵…」
私の呟きに
「こちらは全部ギデオン様がご用意されたものなんですよ」
「お、おい、ハンナ…」
「え?そうなんですか?」
私がギデオン様の方を見ると
「あ、うん。喜んでくれたら嬉しい」
「ありがとうございます!とても嬉しいです!」
私は笑顔でそう答えた。
ギデオン様は優しく、かっこよかった。努力家な彼に気がついた時には、私はすっかりギデオン様の虜だった。
子供っぽく思われないように化粧や言動を意識した。侯爵夫人としてのレッスンも必死に受けた。すこしでも、彼の役に立てるように。
すぐに睡眠時間や食事を削る彼にティータイムを提案したり、食べやすいご飯を持って行ったりもした。
結婚してから3年程度が経ったある夜、
「あぁ、なんでギデオン様あんなかっこいいんだろ…。今日もうまく話せなかった。緊張しすぎて固まっちゃうよ。ほんとに好き。でも、好き、って、政略結婚の相手に伝えるのって変だよね。いつか伝わるといいなぁ」
ギデオン様がまだ寝室に戻ってこないことをいいことに夫婦のベッドで自分の枕に抱きついてゴロゴロ悶えていると、
「あらあら」
人の声がして、ギデオン様に聞かれた?と思い焦って振り返ると、
「ハンナかぁ、よかったぁ。なんでここに?…って、今の聞いてた?」
「一応ノックはしたのですが。お水を変えに来たのですよ。ちなみに、私は何も聞いておりません」
「そっか、ありがとう」
「いえいえ、おやすみなさいませ。お気持ち、旦那様に伝わるといいですね」
「って聞いてたんじゃない!!」
「なんのことやら」
そう言ってハンナは寝室から出て行った。
◆◇◆
結婚してから4年半ほどがたったある日、あるパーティーにギデオン様と二人で行ったあとから、ギデオン様の様子がおかしかった。
どうしたの?と聞いても答えてくれないし、どれだけ遅くなっても来てくれる寝室にもこない日が増えた。
「もしかして、私が子供っぽすぎて飽きた?いや、パーティーで誰かに一目惚れした?」
不安だけれども、私の仮定が肯定されるのが怖くて何も言うことができなかった。
そして、ギデオン様とすれ違ったまま半年が経った。
◆◇◆
結婚してから五年目の日の夜、
久しぶりに夫婦の寝室にギデオン様がやってきた。
「ギデオン様!!」
私の喜びの気持ちは次の瞬間萎んでいった。
「すまない、離縁してくれ」
衝撃的な言葉を聞かされた。
え?なんで…?5年経っても子供ができなかったから?私が子供っぽいから?やっぱり、他に好きな人でもできた?
ただ私は口をパクパクすることしかできなかった。どんな言葉も私の口から発せられることはなかった。
「すまない、君の問題じゃないんだ。新しい婚約者を望むなら僕が最大限フォローするし、どこかの領地や家が欲しかったら用意するよ」
そう言って、ギデオン様は一度も私と目を合わせないまま、部屋を出た。
「え…?」
取り残された私はただただ立ちすくんでいた。
◆◇◆ギデオンside◆◇◆
お互いの家のための結婚とはいえ、10歳年下の女の子を嫁として迎え入れた。
彼女が笑顔でに日常を送れるように努力した。最初は「彼女を幸せにしなくてはならない」義務感からだった。
感情がよく顔に出て、可愛らしい彼女に触れていくことで、義務感は、ただ僕が幸せにしてやりたいと言う願望に変わっていった。
親愛だ、妹のような存在だ。何度も自分に言い聞かせたが、どう足掻いても僕は彼女が恋愛的に好きだった。たとえ気持ちが伝えられなくても、彼女と隣にいることが幸せだった。
そんな中、結婚して4年半経った頃に参加したパーティーで、彼女は同い年の少年達と楽しそうに話していた。僕には見せない笑顔だった。
リヴィアに触るな、近寄るなと思ってしまった。それとともに、リヴィアの笑顔を引き出せるのは彼らなのだとも悟った。と言いたかった。
帰りに何を話したか聞いたら、目を逸らして『内緒』と返された。
彼女の幸せを願うなら、僕は身を引くべきだ。
僕と離婚した後、彼女が困らないようにするための準備を口実にして彼女との結婚の期間を引き延ばした。引き延ばしたものの、彼女の顔を見ると決心が揺らぎそうで寝静まったところや、ふとしたところをこっそり眺めることしかできなかった。
結局、僕の決心がついたのはそのパーティーから半年が経った日だった。
部屋に入ると、半年前と変わらない、彼女がいた。
「ギデオン様!!」
やっぱりギリギリまで合わなくてよかった。もうすでに決心が揺らぎそうだ。彼女と目を合わせることもできないまま僕は用意していた言葉を紡ぐ。
「すまない、離縁してくれ」
一思いに言った。
優しい彼女のことだ。自分の方に非があると考えたのかもしれない。離縁は嬉しいが即答で了承はできないと思ったのかもしれない。
「すまない、君の問題じゃないんだ。新しい婚約者を望むなら僕が最大限フォローするし、どこかの領地や家が欲しかったら用意するよ」
僕は結局彼女の瞳を一度も見れぬまま、その場にいて直接離縁の了承を聞くのが怖くて彼女の返答を聞かぬまま逃げるように寝室を去った。
◆◇◆リヴィアside◆◇◆
え、このまま、受け入れる、べきなの?ギデオン様のために…。
私がどうしようかと、半泣きで悩んでいると、
「失礼します」
ハンナの声が聞こえた。
「ハンナ…?」
「暖かい蜂蜜入りのミルクを持ってまいりました。これで心を落ち着かせてください」
そう言ってハンナは私にカップを渡し、さらに言葉を続けた。
「リヴィア様、旦那様は思い込みの強いところがあります。ご自身のお気持ちを率直に伝えるのが吉ですよ。おいぼれの余計な一言ですがね」
「自分の思い…」
私は、ハンナからもらったミルクを飲み干し
「ハンナ、ありがと。私今からギデオン様のところに行って私の気持ち伝えてくる」
「いってらっしゃいませ。先程、執務室へと向かう旦那様とすれ違いましたよ」
「了解、いってきます!」
そうして私はドタバタとギデオン様の執務室へと向かった。
コンコン、とノックをすると
「ハンナか?」
と言う声が帰ってきた。
「いいえ、リヴィアです。お伝えしたいことがあってきました」
少し間があき、ガチャッという音とともに、執務室のドアが開く。弱った顔のギデオン様が出てきた。私は彼としっかり目線を合わせ、
「ギデオン様、私はギデオン様と離縁したくありません」
「な、なんでだ?君はやはり、同世代と一緒にいた方が…」
「いやです。私は、私は、ギデオン様を…愛していますから…」
言った。言っちゃった。初めて口に出した。この思いが否定されても、私はこれで悔いはない。離縁されたとしても…。
「それは、ほんとなのか?リヴィア」
「はい」
「いつも、僕と話す時は、しかめっつらじゃないか」
「緊張しすぎて話せないんです」
「この前のパーティーで同世代の子と仲良く話していたじゃないか」
「え?そんなことありました」
「あったよ」
「え…?あ!!あ、あれは、そ、の…。ギデオン様が褒められていて…嬉しくなってしまって…」
私は恥ずかしさのあまり、語尾を小さくしながら話す。
「な、なんだ、全部僕の杞憂だったのか…」
ギデオン様は何やらホッとした表情で話す。
「ギデオン様、もし、ギデオン様が私のことが嫌いだったり、他の女性が好きだったりする訳でないのであれば、妻としておいてくれませんか…?」
「リヴィアはいいのか?10歳年上の男と結婚したままで。結婚してから5年は経ってしまっているが、リディアはまだ22歳。再婚のチャンスは、これ以降だと…」
本来はやってはいけないが、ギデオン様の口から私の再婚の話を聞きたくなくて、ギデオン様の言葉を遮る。
「私は、ギデオン様以外と結婚するつもりはありません。ギデオン様はどうなのですか?」
「僕は、僕も君以外を妻にする気はない。ただ、君が他の、同世代の男と話している方が幸せならば、離縁した方がいいのかと思って…。僕は好いた女性が他の男と楽しそうに談笑しているのを見逃せるほど心が広くないから…」
「好いた女性…?」
「あ、いや、えっと…」
ギデオン様は大きく深呼吸をした。
「リヴィア、僕は君が好きだよ。愛している。10歳年上の僕だ。君に迷惑をかけることもあるだろう。年上の旦那の醜い嫉妬もあると思う。君がそれでもいいなら、僕の妻として、僕の隣にいて欲しい」
「歳の差なんか関係ありません。私はギデオン様が大好きですから、ずっと隣に置いてください。そして、嫉妬するのは私も同じですよ。お揃いですね」
私は、涙目になりながら満面の笑みで笑う。ギデオン様はそんな私を抱きしめてくれた。
こうして私たちの離縁騒動は幕を閉じた。
◆◇◆
離縁騒動から、5年後。侯爵邸の庭園にて。
シートを引き、座っている私の膝の上で寝る3歳になる娘のオーラリアの髪を撫でていると、トテトテと息子のサイラスが走ってきた。
「お母様、見てください!」
そう言って見せてきたのは、花冠だった。
「あらあら、上手ね」
「お母様につけてもいいですか?」
「えぇ、もちろんよ」
そう言ってサイラスが私の頭に花冠をつけてくれた。
「ありがとう、サイラス」
「ごめん、待たせてしまって」
今日は庭園で家族四人でランチの予定なのだ。
「お父様!!」
「ギデオン様、お仕事は大丈夫ですか?」
「家族のための仕事が家族との時間を邪魔しては元も子もないだろう。そんなことより体は大丈夫か?」
「はい、もう三人目ですもの、慣れたものです」
私の笑みにギデオン様は私の頭を撫でて抱きしめてくれた。
あの時、勇気を出して気持ちを伝えて、本当に良かった。
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