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第14話 下見

二時間ほど経っただろうか。僕はポレと部屋に引きこもって、ひたすら文字を覚えていた。文字は日本の点字のような形をしていて、直線を掛け合わせるだけだったから覚えやすかった。これがふにゃふにゃ曲がった落書きみたいだったら僕は卒倒していただろう。それと喋れるのが助かった。喋れるから文法などは分かるし、これは完全に暗記ものだった。

しばし休憩をとることにした。ポレはその間、ランプやベッドなどの家具や小物を部屋に持ってきてくれた。本当に働き者である。

「これはどこに置きましょう?」

「任せるよ。好きに飾りつけしてくれ」

僕は煙草をふかして窓の外を見ていた。遠くに僕がいた王国の街がうっすらと見える。

この城の彼女たちは王国を知らない。少しは分かるだろうが、それはポレが調べてきた情報だけが頼りだ。ポレは間諜で王国へ行けるが、それも変装をした上でだ。普通に出入りはオルサバトルが許さないだろう。彼女たちの多くは暇に喘いでいる。規律に板挟みにされてどこにも鬱憤を晴らせず、酒や賭博に興じるようになる。彼女たちの気持ちは分からなくもない。それを忠誠心に変えられたら良い。でもまずは彼女たちを囲む厚い灰色の壁を打ち壊してやるべきなのではないか。

僕は煙草の灰を落とした。気づけば吸い殻は山盛りだった。そんな時間がたったのかと、ふり返ってポレの様子を見ると、ポレは大体部屋の飾りを終えていた。

最後の本を棚に入れて終えて、ポレは伸びをした。

「おお、綺麗になったね。ベッドもクッションが良さそうだ。少し休んで……と言いたいところだけど、お願いしていい?」

「なんでしょう?」

「町へ連れてってほしいんだ」

「町へ? なぜです?」

「暇つぶしだよ。就任式にはまだ時間がある」

「しかし、オルサバトルが許しませんよ」

「平気さ。この窓からひとっ飛びすればいい。大丈夫だよ」

「しかし、私は……」

「式が終わったら当分休暇をやるからさ。ね?」

僕がしつこく頼んだ甲斐あって、ポレはようやく頷いてくれた。


窓を開けると風がビュービュー部屋に入ってきた。

ポレは変装用のローブを身にまとった。

僕はポレの背後に周り、そっと抱きしめる。落ちてはいけないからがっしり腕を固定する。男が女にしがみつくのはなかなかに情けないと我ながら思う。

「行きますよ」

「よし」

ポレはためらいもなく窓から飛び降りた。すると体は真っ逆さまに地面へ落ちていく。

「え、ちょっと――」

僕が焦って絶叫しそうになった途端、体にぶつかる風の向きが変わった。地面まであと少しだった。突風が巻き起こり周囲の草の形が変わる。ぐわんぐわんと風の音がうるさい。浮いたと思った瞬間、体は重力を無視して空へ向かっていった。


王国の町に近づいたころ、ポレは速度を抑えて地上に降りた。

「正面は我々の城に面していて、衛兵に怪しまれます。抜け道から行きましょう」

「なるほどね」

僕らは正面に伸びる一本道を外れて歩いた。正面口は石の壁や柵で覆われていたが、少し外れると、寂れた町が現れた。風が舞うと砂埃が舞い、息を吸うと埃っぽい匂いがする。建物も色あせてひびが入っていたり、掛けられた店の看板は曲がっていた。スラム街、と言ったら言い過ぎか。でもあまりいい所じゃないな。

ポレは慣れてるようで、迷うことなく歩を進める。

「ここからだと王国の中心街まで距離がありますね。王国で何をしたいんですが?」

「何かパーッとしたのがいいな。……そうだな、賭博場ってとこかな」

ポレは笑う。

「残念ですが、この辺りでも最近取り締まりが厳しくなってそんなものはありませんよ」

「そうかね……しかし、モグリがある」

「え!?」

ポレは虚を突かれたように目を見開いて、歩くのをやめた。

どうやら図星らしい。やはりポレを連れてきて正解だった。普段偵察に行ってる彼女なら裏の情報にも詳しいはずだ。

「なぜ、そんなところへ?」

「城で遊んでる配下たちがいるだろ?彼女たちに外の世界を見て、遊んでほしいんだ。そうすれば心にあるわだかまりみたいなのが晴れて、仕事にも身が入ると思うんだ」

「ニューたちのことですか……でも、危ないですよ」

「なぜ?」

ポレは真剣な顔で声を潜めて言う。

「この辺りは色々複雑な事情がありましてね、裏で荒くれ者たちが町を支配してるんです。ここは暴力の町と呼ばれているんですよ」

「暴力の町か……」

僕は周囲を見渡した。確かに町の人間をよく見てみると、顔に傷があったり、酒瓶を振りまわしていたり、ガラの悪い奴らが堂々と歩いている。

僕は生唾を飲み込んだ。これから起こる事を想像すると肝が冷える。なにをするかはまだ誰にも言えないが、もしかすると僕はここで死ぬかもしれない。

僕は力なくケタケタと笑い出した。ポレも僕の様子を変に思う。

「どうされましたか?」

「ハハハ……」

ポレの声でふと我に返る。いけない、いけない、現実逃避していた。しかし、まずいな、ポレをどう説得すればいいか……。悩んだ末、一つハッタリを思いついた。

「実は僕はね、この町のボスなんだよ。だから危険とか心配はいらないよ」

さすがに苦しいか……。するとポレはまた驚いてみせた。

「やっぱりそうでしたか!実は私もこの町は裏で一人の人間が糸を引いてると気づいてましたが、エースだったんですね。もう、からかわないでくださいよ!」

よく分からないが奇跡的にポレは納得してくれた。僕もとりあえず笑ってごまかしておいた。

ポレが案内したのはこじんまりとした通りだった。ボロ家が並ぶ中に一つだけ装飾の激しい豪勢な建物があった。扉は鉄製で厳重に閉まっている。表の大きな看板にはランプを並べて文字が描かれている。

「ここがモグリか……」

「いつ見ても壮観な建物ですね。夜は光ってさらに綺麗なんですよ」

僕はポレの言葉など耳に入ってこない。命を懸けた一仕事がここから始まる。


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