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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者は世界を救う気はなく、友人だけを救う気だった

作者: 夜明青

なんちゃって中世ヨーロッパファンタジー設定です





気がついたら、転生していた。

住んでるのは超田舎の村、そしてここは魔法やスキルというものがある不思議な世界。


死んだ記憶はないけど、きっと原因は栄養ドリンクの飲み過ぎだろうなーと思う。

1日2〜8本飲むから箱買いして自宅にも職場にも常備するのは当たり前、それでも足りずコンビニで買う日々だったから。

一応言い訳するなら健康を気にしてノンシュガーにしてたぞ。

健康診断も肝臓以外引っかかったことなかったはず、しかも再検査まではいってないし。だからセーフだし。


まー、そんなこんなでファンタジーの世界に産まれ変わったはずだったんだけど、残念ながら僕は嫌われ者だった。

理由は親が死んでること、髪が黒いことと眼が黒に近い茶色であること。

うるせえ!アジア人だからだよ!日本来いや!って言いたいけど、言ったところで伝わるわけもないので黙ってる。

顔立ちは西洋風になってるのに髪や目の色合いだけは何故か前の日本人のままなのだ。


この世界では髪や瞳が黒というのは魔族を連想させるので不吉、不浄なものとして扱われる。

まだ母が生きてた頃は良かった、母はこの村では唯一治療士のスキルをもっていたから尊重されていたから。

それに母の優しい人柄もあったと思う。


僕が今も生きてるのは亡き母のおかげだ、多分母に恩がある人がこっそりと少ないながらも食料や雑貨をたまに玄関前に置いてくれている。直接会ったことないし見たことないから、勝手にあしながおじさんってアダ名をつけた。


父親もこの村の人間だったらしいが、僕が幼い時に魔物が出た時に誰かを庇って死んだらしい。

また、父も母もどちらも茶髪と金髪に目はグリーンで黒色は持っていなかった。


僕が産まれたあと村長のすすめで、神官がいる隣の隣の村の教会まで行って親子の鑑定までしたらしい。

もしかしたら妖精のイタズラ、取り替えっ子かもしれないからと、教会まで行き鑑定をしたが間違いなく、三人は親子だった。


生きてた頃、母が言ってた。

あの時、何も悪くない貴方の髪の毛を剃って、眼には強い魔法をかけてもらって明るい茶色にみえるようにして協会につれていくとき、本当に悲しかったと。


何が悲しいのか僕にはさっぱり解らなかったけど、母が悲しいというから悲しいものなんだと思う。

僕なら悲しいよりもムカつくとか、惨めな気分になるけどねって言いたかったけど、母の苦しそうな顔をみたら何も言えなかった。


それからすぐに治癒力の使い過ぎで母は死に、僕は六歳で天涯孤独の身となった。

あからさまな迫害は無いが、髪を見せると周りが嫌がるので短く切って布で隠している。


このまま皆のお手伝いをして、多少のお金やパンや肉を貰いながら、そして差し入れを貰って、ホソボソと大人になるまで村で生きていけたらいいなあと考えていた。


まあ、それでも辛いことや、嫌のことは考えたらきりがない、歳が近いフィンには何度か殴られたことがあるし、他の子供にはカビがはえたパンを口に詰め込まれたこともある。

村の大人の手伝いをした時に難癖をつけて報酬を減らされたことあるし他にも沢山ある。

ちょっとした嫌がらせは生活の一部だ。


子供というのは大人よりも残酷で、大人が思うよりもずる賢い。

そして大人は弱い者には徹底的に残酷になれる奴もいる。

あいつらは僕をかばってくれる親や人がいないことを解ってやっている。


そいつらの事や誰も頼れないことそういうことを考えると、どうしようもなく叫びだしたくなるような気分になるけど、どうにもならない事だから仕方ない。



それから暫くたって、16歳になったとき教会でスキルをみてもらうことになった。

僕なんか連れて行って貰えるはずがないと諦めていたけど、もうヨボヨボになった村長が流石にそれは可哀想だと他の子と同じように荷馬車に乗せてくれて隣の隣の村の教会まで行った。

道中、こっちに近寄ってくんな魔族とか、道に落としてやろうと脅されたり、フィンも一緒にいたけどどうせお前はたいしたスキルじゃないさと鼻で笑っていたのはいつも通りだ。


そこからは転生者のお約束。

僕のスキルは勇者だった。

ぶっちゃけ勇者なんてスキルよりも、金か大好きな栄養ドリンクが手に入るスキルが欲しかった。

教会の人々は驚きながら称賛してきた。

そして一緒に来た他の子も大人も、態度が変わった。


教会が勇者がいたと王都へ報せると、教会か村まで使者が迎えにくるとのことだった。

とりあえず村へ一度帰ることにした。


帰りは僕だけ馬車だったが、道が舗装されてないから荷馬車同様にお尻が痛くて痛くてたまらなかった。

ちなみにフィンは豊穣のスキルだった。

農村において豊穣のスキルはとても重宝されるし、大当たりもいいところだ。

これからはこの村で左団扇で暮らせるだろう。


村での皆の態度も勿論変わった。

好意的になる者、へりくだる者、幼い子供ですら先日まで魔族魔族と人のことを馬鹿にしてたのに、今や勇者勇者と目を輝かせながら近寄ってくる。


あ、唯一変わらなかったというか、前のよりも憎しみが増した目でみるようになったのがいた。フィンだ。

お前なんか勇者のワケがない!と周りに人がいても気にせずに言うから僕はホッとした。

実際勇者なんて御大層な肩書きは僕には不釣り合いだと自分が一番解っていたし、それに変わらない人がいることに何だか安心したのだ。


何より勇者になるつもりなんて全く無いしね。

転んだり、木片が指に刺さっただけでも凄く痛いのだ。

勇者になる為の修業?魔族との戦い?

もっと痛いに決まってる。そして絶対面倒だから嫌だ。

そもそもこの村に良い思い出のが少ないし、唯一恩がある〈あしながおじさん〉は誰だか解ってる。


なので王都からの使者が来る前にトンズラすることを決めた。

少ない荷物を鞄にしまい、夜中に自宅へ火を放ち皆がそっちに気を取られてる間に、村長の家の馬小屋へ行って村に1匹しかいない馬を盗む。

そのはずだったんだけど。


何故か馬小屋の前にフィンがいた。

そして僕を睨みながら言う。


「やっと本性を表したな!」


本性もクソも何もないのだが、フィンは僕が勇者だと解っても態度を変えないところに本当に好感が持てる。

だから、フィンにプレゼントをあげることにした。


「んーお前も勇者になればいいじゃん。」


勇者のスキルは分け与える事ができるのだ。

フィンの手を握り、1割ほど力を渡す。

それ以上はフィンの体が持たない、内側から崩壊すると何故か解った。


フィンは突然渡されたスキルに驚いて、どうしていいのか解らない様子だった。

その隙に馬に乗り、


「好きに使えよ!それはお前にやるよ!」


と伝えて、一目散に村から逃げた。




それから町へ向かう途中、勇者のスキルを使いこなせるようにしていき戦うこと以外にも結構便利だということが解った。

髪や目の色を好きな色に変えれるのだ。

なので、金髪碧眼にしておいた。


それからはスキル偽装して豪腕や魔法使い島見せかけて、荷物運びをしたり、馬車の護衛をやったり(勿論安全そうなのを選んで)、とある大きな町に住んでダラダラと暮らしていた。


ある日、町に紙がバラ撒かられた。

この世界の識字率はあまり高くない。こういう町に住んでる人は読めるだろうが、少なくとも僕が産まれた村では読める人のが少なかった。

なお、僕は転生者特典か何なのか習ってもいないのに読めるけど。


ー勇者フィン、魔王討伐の旅へー


紙には実物よりも凛々しく描かれたフィンと、その仲間達だろうか?その人達のイラストとこれから行く場所が書かれていた。


フィン死んじゃうなー。

1割しか分けれてないもんなあ。

フィンが死ぬのはヤダなー。


よし!フィンの先回りしよう!

フィンが向かうであろう場所はわかってるし、最終的には魔族領に行くのだろう。



ただし、一番は僕が怪我しない、痛い目にあわないことをモットーに。

フィンが向かう場所は魔族が多い場所だから、話し合いで解決できたら良いけど。



いや、戦いでも全然余裕で解決できたわ。勇者ってチートスキルだった。

魔族の攻撃は勇者にはあたらない。

壁や天井崩してきたりするのは巻き込まれるけど、それも勇者のスキルのおかげでダメージほぼないし、魔法も物理も魔族の攻撃だと何もダメージない。

これフィンでも、どうにか出来たかもって思って様子を見に行くとフィンは怪我をしていた。


生粋の勇者スキルと分け与えた勇者スキルでは違うのかもしれない。

まあ、いい。

どの魔族にもこれからくる勇者フィンには負けたフリをするか、そもそもいないフリをして通過させること。

怪我くらいは良いけど、治せない怪我はダメって約束して魔王城を目指した。


魔王はちょっと手強かった。

勇者には攻撃が効かないのがわかってるのか直接的な攻撃をしてこず、間接的な攻撃をしてきた。

痛いの嫌だしフィンなんか見捨ててって思ったけど、魔王に苛ついてきたので距離を詰めて軽く顔面パンチしたら相手の顔が後ろになった。

殴った衝撃で首が半回転したみたいだった、こわい。


ただ、さすが魔王、まだ生きてるし自分で頭の位置を戻している。

これまだ続くのかなと思っていると、魔王の方から望みは何だと聞かれた。

いわく、お前の戦いにはやる気が見えないと。


なので、これからくる勇者フィンを殺さないでほしいこと。

他の人はどうでもいいこと。

それを伝えると、魔王は少し考えたあと勇者はお前じゃないのか?その勇者フィンは偽物ではないのか?と聞いてきた。


フィンも勇者スキルもってるよ、僕よりも全然弱いけどねと伝えると魔王は解ったと言って、青緑の液体が入った小さなビンを見せてきた。


コレは魔族と勇者には効かない毒だ。

いまから世界中にコレをばら撒く。

勇者スキル持ちなら死なないからお前の望みは叶う。と言ってきたので、勿論OKした。



それからフィンが魔王城に来る前に世界中にばら撒いたという毒のせいで人がバタバタと死んでいった。


様子を見にいった町も、産まれ育った村にも生きてる人は誰もいなかった。



それでもフィンは一人で魔王城へやってきた。

久々に会えたことに嬉しくなってフィンの前に姿を表すと、苦虫を噛み潰したような顔をし、


「俺が生きてるのは勇者のスキルのおかげか。」


呟くように言って昔はしなかった皮肉な笑い方をした。


僕は丁寧に説明した、フィンでは魔王おろか魔族も倒せないから手伝ったこと。毒でもう人は死に絶えてるから魔王の戦う必要はないこと。


そう聞いたフィンは泣き崩れてしまった。

声を殺して本当に泣いている。


それを慰めようと近づいた僕の胸に、彼は迷う事なく短剣を突き刺した。


「最初から、最初から、こうしていれば。助けなければ。」


短剣は正確に心臓を貫いていて、僕は何だか解らなくなった。

話したいことあるのに。

色々届けてくれてたのは君だったよね。

態度を変えなかったのも君だけ。

なんでそんなに泣いてるの。

解かんないよ。

そのまま暗闇へと意識がのまれていった。




***********


フィンの家は村の中ではかなり裕福なほうだった。

だから、嫌われ者のアイツにも差し入れをすることが出来た。家族には嫌な顔をされていたが、幼いながらも同世代で親を亡くして独りのアイツが魔族扱いされてる事にカワイソウという気持ちがあったし、今考えたら同情心もあったのだろうと思う。


そもそもアイツが魔族なんてフィンは欠片も思ってなかった。教会まで行って調べたと聞いてたのと、人から魔族が産まれるとは思えないからだ。

常に他の人に言われ放しでイライラして殴ったことはあるが、それ以外は常に無愛想な奴だなしか思ってなかった。


だからアイツが勇者のスキル持ちだった時は羨ましくて仕方なかった。

豊穣のスキルは農村でしか使えない、この村から出ても他の村へ行くしか使い道がない。


でも、勇者は違う。

どこへでも行けるし、世界を救える英雄になれる。

それは凄いことなのに、同じ村のアイツが選ばれて自分が選ばれなかったという事実がとても辛く。


あと、周りの変化も気持ち悪かった。

今までアイツを名前ですらよばずに黒と言い毛嫌いしてたのに、今は勇者や勇者様とよんで囃し立てている。


あの晩、アイツの家が燃えてると聞いた時、何故か逃げるつもりなんじゃないかと思って村長の馬小屋へ走った。


そして渡された勇者のスキル。

あれほど欲しがってたスキルなのに、手にした途端スキルの重みに泣きそうになった。

勇者は魔族と戦って世界を救わなくてはいけないのだ。

それは命がけなのをスキルを手にしてから思い知った。


王都からの使者には勇者スキル持ちを確認されたあと、王城へ連れて行かれて厳しい修業にも堪えた。

今代の勇者は弱いと噂されてるのを知っていたが、ただひたすら頑張るしかなかった。


そして、ついに仲間と魔王討伐の旅に出て。

凄く順調だった。驚くほど敵は弱く、もしくは根城とされる場所にいないことも多かった。


そうして順調に進んでいる途中で仲間の一人が倒れ、他の仲間も同時期に倒れた。

宿で仲間の回復を待ってると、町の人もどんどん倒れていっているようだった。


それから10日もたたない間に、仲間も町の人も皆死んでいった。

自分だけが何ともない。

生きてる人を探して、町の色んな所を見たがそこには死体しか無かった。

救いになるのかわからないが、良かったのは皆眠ったように穏やかに死んでいる事だけだった。


それからは一人で魔王城を目指し。

着いた先には悪魔がいた。


あの時、差し入れをしなければ飢えて死んでいたかもしれない。もしくは冬の寒さに耐え切れず死んでいたかもしれない。


俺が皆を殺したのだ。仲間も町の人も産まれ育った村の人も、きっと世界中の人を。

自分の行いが、災いを引き起こしたのだ。

ならば、その始末をつけなくてはならない。


泣いてる俺に近づいてきたアイツの胸に仲間の形見の短剣を思いっきり突き刺した。


アイツは凄く驚いた顔をして、何か言いたげに口をあけたがそれは音になることはなく、不思議そうな顔をしたまま死んでいった。


一部始終をみていた魔王が言った。


「満足したか?」


俺は泣きながら、いいえと答えて短剣で自分の首を切った。


最期にみた魔王はアイツと同じようにまるで解らない物を見るような不思議な顔をしていた。



もうこの世界に勇者はうまれない。












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