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特来  作者: 今木照
守り切れ!主人公の純ケツ!!
45/46

女の涙と言う名のリーサルウェポン。

前回のあらすじ!

主人公、「石塚特人」の住む四畳半の貧乏部屋で相対したのは、特課の上司である「及川」と「江口」!

刹那の激闘の末、勝ったのは及川!

しかし、江口の口から語られた、二人の過去。

それは、二人の過去が戦場にあるという話であった...!

その予想外の過去に、狼狽える特人であったが...?

 2024年8月1日 20時40分


 石塚特人宅にて



「ウチはな、戦場にいた過去なんて捨て去って、ただ笑って暮らしたかったんや。せやから、新しく仲間になったジブンら三人には、ウチらの過去を言うてこんかった。...言うたらきっと、怖がるから。怖がられたら、もうそこに笑顔が、無くなってまうから...。特人は、怖いか?」

「及川......」


 及川が、一瞬だけ下唇を噛んだ。しかし、ものの数秒後には、いつもの表情(カオ)に戻って、俺の方を振り返った。


「...いや、すまんな!柄にもなく暗い話してもうた!柄がないのは無印良品だけにしろっちゅう話よな!」


 そうやって茶化す彼女の瞳は、少し潤んでいたように見えた。

 俺はさっきから少し震えていた拳を強く握って、及川の瞳を正面から見つめ返す。


「...怖ぇよ。」


 及川は俺の言葉を聞くと、一瞬目を丸くしたが、すぐに乾いた笑いを残して俯く。


「...ははっ、せやろな__」

「けど!」


俺は、思わず彼女が顔を上げてしまうくらいの、そんな馬鹿みたいに元気な笑顔を作った。


「けど、その『恐怖』なんてもんがよっぽどちっぽけに見える程、俺はアンタの事を、『カッコイイ』って思うぜ。」


「...!」


 俺は、その台詞の恥ずかしさに目を背けそうになったが、それでも感情を押しつぶして彼女の瞳を見つめ続けた。今ここで目を逸らしてしまったら、この勇気の意味がなくなってしまうと思ったから。

 及川の銀色の瞳が、潤々と揺れ動く。


「まったく、カッコいいコト言えるんじゃないの!特チン!」


 そんな俺達の視線の糸を断ち切るように、横から江口の野次が飛んでくる。

 俺が慌てて横を見ると、そこにはいつの間にか拳銃も拾ってサングラスまで装着し直している、江口の姿があった。

 俺はこのオカマ野郎に、さっきの歯の浮くような台詞を聞かれていた事を知り、さっきまでの振る舞いを猛烈に後悔した。


 しかし、そんな俺の右肩を、ツンツンっと及川が叩いた。

 俺が振り返ろうとすると、その前に彼女の口元が俺の右耳にグイっと寄せられる。及川の顔が、すぐ右肩の上まで近づいてきたのだ。俺の心拍数が途端に速くなったのは、最早言うまでもない。

 そしてそのまま、俺の右耳に、関西訛りの透き通った声が飛びこんでくる。


「嬉しいで、特人。これからも、よろしくな。」


 彼女の声と、吐息が、俺の右耳をくすぐる。

 俺は顔を真っ赤にして、ぎこちなく及川の方を振り向く。


(あ、アレ?及川って、こんなに可愛かったっけ...?)


 俺の視線の先に居た及川は、銀髪のショートボブを弾ませながら、「ははっ」と笑っている。正直、やっぱり彼女が30代だとは思えない。

 俺が気恥ずかしくも彼女の方をチラチラと伺っていると、その視線の先に江口が立ち塞がった。


「もう!特チンはすぐ女の子に靡くんだから!本命はコッチでしょッ!」

「だーれが本命じゃ!俺の本命は、生物学的な女性だけだ!...って、てか!別に及川のことが好きになったとか、そう言うんじゃねーからな!!」


 俺は江口に向かって指を立てて、彼の言葉を否定する。...しかし、俺が指を立てていると言うのに、江口の黒々としたサングラスに自分が反射するせいで、自分が自分に説教しているような錯覚に陥りかける。

 そんなことをしていると、及川が右手の指輪をいじりながら、明るく話しかけてきた。


「それじゃあ、ウチらはぼちぼち未来に帰るで。明日からも、”笑顔で”、よろしくな!」


 俺は少し目線を外し、照れを隠しながら返事をする。


「わーったよ。明日からも、よろしくな。」


 俺が言い終えるとほぼ同タイミング、及川と江口の足元に、青白い光が広がる。そう、()()()()()()の、入口だ。彼女らはここを通って未来へ帰っていく。

 さっきまで暗かった俺の部屋が、その光に照らされてボンヤリと明るくなる。


「ほな、また明日!」

「続きはまた今度ねん!特チン!」


「おう、また明日。」


 俺は右手を挙げて、入口に足を踏み入れる二人に別れを告げる。

 なんだかんだ、二人との、特に及川と、精神的な距離を近づけることができた気がする。


 いや~、良かった良かった。


 ふと、俺の視界の端に、倒れた玄関扉が映った。そしていま見える範囲でも幾つもある、部屋に空いた銃痕と、四等分に切り裂かれた掛け布団。


 うん、まぁ、二人が訳も分からず俺の部屋で暴れただけだから。しょうがないよね。





「...って、あっぶねぇッッ!!!!!!」





 俺は慌てて、二人を時空の裂け目から突き飛ばす。突き飛ばしたはずの二人は、驚異的な体幹で立っていたが。

 危ない、あと一秒でも思い出すのが遅れていたら、この二人は何食わぬ顔で未来へと逃げ切っていただろう。

 俺に動きを妨害された二人は、俺を馬鹿にでもするように(とぼ)けた表情をつくる。


「おい、どうしたん特人。ウチらはもう未来に帰るから_____」

「帰すワケあるかァッ!!いや~危なかったッ!お前がなんか良い雰囲気にしたから忘れかけてたけど、この部屋の損害賠償、マジでどうする気だよオイッ!」


 俺は視界の隅でこの部屋の惨状を再確認する。

 数時間前まで俺の生活に合わせて洗練されていた部屋が、今では小さいハリケーンが通過した後かのようになっている。


 俺はこの後、大家にこっぴどく説教され、貧乏大学生が到底払えないような額の修繕費を請求されることだろう。この未来人共が勝手に暴れたのにも関わらず、俺がその損害を補償するなんて、全く持って割に合わないではないか。


 しかし、目の前の銀髪関西弁女は、予想だにしなかった動きに出る。


「チッ!”良い雰囲気のままサヨナラ作戦”失敗や!江口、早よタイムリープして逃げるで!」

「おい待て待て。いや行かせねぇよ?お前マジでヤバいな。」


 俺は耳と目を疑った。

 さっきまでの及川は、”自分の隠したい過去を抱えている、一人の女性”、みたいな雰囲気だったのに、もう目の前にいる及川は、いつもの性根の腐りきったクソ上司の及川である。

 横にいる江口は別にどちらにも加担する気は無いらしく、ニヤつきながら俺と及川のやり取りを眺めている。

 俺は二人と時空の裂け目の間に立ち、逃げられないようにしながら及川に詰め寄る。


「え、マジで言ってんの?確かにさっきはなんか感動的なシーンで、珍しく綺麗に終わるのかなって思ってたけど、そういう腹積もりだったの?ヤバ、こわ!」

「いや、でもさっきのは良かったで。なんやったけ、『怖いと思う以上に、俺はカッコいいと思う。キリッ!』やったっけ?傑作やったで。」


「お前マジで沈めるぞゴラ。」


 俺はさっきの展開で及川に対して芽生えていた仲間意識を、一旦リセットすることにした。


「っていうか、及川が戦場に居たってこともまさか嘘なの!?」

「いや、アレはホントやで。せやから普通に暴力振るえるけど、どうする?」


「え、倫理観を燃えるゴミの日に出した人?お前本当にさっきまで、『怖いと思われたら、笑顔が無くなる...』とか言ってた奴と同じ人か?」

「同じ人や。ジブン、一回ウチの魅惑の囁きにトキメイてたやろ。ほら、そこどいて損害賠償とかも忘れてくれたら、またアレやったるから。次はASMR的な感じで。」


 及川は世の中を舐め腐ったかのような顔で、当たり前のように提案を持ち掛けてきやがる。

 俺が御曹司か何かなら喜んでその提案を飲むが、生憎ただの貧乏大学生だ。ここで性の誘惑に負けて折れてしまったら、向こう二年は茹でてないパスタで食い繋ぐことになるだろう。

 なので俺は、毅然とした態度で彼女の提案を突っぱねる。


「ふざけんな、ASMRなんかで足りるか。せめて浅草のお風呂屋さんの120分コースくらいの内容でもしてくれなきゃ、割に合わねぇんだよ。」


 横から江口の、「アタシならどんな過激なプレイだって無料でサービスしちゃうわよん!」という声が聞こえてきたが、答えたくもないのでスルーした。

 及川が心底面倒くさそうに、俺に言葉を向ける。


「あんなぁ、特人。ウチが来てへんかったら、今頃ジブンのファーストキスはこのオカマに奪われてんねんぞ?むしろ、ウチは特人の救世主とし感謝されるべきやねん。」

「たしかに及川が来なけりゃ俺のファーストキッスも、下手したら下の方のファーストも持ってかれてたかもしんねぇ。...けどな!それ以上にお前と江口の闘いは色んなものを破壊しつくしてんだよ!!普通に弁償するまで、未来に帰さねぇからな!」


 及川は俺に聞こえるくらいの舌打ちをすると、ふと玄関の方に目を向けた。

 すると、おもむろに人差し指をそちらの方に向け、小さく口を開いた。


「あ、あんなところに___」

「なんだ?UFOでも居るってか?そんなんで俺の注意を逸らせるなんて思ってんじゃねぇぞ!」


「Kカップの現役女子大生が。」

「...!!っぶねェ!!振り向くところだったぜ!残念だったな及川!俺は既に(ep.16にて)その仕掛けをブルーに食らわせらえれてんだよ!」


「...って思ったら大家さんじゃないの?アレ。」

「!?お、大家様!?違うんですマジでこれこの未来人共が__!...って、しまった!いねぇじゃねぇか!」


「今や!お(いとま)するでェ!」

「ごめんねぇ特チン!また今度ぉ~!」


 俺が虚構の大家さんに意識を持ってかれている間に、及川と江口は時空の狭間へと逃げ込んだ。

 俺は何とか奴らを逃すまいと、手を伸ばしたが、その手はどこにも届くことが無く、次第に二人は見えなくなるまで遠くに行ってしまった。

 俺は虚しく伸びきった腕を胸に仕舞うと、布団に身を投げ出して叫んだ。


「あークソ!まじで終わってんなあのクソ未来人上司二人組!ってか大家になんて説明すればいいんだよ!未来人が四畳半の部屋の中で殺し合いしだしたから色々壊れましたってか?いよいよヤベェ奴じゃねぇか。」


 俺は足を器用に使って、掛け布団()()()()()を寄せ集め、それを胸元に寄せて涙で濡らした。


(きっと俺はこの先、あの上司たちにボロ雑巾のように酷使され、ナノハとか言う中二病の面倒を見させられるんだ。しかも俺の方がアイツより給料低いし。...もういいや、何も考えたくない、寝よ。土曜のOLのように、ただひたすら寝よう。今はそれくらいしか、この現実から目を背ける方法が無いんだ...)


 俺は眠りについた。

 扉は外れ、銃痕によってあちこちから差し込む月明かりに照らされながら、寝た。

 その日は夏なのに、何故か体の芯が冷え切っていたという。




 ...しかし、特人は未だ知らない。これが波乱万丈、奇想天外な未来生活の、ほんの入り口にすぎなことを。

 そしてそれが、彼にとって、そして彼を囲む様々な仲間にとっても、一生涯忘れることの出来ない日常になると言うことも、まだ誰も知らないのであった。




 続くッ!!

最後まで読んでくれてありがとうゥ!評価、感想、ビシバシよろしくゥ!!

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