過去なんて黒歴史の更新。
前回のあらすじ!
あと一歩のところで江口の唇が特人のファーストキッスを奪おうという場面!
そんな間一髪のタイミングで特人の部屋に突撃してきたのは、特人の上司であり江口の同僚、及川!
彼女は江口を武力をもってして完全制圧する!
しかし、その闘い、いや、殺し合いをみた特人の心境は、決して穏やかなものではなく...?
西暦2024年 8月1日 20時30分頃
千葉県 石塚特人宅にて...
「ちょ、ちょちょちょ!オイィィ!!何してくれちゃってんの!?俺の、ち・ん・た・い の家で、何大暴れしてくれちゃってんのォォッッ!?」
俺は畳の床に倒れこんでいる江口と、その江口の首元に刀を押し付けている及川に向かって、ありったけの大声でキレた。
そりゃそうだ。この二人は賃貸であるこの家で文字通り大暴れしやがった。
及川が玄関扉を蹴り破りやがり、江口が拳銃をぶっ放して風穴を開けまくりやがり、最後は及川が、俺が小5から使っている黄ばんだ掛け布団を綺麗に四等分に切り裂きやがった。
というか、問題はそこだけじゃあない。
(この二人、マジでなんなんだ...!確かに江口は俺のケ〇穴をロックオンしてきた超危険ホ〇野郎だが、それにしても及川もキレすぎって言うか、何で二人共話し合いもせずに最初から武器を取り出して戦うんだよ!コイツら普通じゃないと思ってたけど、マジでイカレてやがる...!!)
俺は正直、目の前の二人がどういう思考回路で動いているのか理解できない。
故に、初めてこの二人が『恐い』と思った。
と、俺が目の前の異常者二人にドン引いていると、及川が若干苛立ったような声色で、江口に刀を突き付けたまま口を開いた。
「江口ィ、この狭い空間で、拳銃がウチみたいな刀相手に勝てるとでも思うたんか?」
及川が、江口の手から離れて部屋の隅に転がっている拳銃の方を眺めた。
すると今度は、江口が笑いながら口を開ける。しかし、その顔はとても笑っているようには見えなかった。
「ははッ。例え空間的に飛び道具の方が不利だとしても、フツーはアタシの弾を生身で避けられる人間なんて居ないのよ?アンタの『神経同調』が異常なだけよ。」
二人が当たり前のように命のやり取りをしているこの現状。
その違和感がどうしようもなく気持ち悪く、俺は思わず口を挟んでしまう。
「な、なぁ、アンタらおかしいって...!ただの喧嘩で済むような事を、なんでこんな殺し合いにすんだよ!?江口も銃口を及川の頭に向けてたし、お互い死んでもおかしくなかったんだぞ...!」
すると、俺の存在を久々に認知したかのような顔で、二人がこちらに視線を向けてきた。
俺の言葉に、及川は何だか嫌そうな表情を浮かべ、江口は対照的に口を開けて笑った。
一体どこに笑い所があると言うのだろう...
「フフフッ。そうよねぇ、特チンみたいな人から見れば私たちは、『おかしい』人になるのよねぇ~。...けど、なんでアタシと梅子が、こんなに簡単に命のやり取りができるのか、それは分からないのかしらん?」
江口は押し倒されたまま、顔だけを俺の方に向けて、いつもの口調で話を続けようとする。
いつもの口調、いつもの表情、いつものテンションだったが、彼の目と声はいつもより、ほんの少し暗く感じた。
と、江口が話の続きをしようとした時、及川が視線を床に落としたまま、小さく彼の言葉を遮る。
「...江口、それは特人が知る必要のない話や。そんな身も蓋もオチもない話、誰も笑われへんで。」
及川の刀を握る手が、ギュッと強く握られた。
しかし、江口は彼女の言葉なんか一切気にも留めず、平然と口を開く。
「アタシ達が躊躇なく『殺し合い』ができる、...いや、できてしまう理由はね、アタシ達がずっと、そういう場所に居たからなのよ。」
「おい江口っ。そないな昔話ここでして、どないなんねん。...そんなん全部、終わった話やろッ!」
俺は目の前の二人の、会話にもなっていないやり取りを、ただただ傍観していることしかできなかった。
今の二人の目は、俺が知っている眼じゃなかった。江口の真っ赤な目は恐ろしい程に紅く光り、及川の銀色の瞳は黒色に塗りつぶされたかのように淀んでいた。
そんな二人に、俺は口を挟む勇気もなかったし、権利もなかった。
ただ息を飲んで二人を見ていた俺に、江口は躊躇なく話しを続ける。
「アタシ達がずっと居た場所、そこは命なんて銃弾と同等の価値しかなくて、力が全てだった。正義なんて陳腐なモノも、悪なんて綺麗なモノも、そこには無い。...そう、『戦場』にはね。ただ、殺すか、死ぬかの世界。」
「.......なんで言うんや、アホ。」
江口の口から飛び出した、その「戦場」という言葉は、あまりにも突拍子のない単語で、そしてあまりにも想像に容易い単語であった。
命のやり取りが簡単に行えてしまう人間。そんな奴らが居た場所なんて、自ずと絞られるだろう。
けれど、俺は全く考えていなかった。
目の前にいる二人が、そんな世界に居たなんて信じられなかった。
いつもやる気がなくて、適当を人の形にしたような人間、及川。何を考えてるのか分からないオカマ野郎、江口。
そんなふざけた二人の過去が、そんな場所にあるとは、到底想像ができなかった。
俺は言葉に詰まり、「せ、戦場...」と、間抜けに鸚鵡返しする事しかできない。
そんな俺の目の前で、及川が片膝を立ててスッと立ち上がった。彼女に身動きを封じられていた江口も、「ようやく解放された」とでも言うような顔で、ヌルっと立ち上がる。
江口が部屋の隅っこに転がった拳銃を拾っているのを横目に、及川が右手の人差し指の指輪をイジリながら、少し気まずそうに口を開く。
「あ~その、今聞ぃたことはあの二人、...サキとナノハには秘密で頼むわ。江口はああやってベラベラ喋りよるけど、...ウチはもう、あの過去とは決別したい思うとる。」
「あ、あぁ、分かったよ。別に言わないけどさ...」
俺は、彼女の銀色の瞳に少し狼狽えながら、首を縦に振る。
すると、及川はぎこちなく視線を逸らし、部屋の隅を見つめながら小さく呟いた。
「...やっぱり、怖いか?」
「え?」
俺は思わず聞き返す。
及川から出てきたその問いは、彼女らしくない程、弱々しいものに感じた。
「ウチが、戦場に居た人間だって知って、特人は怖いか?」
「...な、何言ってんだよ、そんなこと...!」
俺は、なるべく動揺が見られないように、なるべく鈍感そうに、いつもの口調で応えようとした。しかし、それでも、俺の声はやっぱり震えていた。
及川の横顔が、少し悲しそうに俯いた。
「ウチはな、もうあんな過去も捨て去って、ただ笑って暮らしたかったんや。せやから、新しく仲間になったジブンら三人には、ウチらの過去を言うてこんかった。...言うたらきっと、怖がるから。怖がられたら、もうそこに笑顔が、無くなってまうから...」
「及川......」
及川が、一瞬だけ下唇を噛んだ。しかし、ものの数秒後には、いつもの表情に戻って、俺の方を振り返った。
「...いや、すまんな!柄にもなく暗い話してもうた!柄がないのはユニクロだけにしろっちゅう話よな!」
そうやって茶化す彼女の瞳は、少し潤んでいたように見えた。
(こういう時、相手がムカつく上司だろうが何だろうが関係ねぇ!女性が悲しんでる時、男が真にするべきことは何だ、石塚特人よ!)
俺はさっきから少し震えていた拳を強く握って、及川の瞳を正面から見つめ返す。
及川は少し驚いたように、銀色の瞳を丸くした。
(男なら、女性の涙の一つくらい、拭いて見せるもんだろッ!!)
続くッ!!
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