お邪魔しますが言えない奴が邪魔。
前回のあらすじィ!!
オカマ上司である江口に、勢いで家まで侵入を許してしまった特人!
江口の類まれなる容姿と甘い言葉に惑わされ、特人はめくるめくR18の薔薇の世界に片足を突っ込みかける!!
全年齢対象の小説ではとても記せない卑猥な世界に突入するかと思われた二人だったが、彼らの接吻の直前、想定外のカチコミが彼らを止めた!
そのカチコんで来た人物とは...
江口の同僚であり、特人の上司!
及川・エクストラデッキ・梅子であった!!
西暦2024年 8月1日
物音がした方は、玄関だった。
そして物音の正体は、何者かが玄関扉を蹴破った音。
可哀想な扉が、無残にも玄関口に倒れている。
そして、扉を蹴破った者の正体が、月明かりに照らされて俺の瞳に映った。
「な、なんで、ここに...!?」
その玄関先に立っていた人物の正体は、我らが上司であり、江口に続く、特課のもう一人の未来人。
そして何より、俺を未来に連れ去った張本人。
そう、あの及川であった。
「そォこまでじゃァァーーッ!!こんのガチホ〇野郎がァッ!!」
彼女は江口に向かってとんでもないセンシティブワードを吐き捨てた。この令和の世にこんな汚ない暴言が許されて良いのだろうか。否、許されていないであろう。
更に、遠慮なんてものは母親のお腹の中に置いてきている及川は、当然の様に土足で俺の部屋に上がり込んできやがる。
「ちょ、ちょちょちょ、ス、ストップ!ストップ及川さん!!ここ日本なの!人様ん家に入るときは靴を脱いで......、っていうか、それ以前に、玄関扉!!何壊しちゃってんの!?ここ賃貸なんですけどッ!」
俺は及川の愚行を食い止めようと、必死に声を荒げて彼女の動きを止めようとする。
...しかし、及川はもう何かのスイッチが入ってしまっているようで、高齢者が運転したプリウス並みに止まることを知らない。
すると、俺の目の前でさっきまでキス顔を晒していた江口が及川に対してアクションを起こした。
彼は腰に手を当てると、目にもとまらぬ速さで何かを取り出したのだ。
彼がオカマ故、腰から取り出すモノなんてR18指定のかかったモノだろうと勝手に肝を冷やしかけたが、彼が取り出したものは俺が考えていたような卑猥な物体ではなかった。
それは、俺の部屋の薄暗い照明に照らされて、重厚感のある黒い光りを反射している物体。
そう。
『拳銃』であった。
俺は生まれて初めて生で見るその男の子のロマンを前に、一瞬眼と心を奪われかけたが、すぐさま危機感と焦燥に駆られて我に返る。
「お、オイ、江口?ま、まさかとは思うが、その拳銃をここでぶっ放したりしねぇよな?一応言っておくけど、日本では銃刀法違反って法律があって___」
俺が江口の横顔に向けて、混乱する頭の中でつなぎ合わせた言葉たちを吐き出す。
しかし、さっきまで俺の事しか見てなかった江口は、今では俺の言葉を聞いても全く動かず、一瞬も目を逸らすことなく及川の方を見つめていた。
その時だった。
「ビリリリッ」
俺の視界の隅に、見慣れない銀色の光が駆け巡り、それと同時に、何かが感電したかのような音が部屋に響いた。
俺は反射的にその光を目で追い、視線を目の前の江口から逸らした。
するとその光の出所は、及川の手からだと言う事が分かった。
...いや、正確には、手ではなかった。
彼女の手には、玄関から差し込んだ光を鋭く反射する『刀』が握られていたのだ。
しかし、俺の視界に一瞬映りこんだ銀色の光は、刀が反射した月明かりなんて柔らかな光じゃあない。
彼女の刀をよぉく見ていると、小さく「ジッ...ジジッ...」と音を鳴らしながら、刀身に銀色の小さな稲妻のようなものが迸っているのが見えた。
アレもきっと未来の武器か何かなのだろうが、今の俺はそんなテクノロジーの進歩に感動している余裕はなかった。
「て、テメェら!いい加減にしろよ!!ここは賃貸なの!ち・ん・た・い!本来なら安全ピンの穴ですらすっごい気にする場所に、そんな破壊専用みたいな道具を持ち込むんじゃねェ!!」
俺はこの身に宿っている全ての勇気(ヤクルト一本分くらい)を振り絞り、銃刀法違反者二人を前に果敢にも反発した。
...しかし、俺は彼らの目を見た瞬間に理解した。
彼らはもう、お互いの事しか見えていない。
人の家を、今この瞬間にでも戦場にしようとしている、イカれた人間達なのだと。
当然、そんな人間に俺のヤクルト一本分の勇気が届くはずもなく、遂にその時は来てしまった。
そう。イカレた二人の開戦の刻が。
その戦いの始まりを告げるゴングは、意外にも静音であった。
それは俺の左耳に届いた、空気を掠めるような、空気を切り裂くような、そんな刹那の反響。
その音の正体が、江口が放った拳銃の音だと気が付いたのは、及川の銀髪に風穴が空いてからだった。
俺はその光景の意味を理解した時、戦慄した。
江口の銃口は、及川の頭にしっかりと向いていた。及川が人間離れした反射神経で頭の位置をずらしていなかったら、今頃風穴が空いていたのは彼女の髪の毛ではなく顔面だっただろう。
つまり、江口は本気で及川の頭を撃ち抜くつもりだったのだ。
江口の持っている拳銃が、未来の技術かなにかは知らないが、バカでかい銃声が響かないのは不幸中の幸いだろう。こんなところで発砲音が鳴り響けば、確実に警察沙汰だ。
......いや、今ここでドンパチやり合っているこの人たちも、一応未来の警察だったなよな、そういえば...。
と、及川はこの至近距離での銃弾を避けたわけだが、江口の凶弾は容赦なく及川に襲い掛かる。
避けた先の及川目がけて、彼は二発、三発と引き金を引いていく。
自分の同僚に対して何の躊躇もなく拳銃をぶっ放せる江口は、相当異常に思えたが、それよりも江口が放った全ての弾を悉く回避し続ける及川の方がよっぽど恐ろしく思えた。
...しかし、及川が避けると言う事は、代わりに俺のかわいいかわいい四畳半の部屋に風穴が空き続けると言うことで、よく見てみると次から次へと俺の部屋に月明かりが差し込む穴が増えていることに気が付いた。
俺は目の前で行われている殺し合いと同じくらい、この部屋の修繕費に恐怖を覚え、何とかこの馬鹿共の戦いを鎮めるべく声を上げようとした。
...上げようとしたのだが。
(この二人の戦闘が速すぎて、とても眼で追えない...!!声を出す瞬間すらないぞ...!)
俺が、至近距離で行われている彼らの戦いを前に怯んでいると、さっきまで防戦一方の様に見えていた及川が、 グンッ と大きく一歩を踏み込んできた。
彼女と江口の距離はおよそ1.5メートル程。
ついに江口が、及川の刀の間合いに入ってしまったのだ。
そして、及川が持つ銀色の稲妻が流れる刀が江口に向いた、その時。
今度は江口が足元にあった俺の掛け布団を足の指で持ち上げ、及川の視界を遮るように空中に放った。
江口は「今が狙い時」とでもいうように素早く掛け布団越しに及川に照準を定めようとした。
しかし次の瞬間、その掛け布団から銀色の電流が、十字を描くように迸った。
そう。俺の掛け布団が、0.5秒にも満たないであろう刹那に、キレイに四等分に切断されたのだ。
「ちょっ...!実家から持ってきたオキニの掛け布団ンンッ!!」
と、俺は思わず叫んだが、叫び終わる頃にはこの戦いの決着はついていた。
俺が叫び始めたころに、江口が二発くらい及川に向かって撃ちこんだが、既にその銃口の先には及川はいなく、彼女は驚異的な跳躍力で部屋の天井スレスレまでジャンプし、その銃弾を回避したのだ。
そして及川がそのまま江口に向かって飛び蹴りを繰り出すと、江口はこのボロアパート中に響き渡るような轟音で倒れ込み、及川が彼の首筋に刀を突きつけた。
そのくらいで俺が叫び終わり、この戦いは決着となった。
蹴破られて倒れている玄関扉、銃弾によってハチの巣にされた俺の四畳半。
そして俺のすぐ横で刀を首筋に突きつけられているオカマ上司と、突きつけている銀髪上司。
このカオスが極まった空間に、何百年ぶりかの静寂が充満した。
続くッ!!
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友達の家にお邪魔する時、ご両親が不在の時は、ペットの猫に「お邪魔すぃまぁす!」って言うようにしてます。