嫌いな奴ほど名前を覚えやすい。
前回のあらすじィ!!
及川による悪夢の説教と減給処分が言い渡された特人とナノハは、命の恩人でもある江口に話しかけられる!
しかし、特人はある事に気が付く。
そう、江口は正真正銘、超ベターなオカマキャラであったのだ!!
ナノハの爆弾発言を何とか回避するために話題を逸らす特人だったが、江口の口から飛び出した名前は聞き覚えのない女性の名前で...?
西暦2324年
特課オフィス内にて...
「...あ、そうだ!あ、あのぉ~、江口さんって、フルネームはなんていうんですか~?」
俺が精一杯ニコニコと笑顔を作りながら様子を伺うと、江口はソファーに背中を預けて、わざとらしく口を尖らせた。
「も~うっ!トクちんったら敬語なんて使わないでよ~ん!梅子には敬語なんて使ってないでしょ~?」
彼の返事は、俺の問いかけに応える内容ではなかった。それと同時に、俺のただでさえぎこちない作り笑顔が、より一層ぎこちなくなる。
俺の中で、一つの疑問が生まれたからだ。
「う、梅子って、誰っすか...?」
思わず、聞き返してしまった。
そう。俺が引っかかったのは、彼の口から飛び出してきた聞き馴染みのない『梅子』という名前。
俺の知り合いに、そんな昭和初期みたいな名前の人物が居ただろうか。
すると江口は、俺の反応にほんの少しだけ驚いた様子で、デスクが並ぶ仕事場に親指をさした。
彼の親指の先には、本来仕事をするための机の上で熱心に音ゲーに取り組んでいる我らが銀髪上司が一人、座っている。
「トクちん、梅子の名前知らなかったのぉ?彼女の本名、『及川・エクストラデッキ・梅子』よぉ?」
その時、頭の中で何かが繋がった音が聞こえた。
(そ、そういえばそうだったァーーッ!アイツの本名、第二話で一回しか聞いたことなかったし、いっつも及川って呼んでたから完全に忘れてたァーッ!!)
俺はあの銀髪未来人がこんなにも大正後期みたいな名前をしていたことを思い出し、意味不明な違和感を抱えながら及川を眺める。
そして及川に視線を向けたまま、俺が彼女相手にタメ口だった訳を話す。
「いやぁ、俺が及川と出会ったのって現代、...つまり2024年の時だったし、その時は及川が俺より年上だって事も知らなかったワケで、その時の流れでずっとタメ口というか...。ま、まぁ俺は常識弁えた『大人』なんで、目上だと思った人にはちゃんと敬語使いますよ!」
と、俺は江口に向き直って、自分が彼女に敬語を使っていないワケが彼女との邂逅にあるという事を話した。
すると何やら、横から俺に突っかかってくる声が聞こえてきた。そう、あのナノハの声だ。
「オイ、じゃあ何でワシの時は初めっからタメ口じゃったんじゃ。一目見た時から下の存在だってか?っていうか、今自分の事大人って言ったなオイ?失禁しながら女子中学生の背に隠れる奴が大人か?ん?」
「...黙ってなさいナノハ。今は大人のお話をしているんだ。っていうかまた俺が聖水出しちゃった時の話したなテメェ。次それ言ったらお前の全身を__」
「なんじゃ?殴りでもする気か?ふふっ、守備力カンストしているワシに手も足も出ないくせになぁ!」
「お前の全身を、舐める。」
俺の紳士的な視線がナノハを舐め回すように揺れ動く。
ナノハの引き攣った顔がいい気味だ。
(まったく、俺が本気で言ってると思ってるのか?...二万までなら出すが。)
と、横に座っているメスガキを大人の余裕で理解らせ、俺は再び江口の方に向き直ろうとした。
その時、俺の視界の隅を紫色の光が走った。
そして次の瞬間、俺の頬に静電気のような微かな衝撃が伝う。
俺は息を飲み、視線だけをゆっくりと横に動かして自分に向けられた人差し指を視認する。
直後聞こえてくる、聞き覚えのある声。
「特人さん、悪趣味な冗談は控えてくださいね?特人さんがナノハちゃんの体を舐め回すくらいなら、私がナノハちゃんの体を舐めつくします。」
俺が顔を真っ青にして振り返ると、そこには笑顔を顔面に貼り付けてコチラに微笑みかけるサキちゃんが立っていた。
普段ならサキちゃんの笑顔ほど栄養価の高い物はないと言って彼女の顔を脳に焼き付けようとするが、今回ばかりは彼女の笑顔があの世の入り口に見えたのですぐに目を逸らす。
「...ホントスミマセンデシタ。」
俺は彼女の『紫電』に撃ち抜かれないよう、礼儀正しく謝罪の言葉を吐く。
「っていうか、ワシの体は結局狙われておるのか...」
横に座っていたナノハは顔を引き攣らせたまま呟いている。
とここで、ようやく江口が口を開いた。
「やっぱりアナタ達見てると飽きないわねぇ~!けど、このままだと話が進まなそうだから、アタシが強引に持ってちゃうわねぇ~。」
そ、そうだった。この話は俺が江口のフルネームを尋ねた所から始まったんだった...。
俺はサキちゃんが人差し指を下げたことを確認し、ずっと胸に詰まってた息を吐き切る。
そして江口に向き直り、彼のアンサーに耳を貸す。
「アタシの本名は『江口・裏側守備表示・日平』よぉ~。」
「おいちょっと待て。...え?ウラガワシュビヒョウジ?」
俺は敬語なんか忘れ、思わず彼のミドルネームを聞き返す。
「いやいやいや...!確かに未来人は皆、ミドルネームに何かしら遊〇王関連の名前が付いてたよ!?けど、ミドルネームが『裏側守備表示』...!?親はどういう神経で子供にそんな名前つけてんの?」
するとここで、さっきまで業務そっちのけで音ゲーに没頭していた及川が小型のイヤホンのようなものを耳から取り外し、椅子を回転させてこちらに顔を向ける。
「『守備表示』って名前はこの時代多いで。『裏側守備表示』と『表側守備表示』で双子に付けるのとかも流行ってるしな。うーん、ジブンらの時代の『はると』とか『りく』みたいな感覚やな。」
「そんな感覚が遊〇王に反映されて堪るか。」
「ちなみにアタシの親は、”リバース効果で一矢報いるような人間になりますように”っていう想いを込めてこの名前にしたらしいわぁ~。」
江口が割り込むように口を挟んでくる。
「いや別に聞いてないし。っていうかどういう想いだそれ。なんで人間にリバース効果の想い込めてるんだよ。自分の子供がリバースポッドにでも見えてんのか。」
俺は未だ理解できない未来の価値観に翻弄されつつ、もうこの話題に深く触れるのはやめようと決意した。
俺はソファーに身を沈ませながら、脳を休ませて深く溜息をつく。
その溜め息が聞こえたのか、江口が仕切り直すように口を開けた。
「ま、今日はみんな疲れたわよねぇ~!」
(主にお前で持ってかれたけどな。)
「ってことで、トクちんとナノちん、あとサキちんも一旦、現代に帰ったらどうかしらん?」
彼の真っ赤な瞳が、サングラス越しに俺達の顔を順に見ていた気がする。
...それにしても、たしかに疲れたな。
この二日間、俺の21年の人生で一番長かった気がする。
まず、未来生活二日目の俺とナノハに下った、謎の大男捜索命令。これが予想外の形で呆気なく見つかり、更にその指名手配犯、いや、ブルーに買収された挙句、俺とナノハは協力までして暴力団を潰した。
何度も死を覚悟したし、最後なんか江口が居なかったら今頃ミンチ状になっていたことだろう。
そして及川から「逃げないように。」という事でこのオフィスに一泊させられ、つい先ほどの大説教。
本当に、濃密というには濃度が高すぎる二日間だった。
俺は疲労がどっと出た顔でサキちゃんとナノハの方に目くばせをし、二人にも帰る意思があるか確認した。
サキちゃんはともかく、ナノハもなんだかんだ相当疲れている様子で、今にもお家に帰りたいと言うような眼でコチラを見つめ返してきた。
俺は現代人3人衆を代表し、江口に向かって口を開く。
「それじゃあ、俺達は現代に帰らせてもらおう。...江口が言うように、疲労困憊で体の節々が痛ぇ。」
横のナノハもコクリと頷き、サキちゃんも同調するように「そうしますか。」と続いた。
すると帰宅モードの俺達に警告を出すように、及川が再び横目でコチラを見てきた。
...特に俺と目を合わせて。
「そんなら今日はお疲れさん。明日も元気に出勤してくるんやで~。...給料が951円になった奴も含めてな~。」
俺はその言葉にカチンときて、ついムキになって彼女に言い返してしまう。
「分かってますよ、『梅子』さん!...あ、そういえば俺の曽祖母ちゃんも同じ名前だったっけなぁ~!」
「おい何が言いたいんやクソガキ。『梅子』って名前はなぁ、この西暦2324年の世界で、今をトキメク超正統派な名前やッ!!」
俺は及川からの反撃が飛んでこないうちにさっさと現代に戻ってしまおうと思い、自分の指輪を確認する。
銀色に輝くシンプルな指輪は、相変わらず俺の人差し指にすっぽりとハマっていた。
こんな小さな指輪型の装置で時間を好きに移動できちゃうんだから、未来のテクノロジーには感服する他ない。
そして自分の意思で時空を超えるのも、これで三回目。流石に馴れてきたもんだ。
俺とナノハとサキちゃんはもう一度お互いに目くばせをし、同時に心の中で叫ぶ。
(元居た現代、西暦2024年の8月1日に戻れッ!!)
次の瞬間、俺の下半身をタイムリープ時特有の浮遊感が包み込んできた。
続くッ!!
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