初対面の会話なんて地雷原
前回のあらすじィ!
警官のくせに指名手配犯と協力してしまった特人とナノハは、及川(上司)にこっぴどく説教をされる!
ナノハは厳しめな説教と減給処分(三か月減給)を言い渡された!
特人は存在否定レベルの説教と減給処分(一年間、月給が秋田県の最低賃金と同額になる)を言い渡された!
そんな彼らに話しかけるのは、事件現場で絶体絶命の窮地から救ってくれた救世主、『江口』!
しかし、彼の喋り方は何かが引っかかる...
西暦2324年
特課オフィス内にて...
今さっき、及川からの悪夢の大説教を喰らったばかりだった俺とナノハに向かって、江口と呼ばれるその男は滑らかに口角を上げた。
「ど~も~。今ご紹介に預かっちゃいました、『さんずい』に『エロ』で、『江口』で~す!ナノちんとはもう何回か会ったことあるけど、トクちんとは騒動の時以来...まだ2回目よねん?あの時はちゃんとした挨拶ができてなかったら、これを機によ・ろ・し・く・ねっ!」
彼(?)はそう言い終えると、俺に向かって投げキッスをしながらウィンクをしてきた。
その時俺は、心の中で何かに気づいてしまった。
...いや、正直、一回目の邂逅から薄々感づいていた。
それは......
(こ、こいつ、...オカマキャラだァァッーー!!)
俺は口の中で叫んだ。その声が決して外に聞こえないように。
このご時世、LGBTQやジェンダーレスなどで、性に関する言及はご法度と言えるだろう。
しかし、それも俺が生活していた令和の基準。
今俺が居るこの場は、現代よりも300年程進んだ超先進世界!
令和の時代であんなにも厳しくなっていたジェンダーの話題は、この遥か未来では、最早死罪に匹敵するレベルの話題になっているかもしれない。
ここで俺が、「オカマじゃねぇかッ!!!!」なんてごく一般的なツッコミをした暁には、この場で首が飛ぶかもしれないのだ。
なので俺は本来ツッコミたい所をギュッと我慢して、心の叫びを口の中だけに抑えている。
実に懸命な判断だと言えよう。
(というか、自己紹介してもらったはいいけど、向こうは特課の上司で既に俺の事は知ってるっぽいし、特に話す事もねぇよなぁ。...下手に喋って地雷踏みたくねぇし。)
と、俺が若干気まずそうに視線を逸らすと、逸らした先でナノハと目が合った。
彼女は「なんじゃ?」とでも言いたげな視線でコチラを見つめ返す。
...そうだ。思い出した。
たしかナノハと江口は面識があった筈だ。
俺はナノハの方に上半身をスライドさせ、そのまま小声で話しかける。
「なぁナノハ、たしかお前、江口と面識あるんだろ...?」
ナノハは俺に近づかれたのが気に食わなかったのか、少し俺から顔を遠ざける。どいつもこいつも失礼な奴しか居ねぇなここは。
しかし、それでもなんだかんだ、ナノハは俺の問いかけに応えてくれるのだが。
「まぁ面識はあるにはあるが、それもこの特課に連れてこられた時の一回だけじゃぞ。こやつ、ワシを飴ちゃんで釣ってこの300年先の未来に送りやがったんじゃ...!」
本当にこんなヤツに知力で負けてるなんて信じたくない。
...いや、今はコイツのアホさに感心している時ではない。
俺は何とかこの気まずい空間を壊してもらおうと、ナノハに話題提供をせがむ。
「ナノハ、何かお前から江口に話しかけてくれよ...!突破口開けてくれたら俺も続くからさァ...」
「なんじゃ?お主、意外と人見知りじゃったのか?江口は見た通りの変人じゃから別に臆することは無いぞ。」
ナノハは俺から江口に話を振らないことを人見知りのせいだと思っているらしい。
全く何も理解していない。俺はちょこっと人より友達が少ないだけで、人見知りとかではない。
ただ、このLGBTQの擬人化のような江口に変に話しかけて、地雷を踏みぬきたくないだけなのだ。
その時、俺が未だに気まずそうにしているのを見兼ねたのか、ナノハが溜め息を吐いた。
そしてそのまま口を開き、江口の方に顔を上げる。
「おい江口よ。」
ナノハは俺の願いを渋々だが聞き入れ、この静かな空間を壊しに繰り出してくれたのだ。
(お!さっすがナノハ~!やっぱりこの子は空気が読める子だねェ~!)
俺はナノハに感心しつつ、彼女の提供する話題に耳を傾ける。
名指しで呼ばれた江口も笑顔のままナノハの方に顔を向ける。
「なぁに?ナノちん?」
ナノハは寸分揺るがぬ真顔で、こう続けた。
「特人が、”なんで江口はそんなありきたりなオカマキャラで行こうと思ったのか?”と聞きたがっておるぞ。」
「......は?」
一瞬の静寂が、この狭い机を囲う。
直後、俺はナノハの方を目をかっ開いて振り返る。おでこに次々と冷や汗が噴き出る感触があった。
(こ、コイツゥーーーーッッ!?地雷を踏みぬくどころか、一回発見した地雷を掘り返して、リフティングし始めちゃったよォッ!!!)
俺はナノハが始めた地雷リフティングを食い止めるため、彼女の肩をガッシリと掴んで指導に入る。
「な、ナノハちゃんッ!?き、君ねェ、このご時世言っていい事といけない事があるよ!?」
「はぁ?だってこんなあからさまなオカマキャラ出てきたら、皆気になってるじゃろ。っていうか、ワシも前から聞きたかったんじゃよなぁ~。江口、あんなコッテコテのオカマ口調で登場したくせに、服装とか髪型とか、普通に男じゃもん。なんか、キャラ付けが中途半端というか、よくそんなんでオカマキャラ売り出せたなって感じ__」
「はぁいストーーープッ!!!ナノハちゃん、一回黙ろうか?このご時世ね、『オカマ』ってワード自体すっごい危険なんだよ?それをこんなポンポン連発されちゃあね、この小説の沽券に関わってくるからね!!」
俺は強引にナノハの口を塞ぎにかかる。
ナノハは俺に口を触られるのが相当嫌なのか、かなり暴れ出したが、それでも俺はこの手を放すつもりはない。
(こんのガキ...!地雷でリフティングするだけじゃ飽き足らず、地雷で無回転シュート打ちやがったッ!こんな地雷シュート、オリヴァー・カーンでも止めれねぇよッ!!)
と、ここで俺は気づいた。
今、大人な俺が一番するべきことは、ナノハの抑制じゃあない!
地雷を悉く爆破されているであろう、江口のフォローだッ!
俺はメンタルカウンセラー顔負けの速度でこの事実に辿り着き、何とか江口の心の傷を癒そうと彼に顔を向ける。
そして咄嗟に単語を頭の中で組み立て、なるべく彼の側に立つような言葉を送った。
「...あ、江口さん!ナノハはこう言ってますけど、俺、全然そんなこと気にしてないので!!...て、てか、俺フツーに暗〇教室の渚君とかもイケるクチっすよ!そーゆーの理解ある方っすから!アハ、アハハハハハっ...」
俺はフォローした。フォローしたつもりだったが。
...結果としてただの性癖発表になってしまったかもしれない。
こんな親にも言えないようなシモの事情を、あのサキちゃんが居る場で公言したくはなかったが、これも全てジェンダー配慮の為だ。性癖発表の一つや二つくらい、安い物だろう。
けれど、やっぱりサキちゃんからの視線が気になった俺は、つい彼女の方をチラリと見てしまう。
彼女の俺を見る視線は、まるで死に際のゴキブリが急に産卵し始めた瞬間を目撃した時のような嫌悪感と拒絶感を感じさせる視線であった。
つまり、いつも通りだ。
その時だった。
この収集のつかなくなった空間に、一人の笑い声がこだましたのは。
俺はビクリと驚き、反射的に声のした方を見る。
そこには、頬杖をついて笑い声を上げている江口が居た。
「ウッフフフフゥ。いいのよぅ、アタシは全く気にしてないからぁ~!ナノちんの疑問には、また今度、答えてアゲルっ!因みに、アタシは鷹岡先生までイケるクチよ~ん。」
江口のあの真っ赤な瞳が、まっすぐにコチラを向いている気がする。
彼の掛けている真っ黒なサングラスのせいで実際は分からないが、そのサングラスの奥から獲物を見定める肉食獣のような圧を感じている。
彼の心がナノハの無回転地雷シュートに爆撃されてズタボロになっていない事には安心したが、今度は俺がこのタフネスオカマに狙われているようだった。
俺は何とか彼から逃げようと、目線を泳がせながら話を逸らせるために頭をフル回転させる。
「...あ、えーーーと、...そうだ!あ、あのぉ~、江口さんって、フルネームはなんていうんですか~?」
俺が精一杯ニコニコと笑顔を作りながら様子を伺うと、江口はソファーに背中を預けて、わざとらしく口を尖らせた。
「も~うっ!トクちんったら敬語なんて使わないでよ~ん!梅子には敬語なんて使ってないでしょ~?」
彼の返事は、俺の問いかけに応える内容ではなかった。それと同時に、俺のただでさえぎこちない作り笑顔が、より一層ぎこちなくなる。
俺の中で、一つの疑問が生まれたからだ。
「う、梅子って、誰っすか...?」
続くッ!!
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