最低賃金と理想は高く在れ。
前回のあらすじィ!
とある騒動が原因で処罰を受けることとなった特人とナノハ!
及川がナノハの処分を告げ、次はいよいよ特人の番...!
しかし、なんと彼女が告げた特人の処分は、『一年間月給951円固定』であった!!
その驚異的な安月給を突き付けられた特人はただ呆然とするが...果たして!?
西暦2324年
特課オフィス内...
「いやいやいやちょっと待て。え、俺の聞き間違いか?月給が、951円?時給じゃなくて?」
俺は未だに現実を受け入れられずに、及川に聞き返した。
しかし、彼女は至って当然かのような顔で、感情の起伏もなく淡々と言葉を返す。
「聞き間違いじゃないなぁ。時給やのうて、月給や。」
俺は唖然とした。
この女はマジのマジで俺の月給を、労基もビックリの超薄給にしようとしてやがるのだ。
俺は暫く唖然としていたが、一秒、また一秒と時計の針が進むにつれ、心の内に怒りが込み上げてくるのを感じていた。
普通の思考回路をしている人間なら、こんな単純かつ理不尽極まりない処分に「ハイ分かりました」なんて納得できないだろう。無論、それは俺もだ。
俺は何とかこのふざけた決定を覆そうと、勢いよく立ち上がって及川に怒鳴りつける。
「おぉい及川ァ!!テンメッ...それは横暴が過ぎるだろッ!なんでナノハの『三ヶ月減給』に対して俺は『一年間月給951円固定』なんだッ!釣り合ってなさすぎる!!林家ぺーとパー子のボキャブラリーくらい釣り合ってねぇよ!...ってかシレっと一発芸も付け加えてたよね?絶対今思いついたよね!?一発芸は上からの指示じゃないよね!?」
「...一発芸も上からの指示や。林家ペーパースタイルでもええぞ。」
「林家ペーパースタイルの一発芸って存在しねぇだろ。」
及川は未だに厳正な表情で俺と向き合っているが、俺はもう彼女の業務的な威圧感に騙されない。ここまで来たらとことん及川に反論する気で行ってやる。
「っていうか、そもそもなんで951円なの?キリ悪くてなんか気持ちワリィし!それだったら1000円で良くねぇ!?」
「951円は秋田県の最低賃金や。流石に日本の最安賃金を下回るのは可哀想やったから、お情けで951円ってトコやな。感謝しぃ。」
「いやそれ時給だよね?なんで秋田県民が一時間で稼ぐ金を俺は一カ月かけて稼がなくちゃなんねぇんだよ!ってか警視庁は東京なんだから東京の最低賃金でいいじゃんッ!!」
「あーもうさっきからゴチャゴチャゴチャゴチャ五月蠅い奴やなァ!言っとくけど、別にジブンのクビ、こっちで切っても良かったんやで?それをな、こーゆー処分でまだ居させてやるって言ってんねやから大人しく従っとけや。それとも何か?ジブンみたいな奴に、特課以上の職場が見つかるとでも思っとるんか?」
「クッ...!」
悔しいが、及川の言う通りだ。
自分で言っていて悲しいが、俺は大した取柄もないただの落第ギリギリ眼鏡大学生。
学生時代に力を入れた事なんてパチンコくらいしかない俺は、きっとこの先就活なんかをしても、ロクな職場に出会えないだろう。...いや、職場に出会えたらまだマシな方か。最悪の場合、親の脛をチュパチュパ吸うだけのクソ製造機ニートになる可能性だってある。
そんな俺の前に向こうから転がってきた、この特課の職。
例え俺がもらえる給料が、秋田県民の最低時給だと同額だとしても、それもあと1年耐えれば良いだけの話...!
今はこの苦汁を何とか飲み込み、特課の仕事を失わないようにすることだけを考えているしかない。
俺は苦渋の選択の末、法に抵触しているであろう驚異の安月給を飲み込むこととした。
及川は俺が反論しなくなったのを見て何かを察したのか、ほんの僅かに微笑んで顔を上げた。
そしてさっきまでの任侠映画のような恐ろしい表情とは打って変わり、今度は余裕を感じさせるような表情で俺とナノハの顔を交互に見渡す。
そのまま彼女はソファーからゆっくり立ち上がると、さっきまでの気迫が嘘のように、及川はいつもの関西弁で悠々と話し始めた。
「ふぅ~。ほなら、これにて説教は終了やな。二人共、処分には納得してくれたようやし?」
本来ならば、「ふざけんなクソアマ。きりたんぽ県の最低賃金で納得するわけねぇだろうが。」と、喚き散らしたいところではあるが、俺はこの職場に在籍することを取った。今回の処分は流石に手痛すぎるが、甘んじて受け入れよう。
俺の横に座っていたナノハも、3カ月の減給を言い渡された時は不服そうにしていたが、俺の驚異的な処分の重さにご満悦の様子で、今ではその小さい体をソファーの上に大胆に投げ出している。
自分より不幸な奴を見ると謎の快感が発生するのは分からなくもないが、不幸側でその現場に居るのは想像以上のストレスだ。
及川は俺達への説教を終え、まるで今日1日の仕事を全てやり終えたかのような充実した顔で自分のデスクにテクテクと戻っていった。
とにかく、今回は俺もナノハも及川から言い渡された処分は受け入れるという結果で落ち着いた。
(まぁ月給951円は頭がおかしいけど、サキちゃんみたいな可愛い子が居る職場なら、本来ボランティアでも働きたいくらいだしな。)
俺は自分を自分で納得させながらサキちゃんの方を目で追う。
すると丁度、サキちゃんはさっきまで飲んでいたティーカップをデスクの上に置いて、こちらに歩みを進めている途中であった。
無事、及川のガン詰め説教から生き延びれた俺への労いの言葉なんかくれるんだろうか。
サキちゃんはさっきまで及川が腰を下ろしていたソファーの横まで歩みを進めると、一旦止まり、俺とナノハの方に向き直った。そしてソファーに腰を下ろすことなく、彼女は立ったまま口を開く。
「及川さんにはこっぴどく怒られちゃいましたね...、あはは...」
サキちゃんは決して俺達を責めるような言葉ではなく、寄り添うような言葉を温かく送ってくれた。
彼女のはにかんだ笑顔には、女神なんて言葉で片付けられない程の神聖さと麗しさが灯っている。
さっきまで説教してきたどこかの銀髪関西弁女も見習ってほしいものだ。
そんな感じで俺はサキちゃんの笑顔に見惚れていると、横に座っていたナノハが溜め息交じりで愚痴を溢す。
「全く、こんなに怒られる羽目になるとは思ってもみなかったぞ...。しかも三か月減給だなんて...はぁ。」
ナノハがそう呟いて疲れたように俯くと、サキちゃんが慌てたようにナノハに向かって声をかける。
「お、落ち込む気持ちも分かります...!ですが実は、私もナノハちゃんの処分を軽くしてあげたくって、色んな人に協力してもらってたんですよ...!」
サキちゃんの言葉にナノハが反応する。
「む、そうだったのか。わざわざすまないな、サキよ...」
「いえいえ!ナノハちゃんの為なら当たり前ですよ!」
俺は感動した。
サキちゃんは職場の仲間の事を思い、見えない所で動いてくれていたのだ。
と、いう事は、もしかして俺のことも...
俺はさっきからナノハの方にしか目を向けないサキちゃんの横顔に、思い切って話しかける。
「も、もしかして、サキちゃんは俺の処分も軽くしようと動き回っててくれてたのかな...?もしそうだったら、まずありがとう。そしてこれから先、サキちゃんに何かあったら俺が絶対に君をまも___」
「あ、特人さんに関しては何もしてないので。っていうか、普通にクビじゃないんですね。」
「__っすよね~。逆にアレで軽くしてもらってたら、元の処分どんだけ重いのって感じだし?秋田県の最低賃金以下って、メキシコとかですかー!なんて、ハハハ...」
俺が傷つきながらも放った渾身のギャグすら一切触れられずに、サキちゃんはすぐに俺から顔を背ける。
そして俺の事なんか無かったかのように、意気揚々とナノハに対して口を開ける。
「...それで話を戻すと、今回ナノハちゃんの処罰を軽くするために一番協力してもらったのが、この方!江口さんです!!」
サキちゃんはわざとらしく身を翻して、左隣にいる人影に手を差し出す。
サキちゃんに手を差し出された人物は、もたれかかっていた窓から背を離し、一歩だけこちらに近づいて来た。特徴的な彼の真っ赤な短髪がサッと揺れる。
そう。その人物こそ、先程まで及川の後ろで静観していた男であり、俺とナノハの命を救った男。
5人目の特課にして、俺達のもう一人の上司、『江口』だった。
彼は真っ黒なサングラスをカチャリと頭の方に掛け直し、俺達の顔を交互に見渡した。
サングラスの奥から出てきた真っ赤な瞳はどこか芸術的でもあり、江口の端整な顔立ちを一段と際立たせている。
そして一通り俺とナノハの顔を見ると、再びサングラスを掛け直し、滑らかに口角を上げて自己紹介を始めた。
「ど~も~。今ご紹介に預かっちゃいました、『さんずい』に『エロ』で、『江口』で~す!ナノちんとはもう何回か会ったことあるけど、トクちんとは騒動の時以来...まだ2回目よねん?あの時はちゃんとした挨拶ができてなかったら、これを機によ・ろ・し・く・ねっ!」
彼(?)はそう言い終えると、俺に向かって投げキッスをしながらウィンクをしてきた。
その時俺は、心の中で何かに気づいてしまった。
...いや、正直、一回目の邂逅から薄々感づいていた。
それは......
(こ、こいつ、...オカマキャラだァァッーー!!)
続くッ!!
最後まで読んでくれてありがとうゥ!評価、感想、ビシバシよろしくゥ!!
僕はバイト先で一向に研修期間が終わらず、一年近く最低賃金で働いていました。




