説教で改善される奴はそもそも説教されない。
前回のあらすじィ!!
狂犬モードのブルーに迫られ絶体絶命だった特人とナノハ!
しかし!そこに現れた救世主は『江口』と名乗る謎の赤髪男!
彼の活躍(?)により何とか命拾いをした二人。
これにて一件落着...か?
西暦2324年
東京都 警視庁内特課オフィスにて...
「よし、まず言い訳があるっちゅう奴が居たら、最初に言え。」
及川はオフィスの奥の方に置かれている来客用ソファーにドシリと腰を下ろし、目の前に置かれた木製の立派な机に白い足を乗せて俺達に告げた。
一方、机を挟んだもう一つのソファーには、委縮した俺とナノハがちょこんと二人並んで座っている。
手前側のデスクスペースでは、サキちゃんがコチラ側の戦々恐々な空気を一切感じさせない優雅さでティーカップに口をつけ、及川の奥には例のブルーを気絶させた、『江口』と名乗る赤髪の男が静かに佇んでいた。
この特課総動員で異質な静寂に包まれた、らしくないオフィスの理由。
察しの良い方ならもう気づいているだろう。
...そう、つまり今は、直属の上司による、俺達二人に対する説教、...いや、処罰の場なのだ。
遡る事一日前...
一応警察官である俺とナノハは、あろうことか指名手配犯だったブルーに買収されて彼に協力し、暴力団潰しの作戦を三人で決行した。
作戦自体は何とか成功を収めたものの、予定外のブルーの暴走により、俺とナノハは絶体絶命の危機に陥る。
しかし、事前に俺達を見張っていた江口によって、間一髪の所を救出され、俺達は生きて帰って来られたのだ。
一見、万事快調かと思われたこの一連の騒動も、上司や上の人間の目には吉報とは映っておらず、『命令無視』に始まり、『多額の損害賠償』、『人目を惹く事態の派手さ』、『危険極まりない現場状況』、そして『警察官と指名手配犯の結託』など、責任問題のパラダイスとしか見られていないらしい。
と、いう訳で、俺とナノハが今及川に詰められている理由は皆さんに理解していただけただろうか。
いつもの俺ならきっと、彼女の警察制服から覗かせたその白い生足に釘付けで、説教を聞くどころじゃないだろう。
しかし生憎、今の俺には、人生においてかなり大切なものが二個かかっている。
まず一つは公務員という食い扶持。そして二つ目は、彼女の生足を拝めるこの環境。
俺はそのどちらも失いたくないので、今回ばかりは下心というモノを完全に押し殺し、彼女の説教を一身に受け止めようと思う。
俺は、言い訳なんて男らしくない事は絶対にしないと心に決め、及川の瞳を捉えたままきっぱりと謝罪することを決心した。
「及川さん、聞いてください。俺に、......いえ、私に、言い訳なんてする権利も、ましてや資格もございません。今回は私とこのナノハの勝手な判断により、特課皆々様を初めとする大勢の方に多大なるご迷惑、ご心配をおかけ致しました。勿論の事、私達は課の定める処罰を受けさせて頂きます。そしてこれからは、誠心誠意、今回の反省を活かし業務を全うしていく所存でござい____」
今、俺の完璧でパーフェクトな謝罪が無事に着地しようというタイミング。
俺はこれまでの21年間、ありとあらゆるところで謝罪を要求され、それに応えてありとあらゆる謝罪を提供してきた男だ。こんな所で見苦しくもがいて自分の品格を落とすような馬鹿な真似はしない。
今回も何とか最善の落としどころを模索し、できる限り評価を維持したまま、この役職から見放されないようにする。それが今の俺の第一目標だ。
そして恐らく、今俺が喋っている謝罪の台詞を言い終わった時、その第一目標は達成される。
あと少し、もうあとほんの少し口を動かせば...
と、その時だった。
ガタッ!!
今、俺の横で、誰かが勢いよく立ち上がった音が聞こえた。
俺は謝罪の台詞を全て言い切れぬまま、全身の動きを硬直させて、目線を震わせながら横に向けた。
そこには案の定、さっきまで俺の横で及川の説教に怯えていたナノハがわなわなと突っ立て居た。
俺の渾身の謝罪文があとコンマ数秒後には言い終わっているであろうこのタイミングで、このロリっ娘は急に立ち上がりやがったのだ。
俺の『嫌な予感メーター』は驚異的な速度で最大値を振り切り、額にポツポツと冷や汗を浮かばせる。
そして無論、その嫌な予感は的中することとなる。
ナノハは顔を赤く紅潮させながら潤んだ瞳を及川に向けて、大きな声で叫び始めた。
「ワシは特人に唆されて協力させられたんじゃ!!だからワシがコイツと同じ処罰を受けるのは納得できん!なぁ及川よ、ワシを信じてくれっ!」
俺は唖然とした。
この中二病野郎はあろうことか、俺に責任を擦り付けて保身に走ろうとしているらしい。
しかし、ここで俺が取り乱したら今まで見せてきた誠意が全て水の泡だ。
俺は何とか現状を立て直すべく、ナノハにだけ聞こえるように小声で耳打ちする。
「な、ナノハ...!お前の不満は分かるけど一旦ここは落ち着け...!俺の陳謝スキルでこの場は丸く収めるから...!」
「うるさい。大学生のくせに小便漏らした奴がっ。」
「...スゥー___」
(...はい、もうこのクソガキ許しません。別にこのメスガキが何を喚こうが俺は構わないよ?けど、サキちゃんが居る場で俺の醜態を晒しやがったからには、もう許さねぇ。)
俺は脊髄反射的にスクッと立ち上がり、ナノハを見下ろして全力で口を開ける。
「おい末期中二病女。俺が漏らしちゃった事は二人だけの秘密って話だったよな?何こんな勢揃いしてる場で言っちゃてるの?何サキちゃんが居る場所で言っちゃてるの!?」
一方、俺が見下した先に居るイカレガールは、生意気なことに大して怯んだ様子もなく俺に反論をし始めた。
「そんな約束した覚えないし。っていうか、あの時お主が小便びちょびちょ状態でワシに擦り寄ってきたから、あの時着てた服捨てたんじゃぞ。後で弁償しろ普通に。」
こんのメスガキ...!
俺はジェンダーレスの名の元に腹パンの4、5発くらいお見舞いしてやろうかとも思ったが、運の悪いことにこのメスガキは守備力がカンストしていやがる。
俺が殴った所で、痛むのは己の拳だけだろう。
俺は殴る代わりにギュッと拳を握りしめ、ナノハに向かって敗北の許されない口撃を開始した。
「い、一回俺の聖水の話は置いておくとして、さっきお前は俺に唆されたとか言ったな?だが、唆したとしても乗ったのはお前の意思だ!だからお前は俺と共犯関係!テメェだけ処罰が軽いだとか、そんな甘い考えが通るわけないだろうが!!」
「じゃ、じゃが、ワシは最初こそブルーの提案に乗ることを拒否していたぞ!お主はただただヤツの提示した報酬に釣られて真っ先にブルーの作戦に加担したが、ワシは違う!その忠誠心の差を適正に評価されるべきじゃ!」
「んだとゴラァ~?そもそも、忠誠心の度合いで処罰が変わるとか、そんな曖昧な基準、許される訳が___」
ドンッ!!!!!!
激しい口論に突入しようかとしていた俺とナノハの間に、突然、雷の如く強烈な衝撃音が響いた。
俺とナノハはピタリと動きを止めて、同じタイミングで、音のした方を振り返る。
その振り返った先には、昭和の任侠映画よろしく恐ろしいほど目の座った顔でコチラを見上げる及川と、彼女が思いっきり振り下ろしたであろう拳がテーブルの上に鎮座していた。
俺とナノハはほぼ同時に唾を飲み込み、目線を泳がせる。
及川は実年齢28歳とは言え、外見が驚異的に若々しく、女子高校生と言っても差し支えない容姿だ。
しかし、彼女の醸し出す『怒』のオーラは異常で、視線を合わせているだけでピリピリと命の危険すら感じてしまう。どんな人生経験を経てきたら、ここまで凶暴性を秘めた圧力を放てるのだろうか...。
そして一瞬にも永遠にも感じられる静寂の後、及川がゆっくりと俺達に語り掛けてきた。
「ジブンら二人共、黙って座り。」
座った。
俺とナノハは、異次元のスムーズさ、そして速度で、元座っていたソファーに着席したのであった。
きっと着席の速度に関するギネス記録があるのなら、今の俺とナノハが1位タイになっている事であろう。
しかし、今はそんな悠長な事を記録している場合じゃない。
のっぺりとした机を挟んだ向こう側に居る及川は、触れる者全てをみじん切りにして火を通すくらいの気迫を纏っていた。
そんな彼女が再び、俺とナノハの目を交互に確認して重々しく口を開ける。
「そんで、『言い訳なんてなかった』ってことでええよな?二人共。」
俺とナノハは「コクッコクッ!」と、首が取れんばかりの勢いで首を縦に振る。
ここで言い訳があるなんて抜かせる人間は、危機察知能力が欠如した人間か某ひろゆきくらいしか存在しないだろう。
そして俺達の全力の首振りを見た及川は、静かに続ける。
「ほなら、ジブンらのしでかした事、挙げてこか?」
江口と名乗る赤髪の男は相変わらず及川の後ろで静観しており、サキちゃんはさっきからナノハのことが心配なのか、彼女の事ばかり目で追っている。
...俺は今になってやっと理解した。
俺が本当に失うことを恐れるべきなのは、職や魅惑的な環境なんかではないということに。
本当に失うことを避けるべきなのは、この『命』なのかもしれない...
続くッ!!
最後まで読んでくれてありがとうゥ!評価、感想、ビシバシよろしくゥ!!
説教慣れしてる奴が一番アブナイ。




