表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/43

7 帰宅




「ただいまー!」


「おかえり~」


 家に帰るとまだ夕方時分なので働きに出ている両親二人は帰って来ていなかった。その代わりに昼まで寝ていた梓がボサボサの頭でリビングから返事をしてくれた。


「二人ともどこ行ってたの?」


「え~とね、新宿ってとこ! おっきなお家が一杯だったよ!」


「そーか~楽しかったかい?」


「うん!」


 梓は幼子の頭を撫でながらしんみりしたような声で言った。


「私にもこんな時があったんだろな」


「老けるにはまだ若いだろ、ほれこれ食え」


「え、なにこれ! ……ってその袋、この匂いは! ま、まさか!」


 紙袋を受け取ってガサガサと一気に開けるとそこにあったのは。


「ひゃっはーーー! ビックメックだぁぁぁぁぁ! 噓でしょ嬉しい!」


 歓喜して小躍りする妹を横目に雄太はリビングのローテーブルに自分達の分も広げて座った。


「あずちゃんどうしたの?」


「知らんが引きこもってたから久しぶりなんだろ」


「そうそう、そうなの! お母さんはそんなのより私の料理食べなさいってうるさいし、お父さんは興味ないから買ってきてくれないし! うおおおたぎってきたぁぁぁぁ!」


「遠くもないんだから自分で買いに行けばいいじゃんか」


「お金ないし、そのためにお金使わせるのもねぇ。他でわがまま言ってる訳だし」


「迷惑かけてる自覚はあるんだな」


「それはそー……だけどお兄ちゃんには言われたくないんですけど! どれだけ心配したかわかってる? 二人ともいなくなってから三ヶ月はかなり鬱っぽくなってたんだから!」


「そうか。俺だって好きで飛ばされた訳じゃないが、悪かったな。ひょっとしてお前が引きこもっている訳も俺が関係してるのか?」


「それは、あんまりないけど。今は言いたくない」


「おう、まぁ食え。ビックメックしか買ってないけど」


「全然いいよー! 私マヨネーズ持ってくるね!」


「んー」


 バタバタとキッチンに走る梓を見送って行儀よく待っていたクロエを撫で、ポテト、コーラ、ビッグメックを並べてやった。


「うわー凄くいい匂いするねパパ!」


「そうだろ? ポテト食べてみるか?」


「うん!」


 雄太が一本取って目の前にかざすと、パクっとクロエがそれに食いついた。そしてもさもさと口の中に入れて咀嚼すると笑顔になった。


「なにこれ美味しい! もっと食べたい!」


「沢山あるよ」


 そう言って雄太が入れ物ごとポテトを渡すが、クロエはフルフルと頭を振った。


「どうした、食べたくないのか?」


 クロエは無言で口を開けた。


「……」


「おいちー!」


 しょうがないのでまた口の中に入れてやると、クロエは美味しそうに頬張った。


「いやラブラブか! 付き合いたてのカップルかよ! かーやんってらんねー!」


 梓がやけになってポテトを食べ出したので、雄太も自分で食べ始めた。だがすぐに時間が経ってしまったことが味の変化に現れていることに気が付いた。


「ん、美味いがちょっと萎びてるな。よし」


 雄太が集中すると一瞬ポテト全体が淡く光った。その後で再びクロエに食べさせてみる。


「あ、こっちの方が美味しー! パパ、もっとちょうだい!」


「自分で食べれるだろ」


 そう言いながらもせっせと雄太はクロエの口にポテトをつまんで運んでやり、娘は小動物のようにもぐもぐする。


「あ、ほんとに美味しくなってる! なにそれ魔法なの?」


「まぁな」


「へーいいなー、私も魔法使えればなー」


「ダンジョンに行けば覚えられるだろ」


「それはそうなんだろうけど、外行きたくないし、ましてやダンジョンとか無理無理の無理」


「そんなんでよくクロエの服買ってこれたな」


「そーでしょー? 感謝してよね!」


「おう、なにかしてほしいことあるか?」


「ん~そう言われるとパッとは出てこないな。強いて言うなら私の部屋に防音室が欲しいんだけど、あれいいやつは何百万円もするんだよね」


「なんでそんなもん欲しいんだ?」


「夜中にホラーゲームやって絶叫してもお母さんに怒られないためです!」


「ふーん、要は部屋から音が漏れなきゃいいんだろ? はいできた、部屋に行って音出してみろ」


 パチンと雄太がフィンガースナップをしてそう言うと、半信半疑ながら梓は二階の自室に戻ってテレビを点けて、そのまま部屋を出た。するとどうだろう、出入口を境にして音が聞こえたり聞こえなかったりするではないか。梓は興奮して開けっぱなしの部屋に出たり入ったりしながら効果を実感してまた戻ってきた。


「凄い! 凄いよお兄ちゃん! あれどうなってんの! マジ凄い!」


「だから魔法だって言ってんだろ。足音も消えるから逆に部屋の中で倒れてても気が付かれないから気を付けろよ」


「うんわかった! これで真夜中でも関係なく通話や配信ができるよ、ありがとう! えいえい!」


「つっつくな、クロエが真似するだろが」


「パパパパ、えいえい! うふふふ♡」


「こらクロエ、もう食べさせてあげないぞ?」


「やーん!」


「じゃあほらやめなさい」


「あい」


「よくできました」


「あ~ん……おいち!」


「コーラも飲みな、炭酸抜けるから」


「これシュワシュワして甘ーい!」


「そうだろ」


「日本の人はいつもこんな美味しいの食べてるの? ずるい!」


「そうだぞ、そして今日からお前もずるい人の仲間だぞ」


「えーやったー!」


「ふぐぅクロエちゃん尊い、引きこもってどす黒くなっていた魂が浄化されていく……」


「なに言ってんだお前。ああクロエ、ビックメックは大きいから切り分けてやるよ」


「マヨネーズ付けて良い?」


「ああ良いぞ。ふふ、これでお前も宮本の子だな」


 三人はそれからもやいやい言いながらビックメックセットを楽しむのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ