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3 就寝




 お風呂から上がってきた雄太とクロエはパジャマに着替えてリビングでくつろいだ。


「いいね、クロエちゃんにぴったりみたい」


「おう助かった」


「お兄ちゃんは、なんかピチピチだね」


「身長はあんまり変わってないんだけどな。筋肉が付いた」


 雄太が腕を曲げるとムキッと上腕二頭筋が主張した。自分の服も買わないとなと言いながら雄太は風呂上がりのクロエの髪を撫で始める。


「それなにしてるの?」


「ん? あぁドライヤー代わりだ。手から熱風を出して髪を乾かすんだけど、クロエはこれが妙に気に入っててな」


「それっていわゆる魔法なの?」


「まぁそうだな」


「へーすごーい! 地味だけど」


 温かく心地よい風が吹いてきてクロエは満足そうにまどろんだ。座る位置はもちろん雄太の胡坐の上だ。


「そういえばこっちって今どうなってるの? まだ田無だよね」


「当たり前じゃない、東京都西東京市の田無町よ」


「西なのに東京市ってやっぱおかしいよな」


「お兄ちゃんそれ、もう百万回は擦られてるネタだから!」


「駅前のアプタってまだやってんの?」


「やってるやってる。地下の食料品店はいつも賑わってるよ」


「へーそうなんだ。そういえば俺の冒険者登録ってまだ生きてるんかな?」


「どうだろう、明日電話して聞いてみなさいよ。ていうかあんたまたダンジョン行く気なの? あんな目にあったのに」


「母さん大丈夫だよ、あれには色々理由があってそれはもう片付いたし、こっちでも働かないといかんしね」


「そんなすぐ働かなくてもいいじゃない、しばらくゆっくりしなさいよ」


「うんまぁそうなんだけどね。父さんはまだ六丁目のハチズンで働いてるんでしょ? 景気はどう?」


「ボチボチだな、最近は冒険者専用の高額時計が良く売れてるよ。有名人にアンバサダーを起用してるのもあってか、なぜが冒険者じゃない人もよく買っていくけどね」


「ふーん、今度見てみたいな」


「高いぞ? 百万代以上からだからな」


「家族割でよろしく言っといて」


「ふふ、そうだな。帰って来てくれて嬉しいよ、雄太」


「うん」 


「ちょっとちょっともーお兄ちゃんまたお父さん泣かせてるー、脱水症状で病気になっても知らないからね。そんなことになったらこの家は収入が無くなるんだから」


「あら私だって働いてるわよ。働いてないのは梓でしょ」


「ぐええ! 藪蛇だ!」


「そういやお前なんで働いてないんだ?」


「こっちからは直球がきた!」


「いわゆるニートよニート、いい年してパソコンの前にずーっといるんだからそっちの方が病気になるわよ」


「ふーん優雅だな、貴族みたいだ」


「そんないいもんじゃないわよ! 部屋にキノコが生えてるんじゃないかしら」


「ちょっとお母さん、言い過ぎだってもー」


 わちゃわちゃとした空気を感じていると、雄太は実家へ帰ってきたことを実感していた。その間クロエはテレビに興味しんしんだった。


「パパ、箱の絵が動いてるよ!」


「あれはテレビだ。録画した番組を放送してるんだよ。あそこに人が入っている訳じゃない」


「んーよくわかんない!」


「ふふ、まぁ何事も少しずつな」


「うん!」


「そういえばお兄ちゃん、なんでクロエちゃんは日本語がわかるの?」


「右手に腕輪をしてるだろ? あれ魔法の腕輪で言語を翻訳してくれるんだよ。他にも色んな機能があって、例えば……取ってみな」


「うん!」


 クロエが腕輪を外すとぴょこんと頭部から立派な角が二本飛び出した。


「うわぁ! なな、なにこれ!!」


「魔族の角は力の象徴だから向こうじゃ寝る時以外隠すなんてしないんだが、ここだと目立つだろ?」


「うわわ! すごい、異世界から来たってほんとだったんだ! さ、触ってもいいかな?」


「チュミ、ポヴァス、トゥシ?」


「ボーネ!」


「いいってさ」


「ありがとう! わわ、すごい立派。しっかりしてる」


「じゃあお母さんも」


「僕もいいかな?」


「ボーネボーネ!」


 結局家族一同が触ることとなり、突然帰ってきた息子の与太話がここにきて現実のものとなってきた。雄太はまた腕輪を付けるよう言うと、再び角は引っ込んだ。


「慣れると自分でも出し入れ自在なんだが、感情が高ぶったりすると出て来るから保険だな。日本語については普通に覚えていくだろうから、外した状態での学習も考えてるよ。ある程度できるようになれば学校に行かせようと思ってる」


「はーあんた、ちゃんと考えてるのね」


「クロエ学校行きたくない!」


「あらどうして? 友達出来て楽しいわよ?」


「だってパパと離れたくないから!」


 ひしっと雄太に縋りつくクロエの目は本気だ。


「こりゃ言い聞かせるのが大変だね、パパ」


「んーそのうち慣れれば親離れするだろ。するよね?」


「どうだろねぇ~」


 そんなこんなで無駄話をしながら就寝の時間となり、寝るところ問題が浮上したが結局居間に客用の布団を二つ出して並べることにした。雄太の部屋にベッドはあるにはあるのだが、一人用のパイプベッドなので幼児とはいえ二人では寝にくいのだ。万が一落ちると大変だということでこうなった。


「それじゃあ電気消すからね」


「あ、夕焼けにしといて。クロエが安心するから」


「ええいいわよ。じゃあまた明日ね」


「お休みおばあちゃん」


「はいお休み。ふふふ」


 予想以上に飲んだくれてヘロヘロになった父親は早々に床に入っており、ゲーム友達と約束がある梓も部屋に戻っていった。クロエの分の布団はあるが、彼女は当然のように雄太の胸元に潜り込んでいる。


「うちの家族はみんないい人だろ?」


「うん、お父さんが優しいのがわかった気がする」


「……そうか。明日新宿に行くけど家で待ってるか?」


「一緒に行く」


「たぶん退屈だぞ?」


「いいの、行く」


「お前がいいなら、そうするか。人がいっぱいいるからはぐれるなよ」


「じゃあ抱っこして!」


「赤ちゃんみたいだぞ」


「クロエ赤ちゃんだもん」


「都合のいい時だけ赤ちゃんになる」


 娘の頭を優しく撫でていると、安心したのかゆっくりと瞳が閉じられて、やがて寝息が聞こえるようになった。初めての日本でどうなるかと心配だったが、そんなことは杞憂だったと雄太は胸を撫で下した。


「お休み」


 雄太はクロエの頭に軽くキスすると、自分も目を閉じた。明日もきっと忙しくなる。

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