言いたい事は言ってから死にたい
「私と居て あなたは 楽しかった?」
「生まれ変わって どんなに辛い生活でも あなたとは二度と結婚したくない」
「あぁ、やっとね。やっと死ねる.........」
あら、死んだと思っていたのに生きてるなんて、最悪ね。私、こんなネグリジェ持って無かったのになんで?こんな若いデザイン、私みたいなおばさんに着せるなんて、あの人らしい。何も分かってないんだから。いつも店員に薦められるままに買って来て。自分で考えないし、私の好みも訊きもしないし。
体が動く?ここは何処の病室?こんな高そうな部屋に移して私のご機嫌でも取ろうって?こっちは三十年以上我慢しているってのに、無駄よ。
鏡を見て、初めて気づいた。「誰?っい」
自分が誰かと考えた途端頭が痛む。(私は、私は)
もう一度、鏡を覗く。
「リベラ・アクモラーン」
鏡に手をつき、呟く自身の名前。
自分の中のもう一人の人生が見える。言いたい事の一つも言えない引っ込み思案な、消極的で受け身の少女。私はこの子に生まれ変わっていたのね。リベラとして生まれ生きていた。
「逃げたのね、リベラ」
ずっと、自分で言いたい事、言えないそんな自分から、内なる私へとスイッチしてしまったという訳
ね。私に託したの?いいわよ、やってあげる。私が、我慢するのはあの人に対してだけ。だから任せて。
「もう、具合はいいのか。しっかり療養しなさい。」
ディナーのダイニング。倒れた私が四日振りに部屋を出たことに父からの一言。一見普通の家族のようだ。
「嫌だわ、お姉様、突然現れて、勝手に同じテーブルにつくなんて。お父様が医者の手配をしてくれたからって私達と食事をしていいことにはならないわ」
「そんな言い方は止めなさい、ベル」
「あなたは、少しベルに厳しいのではないかしら?」
「ダン」「カラカラカラーン」
ベルと義母の間をデザートナイフが飛んで行き、床に落ちた。
「あら、ごめんなさい。病み上がりで手元が狂ったようで」
「ヤダ!何するの!ひどいわ、お父様!お姉様なんて牢か地下室にでも閉じ込めてしまってよ。」
「そうです。あなた、こんな娘、要らないといつも言っているじゃない」
給仕のメイドが代わりのカトラリーを用意する。
「やめろ!滅多な事を言うな!」
「ダン」「カラカラカラーン」
「きゃー何なのリベラ止めなさい」
義母は金切り声で喚く。
「さっさと嫁にでも行って、出て行ってよ」
私は、妖しく笑い義母を見据えた。義母は一瞬、恐怖を覚えたがすぐ顔を真っ赤にして怒りに染まる。
「あら、知らないのね、この家の当主は私よ」
「止めなさい、リベラ。分かったから」
父は、見栄から本当の事を再婚相手に黙っているのだ。
「いいえ、私も今年成人します。遅かれ早かれ後、数ヶ月先には分かることでしょう?」
「ど、どうゆうことなの?リベラが当主?」
義母は、怒り顔のままで父を見た。そんな顔を向けられ父も怒り出す。
「うるさい!お前には関係ない」
「関係無くないでしょう?私は、貴方の何なの?」
「フフ。お義母様は父の後妻ですよ、間違いなくね。でも、アクモラーン伯爵夫人では無いの」
「は?」
「お姉様、訳の分からない話で煙にまこうとしていらっしゃるのね。」
義妹は、考えるのを早々に止めたいらしい。バカな娘。
「母が亡くなった時、まだアクモラーン伯爵はお祖父様だったのよ。そして、母は一人娘だったのお祖父様のね。お祖父様は、当主を一人娘の一人娘に継がせると宣言されて、今は田舎で領主の仕事だけをまだ続けているわ」
父はテーブルに肘をつき頭を抱えた。
「それってつまり...」
義母は、赤い顔を青くしていく。
「当主は私よ。父は私が成人するまでの代理。お給料制でやって貰っているわ」
「じゃあ、この間ドレスも買って下さらなかったのは...」
「そんなお金父にある筈ないでしょ」
父の体が小さくなっていくように見えた。
「じゃあ、私はどうなるの?」
義妹は不穏な雰囲気だけは感じとったようだ。
「私の、機嫌を損ねるようなら、出て行って貰うから。後、贅沢も許しませんからね」
私は、笑顔で言いたい事をしっかり伝えて、食事を続けた。義母は、具合が悪くなったと部屋に戻った。
この料理、病み上がりの体にはちょっとこってりし過ぎじゃないかしら?
食事を終え、項垂れる父を置いて部屋に戻った、私に従者が問うた。
「よろしかったのですか?これまで我慢していらしたのに」
何?我慢していることに意味があったと思っているのかしら?それはこのリベラがただ言えない性格だっただけだ。
「いいのよ。言いたい事を死ぬ間際まで我慢したくないのよ。」
「死?!?!左様ですか。...確かに後悔は無い方がいいですね」
私の母は二十五間近で亡くなった。私も若くして亡くなると言っている様に聞こえたのだろうか?
「もう、休むわ」
「ハイ、失礼致します。おやすみなさいませ」
翌朝、ダイニングには誰も現れなかった。
執務室に入り仕事を始める。ここにも父は来ない。積み上げられた釣り書を従者に預ける。
「簡単な茶会を開いて全員をお招きしてくれる?日程は貴方にまかせるわ」
「畏まりました」
従者は、釣り書を抱え出て行った。私にはまだ婚約者がいない。当主を正式に受け継ぐまでには決めてしまいたい。
茶会の日。
「本日はお招きありがとうございます。あの、リベラ嬢とお呼びしても?」
「ええ」
「アクモラーン伯爵令嬢リベラ様、今日はお招き…」
「お初にお目にかか...」
順に挨拶に並んでいる一人一人と簡単な言葉を交わし、席に着いてもらう。席は決まっている。家柄ではない。性格や好きな物を系統立て、グループ分けしてある。話が振りやすいようになっている。順にテーブルを周り、話を聞いて相槌しながらメンバーを見る。率先して話すもの、それを広げているもの、それを聞いて首肯しているもの、意外と否定的な意見を出すもの。私にばかり質問している者もいる。どのグループもそんな感じであったが、全く何も話さず優雅に紅茶を飲んでいる男が居た。話を聞いてさえいない様なその男は、名前が出て来ないが、侯爵家の者だったような気がする。このグループは、剣が趣味だと言ってしまうような脳筋グループだが、真面目に取り組んでいる者ばかりで話は弾んでいた。少し、気にはなったが話に参加しないなら放っておく。
一通りテーブルを廻り、この後の流れを話す。
「皆さんの手元にはご自身の釣り書が渡されたかと思います。今日、私のお茶会に参加して、私と良い関係を築いていけると思われ、私との婚姻を望まれる方はその釣り書を開いて私に渡して下さい」
釣り書の姿絵は実物より、良く書かれていることが大半で釣り書を見て本人の顔を思い出せることは少ない。釣り書より、本人の顔と本人の意思が知りたかった。
前世では、主人に蔑ろにされていた。今世は、しっかり愛されたい。私自身が望む形で愛してくれる人がいい。言いたい事は、お互いに言える関係で私がもう止めてと言いたくなる程甘いのがいい。愛など囁かなくても伝わるだろうなんて日本人な人とは絶対結婚しない。会話に参加しやすいだろうグループに分けたのは同性と好きな物の話で参加しないような人ならきっと愛していても、何も言ってくれなさそうだと考えたから。そんなタイプだった人は、この場でお断りする。ほとんどの人が釣り書を渡して来たが、消極的なタイプと実物があまり好みではないタイプは断った。その中に、あの話を聞いていなかった男もいた。
「なぜ、断られるのか、お訊きしても?」
その男は、挨拶以来久しぶりに声を出した。
「私の理想の結婚相手ではないからです。ごめんなさい」
「私がシーグオイ侯爵家であってもですか?」
この男は実家の爵位がこの中で一番上であった為、あんなに余裕な態度だったのかもしれない。
「えぇ、ごめんなさい」
私が再び断ると、彼は不敵に笑う。
「では、また、リベラ様」
彼は、優雅に礼をし釣り書はテーブルに置いて帰って行った。開いて置かれたそれは、本人とそっくりに描かれた美しい黒髪の青年だった。
釣り書を受け取った、四人だけで応接室に移り話した。残した者は皆話し上手でこなれている印象だ。自然に話は弾んだ。楽しかった、そう思う。婚姻の相手とならずとも友人になれたらいいと願う。
その日の夕食後、部屋に戻るとまたも従者が問うのだ。
「あの、四人の殿方の中に意中のお方を見つけられましたか?」
「いいえ、まだよ」
「どのようなお方をお探しで?」
従者は開いたままのドアを背に後ろで手を組んで立っている。後ろに何か隠しているような不安を感じる。
「私を愛してくれる人に決まっているわ」
「それは、分かるのですか?」
「分かるはずないでしょ。だから、ちゃんと言葉で態度で表現してくれる人がいいの。もう、いいかしら?休むわ」
「失礼しました。おやすみなさいませ」
従者はドアを閉め出て行った。
何なのかしら?お祖父様からのお目付け役か何かかもしれないわね。
「失礼しました。おやすみなさいませ」
私はドアを閉めお嬢様の部屋を出る。
『あぁ、やっとね。やっと死ねる.........』
そう言って死んでいった妻。その言葉が最後だった。妻に最後に愛してると伝えたかったが、彼女はもう息を引き取った後であった。もっと、早く伝えておけばよかった。何度も繰り返し後悔して、伝えられなかった言葉を彼女の亡骸にすがり付いて叫んだ。彼女を苦しめたくせに自己満足も甚だしい。言わずとも分かってくれているだなんて甘えた自分が馬鹿であったと知った。その時の後悔の為だけに、彼女は早く死にたがっていたのではないかと考える。彼女はそれ程に私を愛していたんだと自惚れてしまう自分に反吐が出る。でも、確かめたい、伝えたい、自身の死を迎える時。
〈ならば行きなさい。彼女はそこに居ます〉
映し出された女性は外国人のようだが妻の若かりし頃そのままである。また、会えるなんて。しかし、彼女は何も覚えていない別の人間だった。
妻は美しかった。初めて逢ったその時から太陽そのものであらゆるものを照らす光であった。妻はとても人気が有り、いつも恋人が居て私の入り込む隙など無いように思えた。ただ一度、必ず幸せにするから結婚して欲しいと頼んだ。彼女はそれを何故か受けてくれた。それなのに、
『生まれ変わって どんなに辛い生活でも あなたとは二度と結婚したくない』
そんな事を言わせる程に不幸にしていた。死ぬべきは私だった。
新しく生まれたのなら幸せになって欲しい。
そしてその頃シーグオイ侯爵家では。
「どうすれば、どうすれば、」
「少し、じっとしてお考えになられては、いかがですロイル様」
アクモラーン伯爵邸より戻るとずっとこの調子のロイルが居た。
彼女は僕を断ったのだ。失敗した。何がいけなかったのかわからない。
彼女に会ったのは、初めてではなかった。二年前に一度会っている。彼女のデビュタントは妹と同じ日でロイルも付いて行った。妹は、当時太っていた僕が近づくことを嫌い、パーティーでは決して家族を装うのは止めてと強く言われていて、一人庭に出ていた。明るい庭で自分の居場所はここにも無いと感じながらも隠れていた。そこに、リベラは後からやって来た。彼女は大きなため息を吐いてヒールを捨て裸足で芝を歩いていた。僕と目が合うと立ち止まり、斜め下を見て
「何も見なかったことにして下さらない?」
そう呟いた。
「あぁ、わかった」
「そう、ありがとう。ところで、ここで何をしてらっしゃるの?」
「隠れている」「何のために?」
「妹の機嫌を損ねぬように」「フフそれは大事です」
「だろ?君こそデビュタントなのに、何をしているんだ?」
「フフ、芝で足を冷やしているのよ」
「確かに気持ち良さそうだね」
「やってみる?」
「あ、いいよ、僕は」
「そう?ご馳走は食べた?」
「いや食べてないよ。妹に怒られる」
「私もまだよ。食べに行かない?」
「せっかくだけど、やっぱり僕はいいよ」
「そうなの、食べるの好きそうなのに?」
「太ってるって言いたいのか?まぁ、そうだけど」
「太ってるわね。でも、悪いことなの?沢山食べれば太るのは当たり前よ」
「そうだよ。食べ過ぎだ。ハハ」
「食べるのが好きなら太っていても、気にしないものなんじゃない?」
「僕はいいけど、周りが気にしてる」
「周りの人と自分の好きな物を比べて、妹を取ったのね。優しいお兄さんなのね」
「優しい?僕が?」「えぇ、そうよ。私なら嫌だわ」
「そうなの?君こそ優しそうなのに」
「そう見えるなら、見た目詐欺ね、私は言わないだけで、酷いこと頭の中では言っているの」
「言いたい事我慢しているの?やっぱり君は優しいよ。相手を傷つけないように我慢しているんだね」
「...ホント、一緒ね、私達」
「...一緒じゃないよ。君は見た目もキレイだ」
「そう?ありがとう。私は甘い物好きだからダイエットをいつもしているの」
「いつも?」
「えぇ、休みはないのよ。その分、ご飯の代わりにケーキを食べちゃうわ。フフ」
「凄いね」
「そろそろ行くわ。お祖父様が待ってるから」
彼女はヒールを履き何もなかった様にすたすたと去った。
「ダイエット...」
彼女の後ろ姿を見ていると、痩せたいと思った。
それからロイルは運動をし、剣も習い二年で見違えるようになった。今では、パーティーで、ご令嬢方に囲まれることもある美丈夫である。釣り書を出したが素気無くされたご令嬢にまで囲まれる程だった。しかし、その中にあの娘は居なかった。ある日、パーティーで見かけ、こっそり名前を調べた。リベラ嬢、アクモラーン伯爵の令嬢かぁ。そう、知ったのはついこの間。突然リベラから茶会の誘いがあった。すぐに、行くと手紙を返した。父が手当たり次第に僕の釣り書を以前、出した結果である。
茶会は、男だらけであった。これまで、男にも馬鹿にされてきた為、実は女性よりも苦手だった。それでも、僕が一番爵位が上だったので、この茶会は穏便に僕を選ぶ為の茶番なのだと、勝手に解釈していた。それなのに、断りの返答だった。訳がわからない、イヤ、彼女は僕に気付いていない。気付いて欲しいが変わった僕を見て欲しいと思えた。
もう一度会わなくては。
執務室にて仕事中にノックされ許可を出す。今日は父も仕事をしている。
「リベラ様、お客様でございます。」
「そう?誰?」「シーグオイ侯爵令息です。」
ふーん。何か企んだ顔をしていると思ったらアポ無し訪問かぁ。予想のまんまだね。
「わかったわ。後少し待ってもらって。」
リベラは特に急ぐわけでもなく、今取り掛かっている書類を終わるまで仕事をした。
「待たせたかしら?」
部屋に入ると前回見た姿と同じく優雅に紅茶に口を付けていた。
「いえ、まだ三杯目です。」
あら?言うじゃない?彼は、思っていたより言いたい事は言う性格のようだ。
「ただいま、お茶のご用意をして参ります。」
案内して従者は、部屋を後にする。
「今日は、何かご用がございまして?」
私は、お茶を待たず、本題を投げる。
「リベラ嬢と、もっとお話がしたかったのです。ゆっくりとケーキを食べながら。」
そこにノックが従者とメイドがお茶をセットしているが、ケーキが多いよ!従者をちらっと見ると
「シーグオイ侯爵令息ロイル様よりケーキを頂きました」
そう、告げる。お持たせね。それにしても多い。
「申し訳ない。ケーキが好きだとおっしゃっていましたが、何のケーキが好きなのかおっしゃっていなかったので、お店で全種類買って来たのです」
「私が、言ったのですか?」「えぇ。」
ロイルは少し不安気に相槌をうち、こちらを覗く。優雅は何処に行ったのかしら?私は、彼に会っているのね。前のリベラの時なんだろう、思い出せない。しかし、ケーキに罪はない。しっかり味わう。
うん、どれも美味しいけどやっぱりシンプルなのが好きだわ!
「ショートケーキがお好みですか?」
「いえ、何れも美味しいわよ?食べないの?」
「ハイ、頂きます。あの時も貴方とご馳走を食べに行ければよかったのですが…」
そう言ってロイルはフルーツタルトを口に運んだ。ご馳走?ケーキ?リベラの記憶を辿るが思い出せない。
「そう?それっていつの話?」
「貴方のデビュタントの日の事です」
リベラの記憶の中に該当するものがあった。しかしロイルの姿が違うようだ。
「どうして?違う人に?」
自分の中身が変わっている為、外側が変わった人だっているかもしれない。
「ハハ、違う人ではないですが、あの日生まれ変わった様なものです。あれから僕もダイエットしてみました」
「妹さんの為にそこまで頑張るなんて、やっぱり、優しい人ですね。」
自然に笑みが溢れた。私は、妹なんて見捨てて構わない、要らないとすら思っている。そんなに、大切に出来る妹なら私も欲しかった。
「いえ、妹の為ではなく。その、...リベラ嬢に釣り合うようにと、頑張りました。」
顔を赤くして下を向き、最後の言葉はギリギリ聞こえる程尻窄みであった。
「そうだったの?それは気付かなくてごめんなさい。」
「いえ、あの?どうでしょうか?」
?あ~
「とても素敵になられたと思いますよ!」
ロイルは目に見えて復活した。可愛い人だわ。
「フフ、気が変わりました。」
私は手元に有る釣り書を出し
「こちらは受け取りますわ。」
そう笑って言った。
その日からはロイルからのプレゼントや手紙が毎日のように届くようになった。そこには、必ず愛を伝えるメッセージが添えられていた。自分の中でも、心待ちにしているのが手に取るようにわかった。
「リベラ嬢、貴方を夫として支えるのは僕で有りたい。生涯傍に居てあなたを守ります。愛しているから。どうか僕の手をとって欲しい。」
目の前に跪いたロイルが居る。花束を差し出しそうプロポーズしてくれた。私は、それを受け取った。
「えぇ、こちらこそよろしくロイル。」
それから、ロイルは毎日のように私に愛を囁き、いつも私を求めてくれる。理想の旦那様で有り続けた。
「ロイル・シーグオイ様、少しお話よろしいでしょうか?」
リベラの従者がアクモラーン伯爵邸を出ようとしたところ声を掛けてきた。
「ああ、構わない」
「ありがとうございます。リベラお嬢様の好みの男性像をロイル様にお伝えしたく」
「主人の事を他人に話すのか?」
雇い主の事を話す様な従者はろくなものではない。
「リベラお嬢様の幸せの為です。」
「リベラ嬢の幸せ…」
自分が彼女を幸せに出来るのなら、願ってもない話だ。ロイルは飛びつきはしないものの、じっくりと従者の男と話した。
ロイルはその話を大事にした。彼女の為に生涯。
「リベラお嬢様の幸せの為です」
そう、妻が今度こそ幸せになれるなら、私の伝えたい胸の内を言葉にするのが、私である必要はない。
君がもう、私とは結婚したくないと言った、そんな願いしか叶えてあげられないから。