表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/171

意外と役に立たないバージニア?・2

逡巡するケント伯に、バージニアが穏やかに声をかける。


「差し出がましいことを申し上げますが。ケント伯は十分な供応ができないと案じておられるのでしょう。ですけれど、こうお考えになってはいかが? もてなしが不十分であることの言い訳に『何ぶん急なことで』が使える、と」


ここで、ふふっと笑う。

「時間があればあるだけ、準備がいりますわ。そしてこの上なく高貴な方を屋敷でお迎えする場合、どれだけ入念に整えても足りるということはないのです」


 これもまた、説得力がある。殿下は微苦笑をもって肯定となさった。


「野営よりはいくらか良好かと存じます」

ケント伯の謙遜は甚だしい。



「本来なら今夜も帰途であったのだから、豪華な晩餐も必要ない。皆、気が動転していると思うけれど、今夜のうちに事の一部始終を聞きたい。非公式訪問とも言えない『密会』だね」


 公式訪問はとても名誉なこと。お忍び訪問は、人に「うちに殿下がいらして」と自慢できないから、格で言うなら下がる。


 そして「密会」なら、使用人も最小限にする。どこで知った知識かと問われれば、大きな声では言えない。

アリスだった頃に夢中で読んだ恋愛小説からの受け売り。



今度こそ急ぎ立ち去るケント伯を、殿下は引き止めなかった。









 私の首には、血の滲んだ三本の引っかき傷が出来ていた。射抜かれた際にエミリーさんの爪によってついたものだと思う。


 目にした範囲ではエミリーさんの生活の痕跡はなく、この傷だけが彼女の存在を示す。


「跡が残らないといいけれど」


停めた馬車のうちで薬箱を開け、バージニアが傷の手当てをしてくれた。


「若いので新陳代謝がいいから、大丈夫なんじゃないですか」


 日本に戻ればこの体ではないし、とちらっと頭をかすめる。



 遅れて殿下が馬車にいらした頃には、私の首にはハンカチがネッカチーフのように巻かれていた。キャビンアテンダントのようだと思ったのは内緒だ。


「痛む?」


尋ねる殿下のほうが、よほど痛そうな顔をなさっている。


「それほど。すぐに治ります」

「女の子の首に、すまない」


 何をおっしゃる。私は思わず顔の前で手を左右に振った。


「助けてくださって、ありがとうございました。でも、よくお気づきになりましたね」



 そう聞けば、教会へ寄ったのは予定した行動だと教えてくださる。


 ケント家の馬車が停まっていると、ライリーさんが伯に報告。「祈りの司祭と面会して長い」と聞いて部屋を訪ねたらしい。


 その間に殿下は「もしや竜巻がおこるのでは」と危惧し、外を見回っていたところ、争う私達を見つけ――矢を放った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ